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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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掟、色々書いてる

 部屋に戻ってから昨日もらった掟を読んでいた。


 部長が読み上げたのは確かに一部に過ぎず、ページの後半は楽器やサークルで使う機材の取り扱い方が書かれていた。

 他にも今年度の行事予定や練習時の諸注意、最後のページには先輩達の名簿があった。

 それぞれの担当楽器も書かれていて名簿を見る限り、2年生が4人、3年生が3人、4年生が2人で院生はいないようだが、この内何人が留年しているんだろうか。


 確かに掟の内容からして縛りが強そうだし行事も多い。

 市内で開催される祭りではほぼ全て足を運ぶことになりそうだし、それ以外でも合宿だったり他の大学との合同ライブだったりとなかなか忙しそうだ。

 留年してる人が多いのにも納得してしまうが、お前ら勉強しろとしか......。


 機材や楽器の取り扱い方に関してはかなり細かくイラスト付で書いてある。しかも手書きを印刷したもので。

 どれもこれも部費で買ったものだろうから、大事に使わないと殺されそうだな、高校の軽音部もそれなりに機材があったからこことは良い勝負なのでは。

 違いといったら顧問が居ないことだよな、だからこうも自分勝手なルールが作れるのだろう。


 そして俺は一つのページに目が行った。


 ''部費は前期、後期の開始時にそれぞれ1万円徴収します。どうしても足りない場合は申し出ること、それでも払えない場合は退部してもらいます。''


 ふざけんな。


 正直俺の手持ちはかなり厳しい。

 家庭事情が複雑過ぎるが故に月毎の仕送りは非常に少なく、節約・自炊をしないと1ヶ月生きていけない位まで追い込まれている。

 ましてや留年でもしたら、滝上家の金銭事情からしてこれ以上追加の学費を払えるわけがないのでその時点で大学を辞めなければいけなくなる。

 いくら入試の成績が良くて学費が免除になっても、4年分の猶予しか与えられてないから、追加で1年は何が何でも不可能なのだ。

 院に関しては、進めるほどの学力はあっても時間が勿体ないから行く気は無い。


 このような状況なのに前期後期で合計2万円払わなければならないなんて、今のままでは不可能である。

 いずれバイトしようとは思っていたけど、バイトは大学生活にある程度慣れて時間の使い方が計算出来るくらいになってからにしようと思っていたのだ。


 だが状況が一変してしまった以上、やることは一つ。

 キャンパス内にアルバイトの求人票がびっしり貼られてる場所があるらしいから、近いうちに見に行くべきだ。今後のためにも。

 バイトすることになったら、勉強、サークルとの両立を上手くしなければならないけれども、あの掟から判断するとそんなにバイトする時間なんてないのでは? 活動は基本全員参加だからバイトなんてさせる気はないだろうし。

 俺としては金がないとサークルどころか今後の生活に大きく響くからもう始めてしまった方がいいのだろうか、部費を徴収するとしたら次の部会になるだろうし。

 俺に残されてる選択肢と言えば、

 

 ・サークルを辞める

 ・バイトする

 

 の二つだろう。


 因みに前者はNOだ。

 せめて音琶とバンドやる間は続けた方がいいだろう、仮に辞めるとしたら前期が終わってからだ。それまではあいつらには黙っておく。


 やっぱりバイトするのが最善だ、求人票見て自分に合いそうな所を探すのが良さそうだけどそれはここ以外のサークルの人にしかこの話は通用しないだろう。サークルの先輩にどんなバイトしているのかを聞くのが賢いやり方だろうな。

 音琶や日高、池田さんはこの掟を一通り読んだらどう思うだろうか、俺と同じようなこと考えてたら心強いけど、金の事情に関しては俺ほど深刻じゃないだろうな、部費高いけどさ。


