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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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因循、やるかやらないか

  ***


 目覚めるともう12時を過ぎていた、完全な寝坊である。


「はあ......」


 声にもならない溜息をつきながらベッドを降りる。

 それにしてもこの俺が寝坊するとはな、最後に寝坊した時の記憶なんてないのに。


 昨日の飲み会は凄まじいものだった。

 とりあえずあのサークルが飲みサーだということがわかり、なんかよくわからない掟があり......、他にも色々あったけどよく覚えてない。

 勿論酒は全く飲んでない。日本の法律も色々変わっていき、成人年齢が18歳になったとはいえ飲みたいという感情は湧かない。

 第一俺は弱い。


「どうしようかね」


 朝飯は諦め、昼はどうするか。寝起きが最悪過ぎて作る気にもなれない、冷蔵庫の状態からして急ぐ必要もなさそうだ。

 これは学食だな、そう諭した。




 鳴成大学の学食は長期休み期間を除くとほぼ毎日あいている。

 広いキャンパス内に7つ存在し、場所によってメニューが違っていたり、生徒数が多いということもあって、学科や学年ごとの教室の位置を考慮して設置しているという。

正直どこでもいいので目に留まった所を入ることにした。


中はそこまで混んでなく、列も無い。券売機で選ぶタイプだからボタンごとに書かれてるメニューを見てみる。

流石名門校とばかりに豊富なメニューが揃えられているが、俺は無難にかけうどん(温)を選んだ。外食するなら安い物が無難である。

券売機をスタッフに渡し、3分ほど待つと出来上がった。トレーにうどんを載せ、適当に空いている席を選んで座ろうとした瞬間、


「確か夏音くん、だっけ? 奇遇だねえ」


 振り返ると見学の時に話したギターの先輩が立っていた。名前なんだったっけ。


「俺のこと覚えていてくれたんですね」


 適当に返し、席に着く。

 するとあろうことか先輩が正面に座ってきた。何の躊躇いも無く。


「何当たり前のように座ってるんですか」

「えー、部員なんだからいいじゃん」

「だとしてもいきなりすぎです」

「後輩と仲良くしたいんだからこれ位いいでしょ?」

「......」


 文句を言おうとしたが先輩が箸を進めていたのでやめた。

 それにしても先輩というのはここまで後輩の面倒を見たがるものなのだろうか、高校までは想像もつかなかったことなのだが。


「そういえば先輩の名前ってなんでしたっけ」


 とりあえず話題を振ってみる。実際知らないし。


「ええ......、まさか覚えられてないなんてね......」

「知らないから聞いただけですよ」


 呆れ顔で先輩が答えた。実際部会の場で自己紹介したのは新入生だけだし知らなくて当然だろ、飲み会の時も日高としか話してないし。


浜中鈴乃(はまなかりの)、覚えてね」


 そういえばそんな名前で周りの先輩達は呼んでいたような、今になって思い出す。


「所でさ、音琶ちゃんとはどんな関係なの?」

「......」


 名乗った直後の質問がこれかよ、あのバカと昨日の飲み会で何を話したんだよ。


「なんかよく一緒にいるよね、見学の時も昨日の部会の時も。もしかして付き合ってるとか」

「浜中先輩......、いくらなんでもそれはないです。ていうかなんでそこまで言えるんですか」


 やや苛立ち気味に聞いてみる。この人はわざとからかうように言ってるのだろうか。

 よく一緒に居る男女=付き合っている、なんて馬鹿の考えだからな。


「あそこまで一緒に居ると気にもなるよ、飲み会の時音琶ちゃんとも話したけどさ、色々言ってたよー。あと名前で呼んでね、昨日部長言ってたしょ」


 そういえば部員同士は下の名前で呼び合うんだったな。それにしてもあいつ何言ったんだ? ややこしくなるようなこと言ってたらぶっ飛ばす。


「そうですね、鈴乃先輩。あとあいつに関しては別に何ともないですよ、付き合ってないですしあいつから俺のとこに勝手に来てるようなもんです、だいたい何で俺にあそこまで執着するのかよくわかりませんし」


