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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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意識、探っても分からない

 ***


 7月8日


 一度練習してみて自分に出来ていない所を探してみるとするか。ライブの時は周りの音を聴けていたから上手くいったように思えたが、未だによく分かってない部分がある。

 演奏中に意識が飛んだ。その間、自分がどういった演奏をしていたのかが分からない。音琶はそこについて文句を言ってなかったから、もしかしたら良いように出来ていたのかもしれない。だとしても、俺としては今までこのようなことが無かったから違和感しかないし、納得いかない。だからこそ一度同じ曲を練習すれば、この前と同じようなことが起こるのではないかと考えた。

 適当にセットを叩きやすい位置に調整し、ライブの時の感覚を思い出しながら叩き始める。1曲目はギターソロの間、2曲目は最後の方全体。何か条件が合ってこのようになっているのかがわからないが、少なくとも大事な場面ではあったと思う。曲の最大の見せ場といっても過言ではない部分だろうか、それを言うのは少しばかり大袈裟な気もしなくないが。

 1曲目を一通り叩いても、演奏中に意識が飛ぶことは無かった。あの時とは状況が違うからなのだろうか、1人で練習しているからとか、周りには誰も居ないからとか、条件が揃ってないからそうならないのかもしれない。

 今思えばあの時、本当に演奏が楽しめていたのかと問われると微妙だ。3ヶ月ぶりに大勢の人の前で演奏をすることを懐かしく思っていたのかもしれないが、だからといって演奏を楽しむことと直接繋がるというわけでもない。だとしたら何故、あの時意識が飛んだのかという明確な理由が見当たらない。

 試しに2曲目も叩いてみたが、結果は同じだった。こっちの方が意識が飛んだ時間は長いはずなのに、やはり1人で演奏しているときだと何も起こらないのだろうか。

 あの間俺がどんな演奏をしていたのか、見ていた奴らに聞きたいものだ。誰かが動画でも撮っていたら話は早いのだがな。

 それからも練習を続けていたが、今までしてきた練習と何も変わらなかった。まるであの時のことを否定するかのように、ただ時間だけが流れていった。


「何難しい顔してんのよ」


 練習を終えようとしたとき、不意に声を掛けられた。最近こいつとはよく遭遇するけども、何か変なこと企んでいたりしないよな?


「琴実、お前も俺をバンドに誘いにきたのか?悪いけどお前とは組まねえからな」

「何寝ぼけたこと言ってんのよ。私だってあんたみたいなやる気のない人とバンドなんて願い下げよ」

「そりゃどうも、安心したよありがとう」

「ばっかじゃないの...」


 俺とバンド組むのは願い下げ、か。別に構わないけどもそこまで否定される筋合いはないから少しばかり苛つく。だとしたらこいつは何があって部室に来たのだろうか。ベースも持ってないし。


「手ぶらで部室とか滑稽だよな。いつも持ってるお高いベースを置き忘れたからここに来たのか?」

「何言ってんのよ、ちゃんと鞄もってるじゃない。小さいけど」

「はあ...」 


 服の色と一致していたから見えづらかったが、琴実は小さめの鞄を肩に掛けていた。その中に入っている物で何かしようとしているのだろう。


「これよ、あなた達が下らない喧嘩して破綻したレポートやるのよ」

 

 鞄から筆記用具と丸められた紙が取り出される。


「悪かったな、でも俺は関係ない」

「あの状況でよく関係ないなんて言えるわね...」

「俺が何したっていうんだよ」

「音琶を怒らせた」

「......」


 俺としては空気が悪くならないように結羽歌を庇ったつもりだったのだがな。一応昨日で事件は終息したわけだが。にしても結羽歌は遅刻した以外これといって誰かに迷惑掛けたわけではないのだから、もう少し許してあげる心というものを持ってもいいのではないかと。


「安心しろ、あいつらはもういつも通りになってる」

「そうかしらね」

「は?」

「結羽歌がまた同じこと繰り返さないって保証はどこにもないし、音琶だって何考えているのかわからないから、例え仲直り出来たとしてもいつまた崩れるかわかんないと思うけど」

「......」

「それに、夏音の演奏だって、不安定なところ沢山あると感じたから、いつまで音琶がその演奏についてきてくれるかわかんないし」

「不安定だ?」

 

 今こいつの口から重要な単語が飛び出たような気もするが、このようなことを言われるのは初めてではあった。むしろ今まで『安定している』と言われ続けていたし、音琶が不満を感じていたのはその部分でもない。


「そうね、叩けてはいるけど強弱付けるところがおかしかったり、身体の動きが追いついてないように見えたわね」

「どこの部分だ」

「え?そこまで詳しく覚えてないけど、特に印象に残ったのは最後の曲の終わりの部分...、とか?」

「......」


 この部分は、まさに俺の意識が飛んだ部分だ。その間、俺は琴実に、いや、あの場に居た人達にそう思われるような演奏をしていた、ということなのか...。


「私があんたと組みたくないって言ったのはそれが原因よ。初心者の私がそう言う権利あるかどうかはあれだけど、少なくとも淳詩の方が安定した演奏できてるわよ!」

 

 言いたい放題な琴実に、俺は何も言い返せないでいた。


「レポートにはあんたの欄が一番埋まってるわよ。帰る前によく読んでおきなさい」


 何も言えなくなった俺に、琴実はレポート用紙を見せつけてきた。黙ってそれを受け取り、俺のページに行き着くと、琴実の言ったとおりびっしりと文字が書き連なっていた。

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