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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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ジャズ研、演奏の違い

 ***


 7月6日


 私は一人で体育館に向かっていた。悠来に誘われたジャズ研のライブの当日だから、バイトも休みをもらっている。代わりに平日のどこかに入ることになっているけど、まだいつになるのかはわかっていない。

 歩きながら、昨日のことを思い出す。遅刻した結羽歌に言ってしまったこと、もう少し言葉がなかったものなのか。確かに結羽歌が心配だったからってのもある。その後夏音にも言われ、思わずその場を飛び出してしまった。

 あれから夏音と結羽歌からLINEが来ていたけど、何て返せば良いかわからずそのままになっている。


「どうしたらいいんだろう...」

「何をどうしたいってんだよ」

「わっ!」


 独り言のつもりだったのに、突然後ろから聞き慣れた声が私に向けられていた。


「そんなに驚くことないだろ」

「だって...」

「昨日のことまだ気にしてんのかよ」

「気にしてなんかないし」

「気にしてなかったらあんなこと呟かないよな」

「うるさいな...」


 ここで会ったのは偶然なのか必然なのか、私にもよくわからないけど、少しほっとする。私に対する夏音の接し方はいつもと何の変わりも無かった。


「俺これから飯買いに行くんだけど」

「へ、へえ。私はこれからジャズ研のライブ見に行くんだよ」

「すまんな、俺は用事あるし、その後夜勤あるからそっちには付き合えねえ」

「別に、夏音と見たかったとか、そういうわけじゃないし」

「はいはい、でも早いとこ結羽歌とも話し合っとけよ。お前が何を感じてるのか知らねえけど、気まずい空気でバンドなんかしたくねえし」

「うん...」


 用事ってなんだろう。いつもの夏音なら、割と具体的に言うはずなのに。結羽歌への返事も、出来れば今日中に済ませておこうかな。


 ・・・・・・・・・


「音琶!待ってたよ!」

「うん、待たせちゃったかな?」

「そんなことないよ、ありがとね」


 体育館内の前の方に行くと、悠来の姿が見えたからそっちに向かった。ステージの上を見ると、軽音部ではまず見られない様々な楽器が並んでいた。バンドによって使われる楽器はバラバラみたいだから、準備や転換も大変そうだ。

 中にはギターやベースもあるけど、演奏する曲のジャンルが全然違うだろうから、あまり親近感がない。それにしても...。


「悠来はドラムって言ってたけど、ジャズ研のドラムって小さめのサイズなんだね」

「うん、そうだよ。うちがやってるのはロックサウンドじゃないから、ドラムの音大きすぎてもアレだしね~」

 

 軽音部で使われてるのより3分の2くらいの大きさのドラムが後ろに置かれていた。あれを夏音が見たら何て言うだろう、見ただけで『叩きづらそう』とか平気で言い出しそうだな。


「実は私、2バンドも組んでるから、楽しみにしててね!」

「2バンドも出るんだ、凄いね!」

「いやいや、簡単なのばかりだったからそこまでだよ。今日は出ないけど、普段は4バンドも掛け持ちしてる先輩いるし」

 

 4バンドもかぁ...。私には想像つかない。私の場合ただでさえ忙しいサークルでここまでのバンド数を組むってこと考えるだけで頭が痛くなりそう。

 上手くはなりたいけど、時間は限られてるからそればかりに集中することってできないな...。


「とにかく、私のドラムの実力、見ててよね」

「勿論だよ!」


 悠来はかなり張り切っていた。周りの人達を見ても表情が柔らかくて、これからのライブに胸を躍らせている感じがした。何かうちと全然雰囲気が違うな...。

 

 開場してから暫く経って、悠来の出番が来た。ここまで見てきてボーカルが入っているのもあれば、インストのバンドもあった。楽器が多いから、軽音部とは違って色々な曲を演奏することが出来ている印象があった。

 原曲に合わせているのもあれば、アレンジを加えてるものもあった。元々ボーカルがある曲をインストにして演奏する、みたいな感じかな。

 そして私が思ったのは、先輩の数が多いことだ。うちのサークルは過去に沢山部員が辞めたから、先輩が少ないけど、ジャズ研は部員が多かった。

 MCを聞く限り、全学年の中で1年生が一番多いのは同じだったけど、だからといって先輩が全然いない、というわけでもなかった。多分中には幽霊部員というのがいるんだろうけど、だとしたら全部で50人くらいいてもおかしくないだろう。

 転換とかも先輩が上手く後輩をサポートしている感じだったし、うちと違ってみんな優しそうだ。1年生も楽しそうだし、今ステージに上がっている人が辞めるなんてことはないんじゃないかと思える位だった。

 そして肝心の悠来の演奏なんだけど、演奏している姿は今の夏音よりもずっと楽しそうにしていた。コントラバスの音に合わせて奏でられるタムやシンバルの音色は綺麗だし、ギターやサックスとの共鳴もしっかりしていた。

 悠来は初心者とは言ってたし、やっている曲も恐らく原曲よりかなり簡単にアレンジしていると思う。それもあるから叩けているのかもしれないけど、タイミングが絶妙だし、聴いてて気持ちいい。 

 それなのに、私は今やるせない気持ちになっていた。私や夏音の方が経験長いはずなのに、悠来のバンドは私達のバンドよりもまとまりがしっかりしている。この前のライブを見た悠来は私達を見てどう思っただろうか。『良かった』とは言ってたけど、それが本音なのかもわからないし...。

 はっきりと思ったけど、誰がどう見ても善し悪しがわかるもので、相も変わらず演奏している悠来は生き生きしていて楽しそうだった。


 ・・・・・・・・・


「悠来、お疲れ様。上手かったよ」

「え、そう?結構ミスっちゃったんだけどなぁ」

「ううん、そんなことないよ。本当に初心者だよね?」

「初心者だよ、変なの」


 出番が終わった後、私は自ら悠来に話しかけていた。私の表情には明らかに元気がなくなっていたけど、悠来にはどう見えただろうか。私が感じていること、見透かされたりしてないよね?


「音琶も、頑張ってね。また見に行くから」

「うん、私も次のライブ見に行くから、日程決まったら教えてね」


 その後、他にもバンドの出番があったけど、私は悠来のバンドだけ見てそのまま部屋に帰った。これ以上見ていたら、どうしてか胸が苦しくなりそうだった。

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