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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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写真、それは大切な人のもの

 ***


 数時間前の出来事


「あ、おはよう音琶!」

「おはよう悠来」


 教室に着き、いつもの挨拶を悠来と交わす。


「一昨日のライブ楽しかったよ!また次も行くからね」

「あ、ありがと。どこらへんで見てた?」

「結構後ろの方。ジャズ研の用事が遅くまであったから途中からだったんだ」

「そっか、私ずっと前の方にいたから」

「へえ~」


 私がそう言うと、悠来は何かを企んでいるような目で私を見てきた。


「ずっと、ではないよね?」

「え?」

「私音琶の出番が終わったら会いに行こうと思って探したんだよ?そしたら、一緒に組んでたドラムの人と二人で外出るの見えたんだから」

「え!?」

「何か声かけるのも悪いかなって思ったから結局最後まで後ろにいたんだから」

「そ、そうだったんだ」


 見られてた...。私も悠来居ないな、って思ってたけど、まさかそんな理由で見つけられなかっただなんて...。


「MCも何か楽しげで可愛かったよ、音琶って結構大人しいと思ってたから、意外な一面見れちゃった」

「いや、あれは勢いだよ」


 確かに私は、夏音と話すときと悠来と話すときとで口調をだいぶ変えている。何ていうか、その方がやりやすいのだ。MCに関しては好印象だったみたいだから、嬉しいんだけどね。


「ねえ、音琶って普段はあんなんなんでしょ?」

「え?」

「私に遠慮してるとこあるよね、ドラムの人と歩いてるときも私と話してる時と全然雰囲気違ったし。一瞬あれは音琶じゃなくて、音琶に似てる誰かなのかと思ったんだからね」

「......」

「あ、ごめん。別にそんな深く言ってるわけじゃないから、あとジャズ研のライブ見に来てね!」

「う、うん」


 私は夏音や結羽歌には、割と自分で仕切ってるとこあるから、特に遠慮無く話せてるけど、悠来はそうではない。別に悠来のことが嫌いだから、とかそんなわけは絶対に無い。でも、どうしてか、壁を感じてしまうのだ。

 悠来に遠慮、か。言われなくともそう感じては居た。ただ、昔を思い出すと少し怖い所があった。私よりも悠来が上に立っている人だと勝手に解釈しているから、そうなっているのだと思う。良くないことをしていると分かっているけど、簡単には変われなかった。

 それから授業中、ポケットに入れていたスマホが何度か振動していた。サークルのグループLINEは毎日のように動いているけど、私がそれに本文を送った事はあまりない。大事な連絡ならまだしも、『今日の夜飲みませんか』とか、『これからラーメン食べに行くんですけど誰か一緒に来ませんか』みたいな内容のものがほとんどだ。それに返信しているのは主に先輩達が多いけど、湯川や琴実、結羽歌もたまにだけど『行きます』と返信してることがある。

 他のサークルがどうなのかはわからないけど、少なくとも私はあの人達とは極力飲まないようにしている。打ち上げではすっかり酔っちゃったけど、それは入部してからライブまで頑張ったから飲んだわけで、少なくとも先輩達と飲みたいという気持ちはなかった。

 今日もまたあのようなLINEが送られているのだろうな、と思いながら一応通知の確認はする。今ここに映し出されていたのは、今までとはまた違った内容だったんだけどね。


「え?」


 トークを見ると、既に何人かが退会していて、中には『辞めます』と文を打ち込んでいる人も居た。この時点でもう6人は居なくなっている。

 いつだったかの鈴乃先輩の警告を思い出す。実際に今は辞めるのに丁度良い時期だ。テストだってあるし、1回ライブやってそれで満足だった人だっているはず、お金があまり無い人からしたらあの場所に居続けるのも酷だと思うし、何より飲み過ぎだ。

 俗に言う飲みサーってやつだし、あの雰囲気が耐えられない人だって居るよね、てかほとんどの人が耐えられないだろうけど。

 私だって、知りたいことがあるから入ったわけだし、夏音ともこれからバンド組み続けていきたいから、まだまだ辞めるわけにはいかないけど、いつまで持つかもわからない。少なくとも、真実が分かるまでは辞めないけど。

 その後悠来が心配そうに私を見ていたけど、結局誤魔化すだけで何も言えなかった。


 ・・・・・・・・・


 それから夏音の部屋にお邪魔して、鳴フェス誘って、今自分の部屋に帰ってきた所だ。


「ただいま」


 いつもの、当たり前の、帰ったときの挨拶。誰も居ない部屋にその声が響く。部屋の端っこにあるテーブルの上には写真が置いてある。私はいつも、その写真に向けてその言葉を掛けている。


「和兄、私、大好きな人と鳴フェス行くんだよ、和兄とは行けなかったけど、でも凄い楽しみなんだよ」


 夏音と出会う前なら、そうやって話しかける度に涙が止まらなかった。でも、今は微笑みながら、話しかけることができる。返事はないけど、それでも、私の心は落ち着いていった。


「ライブも、楽しかったよ。初めて誰かと一緒にバンド組んで、ライブするのって、あんなに楽しいことだったんだね。和兄にも、見て貰いたかったな...」


 この部屋に住んでから何年経っただろうか。物心ついた頃からここに居て、私の隣には和兄がいた。お父さんは仕事が忙しくてなかなか会えてないけど、和兄が居るから私は毎日を過ごすことが出来ていた。

 和兄としたかったこと、まだまだ沢山あったのに、もう叶えられないのは辛い。でも、今の私には夏音が居る。だから、もう何も失いたくない。


 私の実の兄、上川和琶は3年前、この世を去った。私が初めてライブを見た僅か1ヶ月後の出来事だった。事故だったという。

 元々サークルの飲み会があって帰りが遅かった和兄のことだから、その日も遅くなっているのだと思っていた。それから掛かってきた1本の電話。

 私は信じられなかった。和兄がそんな一瞬にして死んでしまうわけがない。電話を受けたときは何かの冗談で、私をからかっているだけだと思った。でも、それは紛れもない事実だった。

 体内から大量のアルコールが検出され、飲んだ勢いで道路に寝て、そのまま事故に巻き込まれたということで片付けられたけど、私は納得がいかなかった。

 私が軽音部に入った理由の一つ、それはあの日、和兄の身に何があったのか。和兄と同じ年代の先輩達なら、何か知っているのではないかと思ったからだ。

 第一、和兄はそんな理性が効かなくなるほどにお酒を飲むような人じゃなかったからだ。


 そんなこと、夏音にはそう簡単に話すことできないよね...。

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