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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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指摘、受けるべき誘い

 レポートに書かれていたこと。琴実にさき言われたことも、言われなかったことも書き連ねられていた。他の奴らは全体の半分くらいしか書かれていなかったのに、俺にだけ、ほとんど文句のように書かれていた。


「琴実、別に何を書こうがお前の自由だ。こんなこと書かれる俺自身の実力というものに不備があったのは確かだな。でもな、『そんな演奏するくらいならバンドなんて辞めた方がいい』ってどういうことだよ」


 紙の一番下の部分、そこにそれは書かれていた。思わず二度見したが、見間違えでも何でも無かった。


「確かに俺は一度バンドを辞めた身だ。でもな、今こうして音琶がいる以上辞める気はねえ。てめえにそんなこと言われる筋合いなんかねえんだよ」

「そうかもしれないけど、それだとまるで人に言われてやっているみたいにしか聞こえないのよ。自分からやろうと思ってやってるわけじゃないでしょ?」

「音楽やってる人間全員が自分からやろうなんて思ってるわけねえだろ」

「そうね、でも夏音の場合は少し違うのよね。あんたにとって音楽ってのがどういった価値のものなのか知らないけど、だからといってあんなやる気の無い演奏していいと思ってるの?って話よ」

 

 音琶にも言われたことだな。あいつは最近あまり言わなくなったものの、未だに俺の演奏について不満を感じているのだろうか。ライブが終わった直後は『楽しかった』とは言っていたが、あれもその時の空気でそう感じていただけなのだろうか。


「鳴香から聞いたけど、あんた練習一度飛び出したことあるみたいじゃん?その時音琶が凄い心配してたって話よ。最近音琶が夏音の演奏について言わなくなってきたのは、もうあんな想いしたくないからなのよ」

「どういうことだよ」

「音琶はあんたと楽しく演奏がしたいのよ、でもそんなことされても嫌な想いするだけじゃない。もう二度とあんな想いしたくないから、音琶は夏音に指摘しないように心がけてるのよ」

「そんな話聞いてねえよ」

「そうね、音琶が直接言うとは思えない。あの子私に相談してきたのよ?」


 いつの話だよ、まあ流石にあれは俺が悪かったとは思ってるけども。


「音琶、ジャズ研のライブ見た時、自分のバンドと比較して色々考えたみたいよ?」


 一昨日ジャズ研のライブに行く途中の音琶に会ったよな、まさかあの後そんなことがあったとは。あの時は結羽歌と喧嘩中だったからこいつに相談したという訳か。レポートだって短時間とはいえ一緒にやったわけだし、琴実が何を書いているのか見たのだろう。

 音琶から見ても琴実の俺に対する感想は衝撃的だったのだろう。それでもあいつは、焦らずに平静を保っていた。今までだったら『特訓するよ!』みたいな感じで勝手にメンバーを巻き込んでいきそうだが、それを匂わすような発言もなかった。

 ライブの時の『楽しかった』という言葉は、演奏のことは関係なく俺とライブができたことの喜びを表していたのだろう。俺はその言葉を別の意味で捉えていたということか...。


「夏音はさ、音琶の為に音楽やってるみたいなこと言ってるし、それが嘘だとも思わない。でもね、音琶のことは愛せても音楽のことは愛せてないのは、私でもわかるから」

「ああ、そうかもな」

「先輩達は夏音がプロ並みに上手いとか言ってるけど、はっきり言ってあいつら馬鹿だと思うわよ。結局実力があってもやる気がなかったら意味ないって事。あの人達、私や音琶と違って実力しか見てないからあんなこと言えるのねって思う。本当に音楽やってて楽しいのかしらね」

「俺はあいつらと同じってことかよ」

「そうとも言えるわね。本気で楽しもうって気持ちが伝わってないし」

「......」


 琴実の言葉を真に受けるべきかはわからないが、音琶にも言われた言葉が飛び交っている以上、いい加減俺も危機感を覚えた方がいいかもしれない。だが、それをどうすればいいのかは見当が付かない。


「誰かからバンド誘われたりしてないの?」


 不意に、琴実は新たに話を持ち込んできた。

 

「泉と、茉弓先輩には声かけられてる」

「それにはなんて答えたのよ」

「特に何も、断ってはいねえけどな」

「あんたね...」


 さっきの話の流れからか、呆れ顔になる琴実。ここは組んでおけとでも言いたいのだろうか。


「俺だってそんな暇なわけじゃねえ、全く組んでないわけでもねえし、今のやつでもそこまで悪いとは思ってねえ」

「確かに、夏音は音琶無しでは演奏できるかどうか怪しいわよね」

「は?」

「『音琶が居る以上辞める気は無い』、夏音はさっきそう言ったけど、それで音琶が喜んでくれると思う?」

「そんなの俺に聞く話じゃねえだろ」

「音琶は、夏音が音楽を楽しめるようになって欲しいって言ってた。音琶とじゃないと音楽できないってのはおかしいと思うし、他にも色々バンド組んでみて感覚取り戻していった方がいいと思う。そうしないと、あんたは何も変わらないだろうし」

「......」

「だから、鳴香や茉弓先輩の誘いは受けるべきよ、音琶だってそう願っているはずよ」

「どうかね、あいつは俺が自分以外の誰かと組むのは嫌がりそうだけど」

「夏音...、あんた音琶のこと何だと思ってるのよ...」


 呆れ顔を崩さない琴実だが、やはり俺の考えはおかしいのだろうか。そんな常識さえもよくわからなくなっている以上、どうしようもない気がするが、少なくともバンドの誘いはそろそろ決断下した方がいいとは思っていたからな。あまり待たせるのも良くない。


「次の部会まではどうするか決めるから、それでいいだろ。そもそもお前が俺の事情に深く関わる権利なんて最初から無いはずだ」

「そうね、それでもちゃんと私の話聞いてくれたじゃない、そんなに音琶のことが大事なのね」

「...大事じゃなかったら、付き合ったりしねえだろ。それに俺は人の話はしっかり聞く性格だからな」

「そう、そういう所は素直になれたのね」

「うるさせえな...。とは言っても、レポートに書くべきとこは書けそうだからな、お前の指摘には形だけでも感謝しておく」

「相変わらず上からなんだから...、まあいいわ、ちゃんと感謝なさい」


 自信ありげにそう言った高島は、レポートに取りかかり始めた。一応、泉のバンドの方は組んでやってもいいかもしれないな。だってあいつ、琴実と仲良さげにしているわけだし。

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