表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
141/572

夜勤、初めて知ること

 そんなこんなで夜勤の時間になってしまい、目的地に向かう。その間も、ずっと考えていて、タイムカードを押してからも頭は窓の外を向いていた。


「滝上くーん、大丈夫?」

「あ、いえ、大丈夫です」


 幸い店内には客がいなかったからよかったが、仕事に集中できていなかったのはまずかった。レジ打ち以外にも、商品の補充とか、床の清掃とか、やらなければいけないことは山ほどあるというのに。

 上の空になっている俺を気に掛けたのか、隣に立つ3年の宮戸響(みやとひびき)先輩に声を掛けられた。この人と同じシフトに入るのはまだ3回ほどしかないが、入りたての頃はよく仕事を教えてもらい、お世話になっている。


「滝上君も仕事慣れてきてるから、大丈夫だと思いたいけど、手は抜かないように」

「はい、すいません」


 そう言われて数分後、客が入ってきたからレジ打ちに移る。にしても、駅前のコンビニだからといって必ずしも混むというわけではないようだ。始めたばっかりの頃はある程度人の出入りが多かった気がするが、7月にもなると利用者が減っているように感じられた。特に暑い季節だとこんな遅い時間帯に外出しようとは思わないのだろうか。

 レジ打ちが終わって、補充が必要なものがないか探そうとした時、宮戸先輩に再び話しかけられた。


「そう言えばさ、滝上君軽音部だったんだな」

「まあそうですけど」

 

 唐突にサークルの話を振られ、少しばかり戸惑う。その情報どこで手に入れたのだか。この人とはそこまでプライベートな話はしたことないし。


「俺さ、先週のライブ見に行ったんだよね」

「......」


 俺の予想を反するその言葉に、思わず固まる。とは言っても、通りかかっただけだと思うがな。


「途中からで結構後ろの方にいたんだけど、最後から2番目のバンドのドラム、滝上君だったよね」

「MCの時無理矢理名乗るように言われましたから、あの場に居た人達は全員俺だってわかるはずですよ」

「......」


 俺のその言葉に若干引き気味になる宮戸先輩。嘘は言ってないから引きたければ好きなだけ引きやがれ。


「えっと...、俺なんか滝上君の気に障ること言ったかな...?もし言ってたら謝るけど...」

「言ってないですよ、どうしてそんな考えに行き着くんですか?」

「はあ...」


 扱いに困ったような表情で宮戸先輩は、次に言うべき言葉を探しているように見えた。


「それで、俺が軽音部に入ってたら一体何だって言うんですか?」


 敢えて敵意を現し、俺は問う。


「いやだって、俺去年まで軽音部に居たし」

「え...?」

「なんかみんな頑張ってたね。滝上君も勿論」

「そう見えましたか?」

「見えたよ、少なくとも俺からはね。ここ数年で稀に見るくらい上手かったし」

「何言ってるんですか、てかここ数年って...」


 去年まで居たってことは、少なくとも2年間うちのライブを見続けてるってことになるよな。


「辞めたサークルではあるけど、まだギターはしているからちょっと様子見たくなってね」

「ギターだったんですね」

「そうだよ、それで今は別に活動している」

「......?」


 この人はサークルを辞めても未だにバンドを組んでいるということなのだろうか。大学外の人とライブハウスだかで知り合って、みたいな流れか?


「言い方が悪かったね、つまり何をしているのかっていうと...」


 そう言って、宮戸先輩は俺を店の奥に連れて行く。そしてスマホを取り出して一つの画像を表示した。


「音楽...、同好会?」

「そう、音楽に関することなら何でも自由にやっていこう、ってことをモットーにしている同好会ね」

「適当な感じしかしないんですけど」

「まあそう思われても仕方ないよね。でも、俺は割と真面目にやってるつもり」

「...今は仕事中ですから、後でその話聞かせて下さい」

「勿論いいよ」


 それから本来の仕事場に戻り、客が入ってきてはレジ打ちしていったが、正直この仕事退屈だ。覚えが早い体質だからそう思うのかもしれないが、客が少ないのも原因だ。これだとまるで店の見張りが本職みたいになっているのだが...、これで結構な金が貰えるってこと考えたら大したもんだな。


 ・・・・・・・・・


 7月7日


「それで、さっきの続きですけど」

 

 午前5時過ぎ、夜勤から解放され、店から少し離れた場所で宮戸先輩に問いかける。


「まずは何から話そうかな...」


 一瞬先輩は話の頭をどうしようか悩んでいたみたいだが、音楽同好会とやらについて語り出した。


 音楽同好会、軽音部とはまた違った、幅広いジャンルの音楽を聴いたり、実際に演奏したり、その音楽について語り合ったりすることを目的として十数年前に発足されたサークルらしい。

 一応部室はあるようだが、狭い部屋しか用意されておらず、とてもではないが楽器を置けるような広さでもないそうだ。

 部員は現在宮戸先輩を含め8人しかおらず、半分が幽霊部員に等しい。今年入部した1年生はおらず、来年以降どうなるのかも未定。今は宮戸先輩が組んでいるバンドのおかげで何とかサークルを保っているような状況らしい。

 宮戸先輩は一昨年軽音部を辞めたが、高校の時から触れているギターを続けたいという想いがあり、当時バンドを組んでいたメンバーと共に入部したという。そのおかげで今でもギターは続けられているだとか。

 実際、軽音部の人間でなくともバンドを組んでライブハウスでライブくらいできるし、場所を借りて練習だってできる。その分金はかかるけどな。


「なかなか大変ですね」

「まあね、正直部員が足りなすぎて困っている。バンドの方は全員3年生だから、まだ来年も続けられるけど、その後が心配かな。てかバンドメンバーしかまともに部会にも参加してない状況」

 

 とても軽音部では考えもつかない。何て言うか、やってることは似ていても本質には天と地の差があるよなこういうの。


「割と自由にしているから、勉強やバイトにも時間費やせるのはいいことなんだけどね。幽霊部員がいるのは俺らが原因でもある気するし」

「それに関してはそっちで何とかするべきですね。でもまあ、そういうサークルもあるってことは頭に入れときますよ」

「滝上君...、相変わらずだね...」

「何か悪いですか?」

「いや別に...」


 誰が悪いとかは考えないが、宮戸先輩はあの環境で長く生き残れるような人ではないだろう。お世話にはなっていると思うが、少しばかり頼りない所もあるしな。

 それから宮戸先輩と別れ、部屋に向かう。その間、スマホの確認をしたが...、


「鬱陶しいな...」


 カレンダーのアプリが俺の誕生日を祝福していた。どうやら俺は今日をもって19歳になったらしい。

 もともとスマホを手に入れたときに入っていたアプリで、誕生日が自動で登録されるシステムだったから、通知を止めることができないらしい。LINEの方の通知は停止させてあるけどな。

 音琶にも、別に言わなくていいよな...?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