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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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優しさ、心配しなくても大丈夫

「何て言うか、お前が俺の部屋に入っていると妙に安心するんだよな」

「え?」

「それが当たり前になっているのもあるけどよ、誰かと飯食うってだけでそう思えるみたいな感じだ」


 私と夏音が付き合うようになってから、夏音の表情や言動が今までよりも少し柔らかくなった気がする。それまではずっと棘のある話し方してたし、ぶっきらぼうで意地悪な感じだった。

 表情があまり変わらないのは今まで通りだけど、それでもどこか内に優しさを秘めているのがわかる。元々夏音は優しいんだけどね。


「そう言ってくれると、嬉しいな。やっぱり夏音には私がいなきゃダメなんだよ~」

「そこまで言った覚えはねえよ」

「えー、そんなこと言うんだったら夏音のご飯食べてあげないよ?」

「作ってあげてる人に向かって言うことかよ」

「うん、だって私は夏音のご飯が食べたいんだもん!」

「無茶苦茶だな...」


 呆れ顔になりながらも、手を止めずにひたすらご飯を作る夏音を見て、私は微笑む。本当なら毎日夏音の部屋に行って、一緒にご飯を食べたり、下らない話をしていたい。付き合いだしてから、今まで以上にそう思うようになったのだ、だから...、


「ねえ」

「何だよ、抱きつくなよ」

「抱きつかないよ、今は」


 夏音の後ろに立って、ふと呟く。


「だったら何だよ」

「...サークル、辞めないよね?」

「......」


 さっきの鈴乃先輩の話から、夏音のサークルに対する不満がまた沸き上がったんじゃないかと思うと、不安になってしまう。

 これ以上先輩達とトラブルが発生したら強制退部。その言葉を聞かされて、夏音は何を思っただろうか。


「音琶がいるから、辞めるわけねえだろ」


 ほんの少し間を置いてから、夏音はそういった。


「鈴乃先輩が何を言おうがそんなのは俺が決めることだろ。俺は音琶が居るから何とかやっていけてるわけで、俺自身が退部になろうがなんだろうが、そんなの知ったことじゃない」

「夏音...」


 今の言ってることを素直に喜ぶべきなのかと問われると微妙だけど、少なくとも私の事を欠かせない存在だと思ってくれてるのかな。だとしたら嬉しいんだけど...。


「とにかく、俺のことは心配すんな。それに今は次の部会で配られるレポートのこと考えた方がいいんじゃねえのか?」

 

 部会で配られるレポート。それは、この前の新入生ライブの反省用紙となっている。鈴乃先輩が言ったもう一つのこと。見極めの時も似たようなものを書いたけど、今回は少し違うらしい。

 見極めの反省用紙はあくまで自分自身のことだったけど、本番の方は自分だけでなく、他のメンバーのことも一人ずつ書かないといけないのだ。

 勿論、辞めた部員のことは書かなくていいみたいだけど、今居る1年生全員だから、8人分のことを書く必要がある。私としては今まで他のバンドの練習を見ていたから、大体どこが出来ていないかとか、どういった所が良かったとかを書ける自信はある。


「私は大丈夫だよ。だって夏音が居るから、どんなことだって乗り越えられる!...と思う」

「だったら何であんなこと聞いたんだよ」

「それは...、別に...」


 和兄のことがあるからどうしても、大切に思っている人が居なくなってしまうと考えてしまうことがあって、気持ちが落ち着かなくなる。夏音に和兄のことを話したら、きっとまた先輩達と揉め事を起こすだろう。今日の鈴乃先輩の話を聞いて、より一層話し辛くなってしまった。

 夏音が私の事を本当に大切に思ってくれてるなら、の話だけどね。


「まあ別に俺だって音琶に言ってないこととか色々あるし、音琶が隠してることを今すぐに言えなんて言わねえよ。でもそれがサークルに関わる何かとかだったりしたら、早いうちに吐いちまった方が楽になるんじゃねえの」

「ごめん、別にそんなつもりじゃ...」

「謝んなくていいっての」


 そう言ってから初めて夏音は私の方を向いて、右の人差し指で私の額をはねてきた。


「うぅ...、痛い」

「痛い想いしたくねえならいちいちしょうもないことで悩んだりするんじゃねえよ」

「でも...」

「俺言ったよな?音琶には辛い想いはさせたくないって」

「うん、言った」

「たかが鈴乃先輩の警告如きで不安になるなよ。お前はそのためにサークル入ったんじゃねえだろ。俺とバンド組むために入ったんだろ」

「そ、そうだよ!そうだもん!」

「だったら、そんな顔すんな。お前には笑っていて欲しいって、前にも言ったしな」


 そう言って、夏音は完成したご飯をリビングのミニテーブルまで運んでいった。その間、夏音の顔は紅潮していて、私からわざと視線を逸らしていた。

 

 夏音にも、笑っていて欲しいな。


 ・・・・・・・・・


「おい馬鹿、人ん家の床で寝転がるな」

「えー、お腹いっぱいだから動けなーい」

「いいから起きろっての」

「もう、そうやってお腹蹴らないでよー」


 食器を洗い終えた夏音が、床で寝転がる私の横っ腹を爪先で突いてくる。


「お前また太ったな」

「ひどーい。これでもちょっとは体重減ったんだよ?」

「全く、俺の飯食っただけで元気になるとかどんだけお前は楽天家なんだか」

「別に、ご飯食べたからってわけじゃないし...」

 

 私が元気になったのは、夏音が私の事を本気で心配してくれて、尚且つ本気で私を愛していてくれてるからで...。これ以上考えると私も恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。


「顔紅いぞ」

「...夏音だって、紅いじゃん」


 寝転がったまま、夏音の紅い顔を見て言う。


「いいから、早く起きろっての」

「ねえ、顔近いよ」

「知るかそんなの」


 みるみる夏音の顔が近づいてくる。これって...、

 

「な、夏音!?ちょっと...」

「騒ぐな、隣に響くだろ」

「だからって...」

 

 まさかでしょ!?夏音がそんなことしてくるなんて...、いやまだしてないけど!そしてギリギリまで近づいて、もうすぐの所で触れそうになったとき...、


「俺がそんなことすると思うかよバーカ」


 顔が真っ赤なのに、ギリギリの所で引き留めた夏音。ちょっと残念だったけど、まだこれからだってこと考えると、別にいいかな...。


「レポートだって、今週の部会の話なんだから、今から考えとけば何とかなるだろ。俺は大丈夫だ」


 後ろ向きで、私に顔を見せずに夏音はそう言った。顔は見えないけど、夏音がどんな表情しているのかはわかったけどね。

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