 そう、あいつが俺に話しかけてくる本当の理由は全くの謎なのだ。

 嘘はついて無いけど伝わるだろうか。


「へえ......、ますます怪しい」

「もうこの話は終わりでお願いします」

「はいはい」


 これ以上音琶のことを話しても同じ事の繰り返しになりそうなので話題を変えることにする。

 折角先輩という存在から話しかけてきてるのだから俺も気になっていたことを聞いてみる。これも等価交換だ。


「部会の時に配られたアレ、マジで何なんですか?」


 昨日新入生全員に配られたサークルの掟、みたいなやつ。あれだけで一冊の本が完成しそうなくらい分厚いが、書いてあることはしょうもないことだらけの紙切れの集合体。

 部長が読み上げた内容だけが全部ではないらしいが、まだ俺は軽くしか目を通していない。

 読み上げた内容が本当なら、かなりサークルに縛られることになりそうだけど。


「ああ、あれね」


 鈴乃先輩がはぐらかすように言った。正直あの掟を作った人はどういう心情で作ったのか非常に気になる。

 そして配られる側の部員はどう感じているのか、ということも気になっていた。


「少なくともね、私はあんなのいらないと思ってるよ」

「え?」


 意外な返答だった。

 てっきり掟に縛られてしっかり頭に入れておくようにみたいなこと言われるのではないかと思っていたが、俺みたいにまともな考えを持っている人も居たのだな。


「あ、これみんなには内緒ね。もちろん音琶ちゃんにも」

「はあ......」

「昨日見てなんとなく分かってるかもしれないけどさ、私副部長なんだよね。2年生は人がよっぽど少なくなかったら毎年誰かが副部長やらされるんだけど......」


 鈴乃先輩が副部長なのは部会の時になんとなく感じていた。

 副部長が2年生ということは部長は3年生なのだろうか。


「私はサークルの現状をどうにかしたいって思ってるの。だから副部長やってるんだけど、どうも上手くいかないんだよね......」


 掟なんてものを作る時点であのサークルは問題があると認識してもいいだろう、そして問題がある現状を変えたいと思っている人が居る。

 大まかなことは異なるが高校時代を思い出す、もうあんな想いは二度と御免だ。


「一ついいですか?」


 どうしても気になったことがあるので聞いてみる。


「何?」

「2年生以上の部員があまりにも少ないと思うんですけど、あれで全員なんですか?」


 そう、上級生の人数は1年生よりも遥かに少なかったのだ。

 鈴乃先輩の同期はどうだったのだろうか。


「うん、あれで全員だよ、毎年たくさん辞めちゃうからね。特に私の場合仲良かったこがどんどん辞めちゃってさ、あの時はちょっと辛かったかな。最初は22人いたんだけどね、もう2年生は4人しか残ってないよ。それに部長とか他の何人かの先輩留年してるし」


 おいおいマジかよ......、俺の同期は全員で18人いるけど、最後には3人位しか残らないのだろうか。

 これだけ沢山の部員が辞めたり留年しているというのにサークル側は何の対策もしてないのか?


「俺はとんでもないとこに入ったんですね、部会とか飲み会参加して思ったんですけど正直無理ですねあの雰囲気」


 思わず本音を言ってしまった。

 こんなこと音琶には絶対言えない。


 すると鈴乃先輩は苦笑しながら口を開いた。


「最後に決めるのは夏音くん次第だから、辞めたくなったら辞めても良いからね」


 この人と初めて会ったときは頭のおかしい人だと思っていたけど、意外とまともなのかもしれないな。


 それにしても留年、ね。授業が始まって2週間ほど経つけどそんな難しい内容とは思えない、正直あの内容で留年するなんてよっぽど勉強してないんだな、としか。


「まあ辞めるかどうかはしっかり考えますよ」

「そう、何か悩み事とかあったらいつでも相談にのっていいからね」


 その後は特にサークルの話をせずに昼食を食べて鈴乃先輩と別れた。


 サークル、どうしようか。

 考えるとは言ったけど正直辞めたい、鈴乃先輩の話を聞いて余計そう思うようになっている自分がいた。

 でも音琶との約束はどうなる? 日高や池田さんは? あいつらのことを考えると辞めるなんて言うのには勇気がいる。

 きっと音琶は凄く怒るだろうし指の一本は覚悟した方が良いだろう、あとの2人だって何て言ってくるか。


 どうしたらいいのだろう。

 そう悩みながらスマホを取り出すと音琶からLINEが来ていた。


 上川音琶:結羽歌ベースやってくれるって! 私もギタボ頑張るから!


 可愛らしい動物が描かれたスタンプと共にメッセージが綴られていた。


「言えるわけないな......」


 あんなに内気な池田さんがベースをやろうとしていて、最初はギタボをやることに迷いがあった音琶が頑張ると言っている。

 そんな状況で辞めるなんて言えるわけがなかった。


 俺に出来ることと言ったら、送られてきたLINEにスタンプで返信することだけだった。  

 ここで辞めておけば、あんな嫌な思いをすることもなかったし、あんな良いことも起こらなかったんだろうな。

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