 それに、日高と池田さんのことも下の名前で呼ばなきゃいけないんだよな。




 4月20日


 日曜日ということもあるし、キャンパス内でも廻るか。

 先週分の授業の復習は昨日全て片付けたので、今日は一日中自由なのである。

 広すぎるキャンパス内では未だ足を踏み入れてない場所があるわけだし、求人票もどのようなものがあるのか確かめたかったのもある。

 求人票は北側の学食の中に貼られているらしい、取りあえずそこに向かうことにする。


 それにしても、キャンパス内はもう何回も歩いてるけど目を引く物が多い。

 壁が煉瓦造りになっている建物、所々に置かれているベンチ、体育系のサークルが使うであろう体育館やグラウンド、等々。

 この大学もかなり時間と金を使ってここまで成り立っているということが窺える。もしかしたらサークルの方もそれを真似てるのかもな、俺には関係ないことだけど。


 学食の入り口前に掲示板があるのを見つけ、聞いた通りバイトの求人票がびっしり貼られていた。

 これだけあれば俺に合うバイトが見つかるかもしれないし、鳴成市のように栄えている都市だとなおさらバイトができる環境があるだろう。

 50以上はあるであろう求人票から俺に合いそうなバイトならいくつか見つかった。


 一つは駅前にある牛丼のチェーン店、時給は850円で週一からでも可能。

 場所によっては交通費支給。


 他と比べると時給が安めなのが欠点だが、週一でもいいということはそれなりにサークルの事情に合わせてくれるだろう。

 交通費も支給してくれるみたいだし。まあ歩いて行ける距離だからそこは気にするほどでは無いが。


 二つ目は駅前のドラッグストア。これもさっきと同じような条件で時給は840円。

 ここは仕事の内容まで書いてあるけど、商品の補充だったりポップの入れ替えだったりとかなり楽そうである。

 時給低いけどな。


 三つ目は大学付近にある居酒屋。時給は950円と高めで、ここは最低でも週3は必要のようである。

 もしどうしても週3はきついから多くても週2にしてもらえないかと頼んで、話が分かる人だったら入ってもいいかもしれない。

 大丈夫、世の中そんなに甘くないから。


 やっぱり少ない労働時間で多くの金を稼ぎたいのだ。

 1日24時間は俺にとって足りなすぎる、それをどう上手く使うのか考えるためにも、バイトもしっかり選ばなければならない。

 今ここで決めるよりも先輩に聞いてみてからにするか? とりあえず気になったバイトは全部写メ撮っておこう。


 ・・・・・・・・・


 結局部室に向かっていた。

 もしかしたら先輩にバイトのことで色々聞けるかもしれないと思ったからだ。 

 因みに俺はまだサークルのLINEグループには参加していない、きっと部費を払ってから参加できるシステムなのだろう。

 せめて部員個人のアカウントくらいもらいたいのだが、昨日鈴乃先輩に聞いておくべきだったな。


 部室に着くといかにも初心者とばかりのベースの音が響いていた。

 弾いているのは池田さんで、先輩に教わっている所だった。先輩の名前は掟の名簿から判断すると、ベーシストの男子は一人しか居ないから3年の亀田浩矢(かめだひろや)先輩だろう。


 ベースを弾いている池田さんは今まで見たことないような真剣な顔をしていた。割と本気でバンドやるつもりなのだろう。

 だとしたら俺も練習したほうがいいのかな。


 やがて池田さんは俺に気づき、練習を中断してこう言ってきた。


「あ、夏音君、来てたんだね」


 池田さんに下の名前で呼ばれた。浩矢先輩も俺に視線を向けている。

 この人3年生らしいけど留年してんのかな。


「もう少しで終わるから、ドラムやりたかったらもうちょっと待ってろ」


 浩矢先輩にそう言われたが、ドラム叩くためにここに来たんじゃないんだよな。

 まあ折角だしちょっとだけ叩いて帰るか。


「いつでも待ちますよ、ちょっとうちのバンドメンバーのベース見てみますね」

「ひゃっ!!」


 池田さんは俺の言葉に驚いたのか、顔を赤くして俯いてしまった。


「夏音君経験者だから......、緊張する......」

「大丈夫大丈夫、俺も経験者だから」


 浩矢先輩がフォローしたけど、それ多分フォローになってない。


「まだ俺結羽歌のベース聴いたことないから良い機会だと思って」


 さりげなく下の名前で呼びながら言った。


「うう......、まだ弾いたばっかなのにぃ......」


 更に顔を赤くしていたが、渋々結羽歌はベースを弾き始めた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 音楽の知識があまりなく、難しいシーンも多かったですが内容が充実していて、ストーリーも個性的でおもしろく読めました。黒髪ツインテールの子がよかったです。心理の変化が魅力的でした。
2019/11/22 12:24 退会済み
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