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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第10章 Re:Start
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誘い、隣に居てくれる人からの

 6月30日


 ライブも終わったことだし、そろそろテストのことを気にした方が良さそうだ。テストは授業が全て終わった次の週にあるのが基本で、細かい日付はバラバラだが、大体7月下旬頃から始まる。つまりあと1ヶ月もしないうちに始まるわけだ。

 1年生の間は必修の授業が多いから、割とハードなスケジュールになりそうだ。当たり前のことだけど、俺はしっかり授業聞いているし、板書だって取ってる。だから単位を落とすなんていう間抜けな事はしない。そもそも学費を免除になっている奴が単位落としてどうするって話だ。

 ライブ開けの月曜日、今までと何も変わらない日常が幕を開けた。いつも会う友人らに何の変わりも無く、他愛の無い話に花を咲かせていた。

 日高と立川は一昨日のライブの話、結羽歌は何だかんだで気持ちの切り替えが出来たみたいで、次はどんな曲をやろうか、なんて自分なりに考えていたらしい。

 それはさておき...、軽音部のLINEグループの人数がかなり減っている気がするのは気のせいではないな?昨日の段階で一人、また一人とどんどん退会する奴がいて、最初は27人いたグループはいつの間にか17人になっていた。しかも2バンド目の奴らは全滅、3バンド目も湯川以外全員退会している。

 何て言うかまあ、鈴乃先輩が言ってたことは本当だったわけだ。毎年こうなんだろうなきっと。部費も高いしな。

 でも辞める奴はこの期間に辞めるのが正解だろう。なんせテストがあるからな、この段階で、というかこのレベルの授業で単位落とすのはヤバいってもんじゃない。留年している先輩の話を聞いて危機を感じたのだろう。別に俺としてもそこまで親しい奴らじゃなかったから別にいいんだけどな。

 因みに、辞めた奴の中には琴実達のバンドでボーカルやってた奴も入っていた。あのバンドはメンバーを補充しない限り解散だろうな。あいつらがどう行動を起こすのかにもよるけど。

 残ったバンドは結局、俺らだけなんだよな...。


 ・・・・・・・・・


 玄関のチャイムが鳴る。誰だよ、丁度今夕飯食ってたってのに。


「夏音ー!可愛い彼女が来たよー!!」


 扉を開けると、笑顔の音琶がそこに立っていた。なんかこいつ、俺と付き合うことになってから、今まで以上に元気になったよな。やかましい奴が更にやかましくなって鬱陶しいけど、こういう所が音琶らしくてまたいいんだよな。


「全く、お前って奴は相も変わらず...」

「もう、夏音は私が来てくれて嬉しくないの?」

「嬉しくないわけねえだろ、何言ってんだ」

「それじゃ、入らせて貰うねー!」


 そう言って、音琶は入っていった。全く、可愛い彼女はどこまで俺を振り回すのだか。



 早めに飯を片付けて、食器を洗っていると音琶が横からスマホの画面を近づけてきた。

 

「ねえ夏音、これ何かわかる?」

「あ?俺は今手が放せないんだ、終わったらにしてくれ」

「むうー、見るだけでもいいから!」

「はいはい」


 一旦手を止め、言われたとおり目の前に掲げられたものを見ると、そこには電子チケットが映し出されていた。


「鳴フェスか?」

「そうだよ!」

「お前行くのか、楽しんで来いよ。どんなバンドが良かったとか、教えてくれてもいいからな」

「何言ってんのよ馬鹿、夏音も行くのよ!」

「は?」


 よく見れば、チケットは二枚で申し込まれていた。ライブのチケットだけでなく、会場までのバス券まで確保されているのが見えた。


「まさか誘ってんのか?」

「当たり前でしょ!」

「ああ、そういうことか」


 勝手に解釈して音琶が少し不機嫌になったが、俺としてはどっちかというと行きたい。だがこの手のライブはかなりの金が掛かる。鳴フェスは2日行われるから、計算すると少なくても2万はかかるよな。夜勤でなんとか稼いではいるが、正直結構きつい。

