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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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本番、反省は帰ってから

 ◈◈◈


「音琶ちゃんと夏音君、どこ行っちゃったんだろう...」


 最後のバンドの転換で、琴実ちゃんの音作りの手伝いが終わって、観客側に戻ってきたのはいいけど、肝心の二人の姿が見当たらなかった。

 私、池田結羽歌は高校の同級生だった高島琴実ちゃんから同じベーシスト同士、勝負を挑まれた。元々このようなやり取りをしていた仲だから、特に驚くようなことではなかったけど、何か今までと少し違うな...。

 高校の時、そんなに友達が多くなかった私に唯一話しかけてくれたのは琴実ちゃんだった。最初の席替えの時にたまたま隣になったからってのが原因なんだけどね。

 好きなバンドが同じだったから、その話で意気投合しちゃって、そうしていくうちに仲が良くなっていった。お互いに勉強を教え合ったり、学校がお休みの日には遊びに行ったり、楽しい日々を過ごせていた。

 そんな友達が、これからさっき立ったばかりのステージで私と同じ楽器を弾く。それだけで、私の胸は熱くなっていた。さっきの演奏中、ずっと熱かったのに、こんなにも冷めない熱ってあるんだな...。


「ねえ結羽歌」

「千弦ちゃん!」


 さっきまで、私の演奏を千弦ちゃんはずっと一番前で見ていた。いつも元気な千弦ちゃんが、今まで以上に盛り上がっていたのがステージ上でもわかった。


「結羽歌って初心者だったよね?でも凄い上手かったし、かっこよかったよ!」

「ほ、本当?」

「ほんとだよ、何か結羽歌の意外な一面見れちゃった」

「そっか、こんなこと言われたこと無かったから、嬉しいな」

 

 かっこよかった、か...。元々人見知りだった私にそう言われる日が来るなんて...。入学してまだ3ヶ月も入ってないのに、私変われたのかな?


「その、私まだまだ上手くなるから、またライブあったら、来てくれる?」

「勿論だよ!」


 千弦ちゃんはそう言いながら、右手で私のお尻を軽く叩いた。


「千弦ちゃん、それはセクハラだよ?」

「えー、友達なんだからこれくらいいいじゃん」

「ううん、冗談だよ」


 そう言い終わると同時に、照明が暗くなってとうとう最後の演奏が始まった。...音琶ちゃん達、遅いな。


 ・・・・・・・・・


 やっぱり、琴実ちゃんは上手い。まずやっている曲の難易度が私のと比べて高い。指弾きしかなかった私だけど、琴実ちゃんはスラップ奏法が出来ている。私も動画とか見て練習しているけど、一向にマスター出来ていない。見極めのリハーサルの時、ちょっと試してみようと思ったら、『関係ないことするな』って夏音君に怒られちゃったし...。

 後でリハーサル中に曲と関係ないことするのはダメだって知ったけど、もしもあの時上手く決められていたら、琴実ちゃんや先輩達はどう思っただろうって、今でも気になってしまう。

 茉弓先輩から教わって指弾きはある程度出来るようになったけど、簡単なことばかりしていちゃいつまでたっても上手くならないよね...。だからこそ、今頑張っている琴実ちゃんには負けたくない。

 ステージの左側が見えるように移動して、琴実ちゃんからも私がよく見えるように、演奏を観察する。琴実ちゃんの手の動きは、浩矢先輩のものに似ていた。多分私は茉弓先輩の弾き方に似ていると思うけど、やっぱり浩矢先輩の方が上手いから、ここで差が付いちゃったのかな...。

 転換の時、琴実ちゃんは特に私の演奏については何も言ってこなかった。でも、表情には余裕がある感じだったし、あの時点で勝てるって思ってたのかもしれない。もし本当にそう思われていたら、すごい悔しい。実際に、ミスしちゃったし...。

 演奏自体は楽しかったし、大変かもしれないけど、これからも頑張っていこうって気持ちにはなれた。でも、絶対にミスしたくない所で、やらかしてしまった。 

 それは最初の曲の部分、2回目のAメロはギターの演奏部分が無いんだけど、だからこそベースの音が目立つ。私にとって、一番プレッシャーになる部分だった。練習の時だって、一度も納得のいく結果はなかった。それでも、練習で出来なくても本番では出来るように、何度も練習した。自分の部屋で、鏡を見ながら、少しでもおかしい部分があったら何度も繰り返した。それなのに...、

 他の人からしたら大したことのないミスだったのかもしれない。私だって、演奏中は気にしないように頑張った。でも、琴実ちゃんの演奏を見てると、悔しくて仕方が無い。

 何だろう、周りはこんなに盛り上がってるのに、私はただ棒人間のように身動き一つ取らず、そこに立ち尽くしているだけでいた。

 

 1曲目が終わると、音琶ちゃんと夏音君が戻ってきて、私の隣に並んできた。


「結羽歌ー、お疲れー!!」

「わわっ!」

 

 後ろから音琶ちゃんに肩を掴まれ、思わず声が出ていた。


「音琶ちゃん、どこ行ってたの?」

「ちょっと夏音と飲み物買ってたんだ!遅れちゃったなー」


 音琶ちゃんはすごい機嫌が良かった。きっと、自分の満足のいく演奏が出来たからなんだろうな...。音琶ちゃんの歌、可愛かったな...、演奏に集中していても、わかってしまう位だった。お客さん達も、音琶ちゃんに釘付けだったし...。


「音琶ちゃん、勝負のことなんだけど...」

「ん?」

「私、琴実ちゃんには勝てなかったよ...」

「え?」


 私がそう言うと、音琶ちゃんの顔色が変わった。


「どうしてわかるの?」

「だって、さっきの曲...。そっか、音琶ちゃん見てないもんね」

「うん、見れなかったけど、でもなんでもう負けだって決めちゃうの?」

「見てればわかるよ...」

「......」


 弱気になっている私を見て、音琶ちゃんはどう思っただろう。演奏を楽しめて、嬉しい気持ちでいっぱいになっている音琶ちゃんにそんなこと言っちゃって、ダメだな私...。


「もう、そんなこと今はいいから、最後のバンド楽しまないとダメだよ!反省なんて帰ってからすればいいんだし」


 音琶ちゃんは優しく右手を私の肩に当て、小さくそう言ってくれた。これで私が安心するかはわからないけど、ちょっとは楽になれたかな...。


「結羽歌私よりも背低いから、肩の位置丁度いいね」

「もう、何のこと言ってるの...?」


 音琶ちゃんがこれからしようとしてることが私にはまだわかっていなかった。

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