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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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現状、感じる危機

 7月1日


「それじゃ、始めよっか」


 鈴乃先輩の合図と共に、私と夏音、結羽歌が三人揃って並んでいた。


「取りあえず、三人ともライブお疲れ様。頑張ってたね」

「あ、えっと、ありがとうございます...」


 鈴乃先輩の言葉に、結羽歌が返事をした。にしても、久しぶりに鈴乃先輩の部屋にお邪魔しているけど、今回はどんな話を聞かされるのだろうか。

 五限の授業終わりのタイミングで鈴乃先輩からLINEが来て、今このような状況になっている。


「それでね、今日呼んだのはね...」


 一呼吸置いて、話の本題に入る。


「今の三人の点数、前より上がってて、今のところ結羽歌が一番高いね。二人ももう少しで合格圏内には入るよ」

「そう...、なんですね」


 鈴乃先輩から出た言葉は、私が概ね予想していたものだった。丁度区切りも良いし、月も変わったわけだし、前期だってあと1ヶ月で終わる。夏休みまでにあと何回ライブをするのかわからないけど、これからのことを考えると今ここで話すのがベストだろう。


「最初はどうなることかと思ったけど、この調子なら何とかなりそうだね。実は他の先輩達もあのバンド良かったって言ってたんだよ」

「ちょっといいですか」

「何?」 


 途中で夏音が入ってきて、疑問を投げかける。

 

「別に点数が上がったこと自体に不満はないんですけど、その理由を教えてくれませんか」

「そうね...」


 夏音の疑問を聞いて、それに納得したのか鈴乃先輩は説明を始めた。多分夏音はこれからどのようにして点数を上げていこうかという策略に出るのだろう。最近先輩達とも言い合いをしなくなってきたし、もしかしたら私の事を考えてくれてるからなのかな?

 そして鈴乃先輩曰く、私達三人の点数が上がった理由として、まず練習を頻繁に入れていたこと、特に結羽歌は当初よりもずっと上手くなっていたこと、演奏だけでなく準備に積極的だったこと、先輩達に練習を教えて貰うように言っていたこと等が挙げられた。


「わかりました、それならこれからも同じようにしていけばいいってことですね」

「まあ、そうなるかな」

「別に俺はこれ以上先輩達と仲良くしようなんて思いませんけどね」

「無理に仲良くしろとは言わないけど、揉め事だけは起こさないでね。多分だけど...」

「多分、何ですか?」

「少なくとも夏音は、これ以上揉め事起こしたら、強制退部になるかもしれない...」

「......」


 鈴乃先輩のその言葉に、私は背筋が凍り付いた。夏音が強制退部の危機に瀕している。そんなことを考えるだけで私の頭の中は渦を巻いていて、止まらない。

 これ以上私は、大切な人を失いたくない。夏音がサークルから居なくなってしまったら...、なんてこと思いたくもない。だから...、


「そんなのダメですよ!」


 思わず大きな声が出てしまった。


「音琶...」

「別に、点数が上がっているんなら...、何で強制退部にならなきゃいけないんですか!?確かに掟には先輩に失礼のないようにって書いてましたけど、でも、だからって...」

「音琶、それだとまるで俺が強制退部させられたみたいになってるからやめろ。まずは鈴乃先輩の話聞け」

「でも...」

「音琶、いいから」

「......」


 こんな状況でも冷静に対処する夏音を見て、少しだけ違和感があったけど、確かに焦ったところで掟が変わるわけじゃないし、今は落ち着くことにする。


「音琶、もう大丈夫かな?」

「はい...」

「あくまで点数はサークル内で進級できるかの話だからね。例え要件を満たしていても場合によっては強制退部もあり得るってこと。でも、夏音が頑張ってるとこみんな見てるから、そんな簡単には辞めさせないと思うよ?これは私の勝手な推測だけど...」


 息を飲むように話を聞く私達。次に鈴乃先輩が言ったのは...。


「サークル自体の不満を直接先輩達に言ったり、怒鳴ったりしたらまずいかな...、って思ってる。あとは部長がどう判断するかなんだけどね」

「......」


 今のことを、夏音が我慢できるかの問題だと思うけど、大丈夫かな...。この前本質に触れるようなこと言ってた気がするけど...。


「今私が言ったこと、ちゃんと受け止めてくれる?」

「......」


 それから数十秒、夏音は黙り続けていたけど、ようやく口を開いて、


「わかりました」


 一言だけだけど、そう言った。


「うん、辛いかもしれないけど夏音も続けている以上頑張ってね。耐えられなくなったらいつでも私に相談していいから」

「それじゃあできる限りそうさせてもらいます」

「あ、あの...」


 夏音がそう言った後、次は結羽歌が質問し出した。


「私が一番点数高いのって、やっぱりあれですか?」

「結羽歌が何を言おうとしているのかは大体察せるけど、一応あれが何なのか言って貰える?」

「あ、はい。飲み会の話です」

「あー、それね」


 飲み会、か。部会とか関係なく、LINE見る限り頻繁にやってるわけだし、これの参加率も採点対象になるって前言ってたっけ。私は一度も行ってないし、夏音も行ってないはずだ。てかお酒飲めない人が行くとは到底思えないけど。


「そうだね、特に結羽歌は沢山飲むから先輩達は気に入ってる。参加率だけじゃなくて、飲む量とかも計算してるから、それに関しては点数高いね」

「そう、なんですね」

「結羽歌自体は飲み会楽しいって思ってる?」

「まあ...、先輩が気に入ってくれるなら...」

「え...」


 今の結羽歌の言葉を聞いて私は思わず声を漏らしていた。


「ねえ結羽歌、今自分が何言ったかわかってる!?」

「音琶ちゃん?」

「別に飲むのは結羽歌の自由だけど、先輩に気に入られたいって、本気で言ってるの?」

「だって、私のせいでアンプ新しくなっちゃったし、色々迷惑かけてると思うから、せめて飲んで気に入られたら点数入るかなって...」

「ちゃんと考えてみて、あの人達は結羽歌が飲めるから気に入ってるだけだよ?それ以外のことは何も考えてないんだよ?あんなにいっぱい飲んで、酔っ払うことが当たり前みたいに考えてるような人に結羽歌はなりたいの?」

「音琶、お前何言ってんだよ」


 横で夏音が呆れ顔になって言ってきた。結羽歌も驚いている感じで、私はようやく我に返る。


「ごめん...」

「まあ確かに浩矢先輩の件があるから、結羽歌自身は何とかして先輩達に気に入られようと努力してんだろ。だからと言って飲み過ぎんのはあんまり感心できないけど」

「......」

「でもね、今回のライブ見る限り、初心者の中だったら結羽歌が一番成長していたと思う。だから、点数が飲み会ばかりじゃないってことも分かって欲しいかな」

「確かに結羽歌はすごい上手くなってて...、すみません、やっぱ大丈夫です」


 今はこれ以上言わない方がいいかもしれない。私が結羽歌のことを心配しているのは、和兄の件があるからで、それを今ここで話すわけにはいかない。


「うん、大丈夫ならよかった。それで次はね...」


 一通り話して、空気が重くなってしまったけど、鈴乃先輩はもう一つ、話を用意していたみたいだった。

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