 でもな、折角音琶が誘ってくれてるわけだし、付き合ってからはまだ一度も(まだ2日しか経ってないけどな)どこかに出かけたことないんだよな。


「なあ、これ確か夏休み中だったよな」

「うん、8月23と24!」

「もう金は払ってんのか」

「払ってなかったらチケットなんか持ってないよ?」

「ああ、そうだよな」

「私とじゃ、ダメ...かな...?」

「...何言ってんだよ、ダメなわけねえだろ。ただ少し金が心配だっただけだ。そんなの夜勤で稼げば余裕だけどな」


 俺がそう言うと、音琶の表情が明るくなって、喜びを表すかの如く俺に抱きついてきた。こいつすぐ抱きついてくるよな、別にいいんだけどさ。柔らかい身体を堪能できるわけで。


「ありがとうっ!大好き!」

「何を今更。後胸当たってるから」

「別にいいもん」


 いつまでたっても音琶が離れないから、俺は二つに結ばれた奴の長い髪を床と平行になるように引っ張った。


「もう、痛いよ」

「だったらもう抱きつくな」


 それから俺は全ての食器を洗い終え、リビングに戻ると音琶はテレビを見ていた。何を見ているのかと思えば、動物の動画をまとめた番組だった。


「お前こういうの好きなのか?」

「うん、好きだよ」

「へえ」


 音琶の意外な一面が見れたと思ったが、こいつも我儘な動物みたいな感じだし、既視感あって笑える。


「そういえば、さ」

「今度は何だよ」

「みんな、辞めちゃったね」

「......」


 音琶も少しは部員のこと考えていたのだろうか。その話を自分からしときながら、彼女の表情は少しばかり暗くなっていた。


「鈴乃先輩も言ってたけどさ、私もしかしたらって思ってたんだよ。でも、一度にあんなに居なくなっちゃうなんて...」

「......」


 こいつ、辞めた奴らとそこまで仲良かったか?と思ったが、同じサークルの同級生が辞めるってこと考えると、寂しい気持ちになることもあるのかね。


「別に、今更そいつらに戻ってこいなんて言ったって戻ってこないだろ。そいつらにはそいつらなりの考えってのがあるからな」

「でも...」

「いちいちそんなこと気にしてても仕方ねえだろ、音琶はサークルで何がしたいんだよ」

「私は...」

 

 暫く黙り込む音琶を見て、流石に俺も言い過ぎたかと思った。何故か音琶の前だと、強がってしまう自分が居た。俺自身も、サークルにいる意味とか深く求めていないというのにな。


「まあそんなことはどうでもいい。とにかくだ、これからサークルを続けていく以上またライブすることになるんだからよ、そこ忘れんな」

「別に、忘れてるわけじゃ...!」

「はいはい」


 音琶も強がっていたが、俺が頭を撫でてやると静かになった。


「お前の演奏、良かったんだからな」

「夏音...!」


 不安に満ちていた音琶の表情が再び明るくなっていった。


「誕生日プレゼント買ってくれたら許してあげる!」

「はあ?」

「だから!私に意地悪したから、誕生日プレゼント買ってくれたら許してあげるって言ってるの!」

「何が何だかな...」


 意地悪とはまた大袈裟な。落ち込んでいたのは事実だけど、これ俺が原因なんですかね。


「それで、いつなんだよ」

「7月7日の七夕の日だよ!私もついに19歳になるんだから!」

「え...?」


 両手を腰に当て、鼻を高くしている音琶をよそに、俺は思わず固まっていた。


「丁度1週間後だから、忘れないでよね!」

「あ、ああ」


 これってただの偶然だよな?この世で誕生日が同じ人なんて沢山いるけど、何故だか違和感を感じた。

 俺の誕生日も、戸籍上は7月7日ということになっている。これが本当かどうかはわからないが、そう聞いたのは確かだ。音琶の過去だって、何が隠されているのかよくわからんし、未だに話してくれないし...。


 ...そう、俺は、どこの誰から生まれたのかがわからないのだ。つまり、俺の本当の親は、今どこで何をしているのか、生きているのかさえわからない。

 このことも、誕生日のことも、音琶にはまだ話さない方がいいかもしれないな。

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