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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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レポート、バンドの考え

 7月5日


「う~、まだ5枚残ってる~」

「逆に1日だけで3枚も書けたことを誇りに思えよ」

「でも~」


 土曜日の午後、俺と音琶は図書館の自習室で2人、昨日配られたレポートをしている。鈴乃先輩からレポートの存在を伝えられた後、その場に居た3人で図書館を借りてしようという話になったのだ。1人足りないのは昨日の飲み会が原因なのだが。

 レポートと言ったら少しばかり意味合いが違うのかもしれないが、サークルで出されたレポートだからレポートと言うべきなのだろう。

 それぞれの活動について反省するのは、よほど緩い所じゃなければどこのサークルでもやってそうだが反省レポートを書く、ということに関してはここだけかもしれない。

 図書館に入ってから約1時間経過して、音琶の集中力が切れ始めている。この際一旦休憩でも入れておくか。


「音琶、何か飲み物買ってくか?」

「いいの?」

「1時間経ったからな。少しは息抜きしないとダメだ」

「うん!」


 自習室での長時間の外出は原則禁止されているが、飲み物を買うくらいなら大したことじゃない。俺と音琶は外に出て、図書室の玄関前に設置されている自販機まで足を運んだ。


「あれ?夏音と音琶じゃない。二人して何してるの?」

「げっ」

  

 自販機前に立っている奴を認識しただけで思わず嫌な顔をしている俺がいた。


「何嫌な顔してんのよ。私何かした?」


 今まで散々悪絡みしておいて『何かした?』ってよく言えるよなこの女。一応事は解決したものの、俺はまだこいつに対する苦手意識が消えてはいないのだ。

 あまり面倒事には巻き込まれたくないので、適当に飲み物を選ぶことにした。


「琴実もレポート?」

「まあそんなところね。こういう所でやらないと集中できないから」

「私もそうかもー」

 

 この2人、いつの間にここまで仲良くなったんだか、この前まで言い合いばかりしてたというのに。俺には関係ないからいいんだけども。


「そう言えばさ、昨日結羽歌結構飲んでた?」

「え?まあそうね、ライブ開けの飲み会ってこともあって相当飲んでたわよ」

「やっぱり...」

 

 一応今日の集まりは結羽歌も呼んでたが、時間になっても来ないし、LINE送っても既読が付かないから俺は察していた。どうせ二次会で潰れたということをな。


「ねえ、琴実は飲んだの?」

「まあね、でも私酔っても記憶無くすことなんてまずないし、前音琶には変なLINE送ったけど、あれだってちゃっと覚えてるし。流石に結羽歌みたいにはならないわよ」

「あー、もうあのことは気にしなくても大丈夫」

「別に気にしてなんかいないわよ最初から」

「そ、そうなんだ...」

「まあいいわ、私も一人でやろうと思ってたけど、折角だから混ぜて貰おうかしら」

「うん、いいよ」


 なんか俺が飲み物選んでいる間に話が進んでいるのだが。こっちに害が及ばないなら別にいいんだけどな。


「夏音も、いいでしょ?」

「...勝手にしろや」

「はいはい、相変わらずなんだから」


 言われるがままに、メンバーが一人増えた状態で勉強会(?)が再開した。もともと3人でやる予定だったから、人数自体に変更はないんだけどな。



 30分後


「そう言えばさ、琴実ってバンドどうするの?」

「バンド?」

「うん、解散したって聞いたから」


 おい音琶、お前は『聞いた』というよりも、『聞こえた』って言うべきだろ。電柱の陰に隠れていた奴が容易くそう言うな。


「そうね、私は新たに誰かボーカル入れようと思ったんだけど、鳴香も淳詩も今までとは違った曲やりたいって言ってたから、私自身もどうしようか考えている所よ」

「何か、鳴香も色々考えているみたい」

「そうよね、あのこ馬鹿みたいに真面目だから」

 

 2人が雑談している間、俺はレポートを進めていた。女子が一人増えた時点で何となくこうなることは予想していたから、黙って作業に取りかかって正解だろう。別に興味のある話でもないし。


「ちょっと夏音!話聞いてる!?」

「あ?」

「私と琴実が一生懸命バンドの話してるのに、何で夏音は一人黙々とレポート書いてるのよ!」

「......」


 今の話で俺の出る幕あったか?お前らのペンが止まっていた間、俺のレポートは半分くらい書き終わってるのだが。


「この前のライブで解散してないのってWirlpoolだけなんだよ?夏音、ちゃんとそのことに対する自覚ってある?」

「今の話とその話、関係あったか?」

「何言ってんの!?関係大ありでしょ!琴実もそう思わない?」

「そうね、真面目にバンドの話をしているというのに、何を考えているのかしらね!」


 向かい側で並んでいる二人の少女に説教を受ける俺。真面目な話をしていた、というのは嘘ではないし、話を聞いてやるくらいのことはしておくか。


「わかったよ仕方ねえな」

「それじゃ、再開ね」

 

 また言われるがままになってしまった。結局音琶の俺に対する態度って、付き合う前と後で何も変わってないな。

 と、その時、扉が勢いよく開き、本来来るべき奴がようやく現れた。


「ご、ごめん!遅れちゃった...」

「あ、結羽歌!待ってたわよ!」

「ほんとにごめんね」


 琴実から『待ってた』と言われ、結羽歌は安心したような表情になったが...、


「ねえ結羽歌、私レポート配られたら一緒にやるって言ったよね?それなのにどうして遅刻するくらい飲んじゃうかな?」

「え...?」


 珍しく、音琶が俺以外の奴に怒りを露わにしていた。想定外の返事に結羽歌も驚いている。


「あっ...!いや、今のは違うから...」


 咄嗟に出てきた言葉に音琶自身も驚いていて、気まずい空気が流れる。


「確かに結羽歌は最近、てかサークルに入ってからずっと潰れているよな。でもな、それが音琶に何か関係でもあるっていうのか?」

「夏音...」


 この空気をどうにかすべく、俺なりに結羽歌を庇うようなことを言ってしまったが、大丈夫だろうか。

 

「夏音も結羽歌も何もわかってない!!」


 逆効果だった。俺としては作業を再開したかったのだが、それどころじゃなくなったな。当の音琶は自習室を飛び出し、そのまま戻ってこなかった。


「あーあ、やっちゃったわね」

「えっと...」


 呆れ顔の琴実と、状況の理解に追いついてない結羽歌。何だこれ。てか俺が悪いのか?


「夫婦喧嘩なら外でやってもらいたいわね」

「......」

「は?」

 

 俯いている結羽歌をよそにして、琴実の言ったことに引っかかったから、もう一度問う。


「だから、夫婦喧嘩は外でやれって言ったのよ」

「何だよ夫婦喧嘩って」

「気づかれてないとでも思ったの?あんたと音琶、付き合ってるんでしょ?」


 気づかれてたか...、よりによってこいつに言われるなんてな。


「ああ、お前馬鹿だから気づいてないと思ってた」

「...少なくともあんたよりは馬鹿じゃないわよ」


 琴実は低い声でそう言い、再び作業が開始されたが、この最悪な空気での作業は一向に進むことなく、数十分もしないうちに解散となった。

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