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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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親睦、先はまだ長い

 4月19日


 目が覚めると部屋の時計は午前10時を周っていた。

 だけどここは私の部屋じゃない、昨日の部会後の飲み会がきっかけで結羽歌の部屋にいた。

 事は昨日の夜22時過ぎに遡る。

 

 飲み会にはあの場にいたほとんどの人が参加していて、ほとんどの人がお酒を飲んでいた。

 場所は大学からさほど遠くなく、軽音部はほぼ毎回飲み会の場として使っているとのことだった。

 店員さんも優しそうな人だったし、料理も美味しく、何より2時間飲み放題で1500円(税込)と、お手頃な値段だった。

 けど、いくら時代が変わって日本の成人年齢が18歳に引き下げられ、お酒も煙草も可能な年齢になったからといって、飲みすぎ、と言っても過言ではなかった。

 大学生にでもなるとみんな背伸びしたくなっちゃうのかな。私もカシスソーダ1杯だけ飲んじゃったけど。


 最初のほうは自己紹介も兼ねて楽器や今流行りのバンドの話、部員それぞれの趣味の話とかで盛り上がってたけど、だんだんお酒が廻ってくると呂律が回んなくなってきたり、寝てしまう人がいたりした。

 幸い吐いたり騒いだりする人は居なかったけど、そのまま起きずに何人かが付き添って家まで送る、という事態になっていた。

 夏音は多分飲んでないし、日高君は飲んでたけど普段とあまり変わってなかった。

 でも、結羽歌は3杯ほど飲んでそのまま寝てしまった。強いのか弱いのかはわからないけど、一緒に飲んでた先輩曰く3杯で潰れるのは弱いらしい。

 結局最後まで起きなかったから住所を知ってる私と先輩2人で結羽歌を送ることになり、私はそのまま結羽歌を見守るために部屋に上がってもらったのだった。


 あの人の言ってたことが本当なら、今回の飲み会はまだまだ序の口なのかもしれない。




 結羽歌をベッドに寝かせた後、私も床に置かれていたクッションを枕代わりにして寝てしまっていた。

 念のためベッドに横たわる結羽歌がちゃんと呼吸をしているか確認する。

 手を鼻の上に当てると、可愛らしい寝顔が僅かに動いているのがわかった。とても昨日潰れていた人とは思えない静かな呼吸だった。

 その分、ベッドに入ってすぐの時は何度も寝返りを打ったと思われる痕跡がいくつかあるけど......。

 普段の内巻きボブの柔らかそうな髪の面影はどこにもなく、ボサボサに広がっている。

 布団も足で蹴飛ばされていて、その反動で上着の裾が捲れておへそが見えていた。

 なんというか、あんなに静かな人が大胆におへそを出して寝ているなんて、普段とのギャップでちょっと可笑しい。

 流石にこのまま放っておくと風邪をひいてしまいそうだし、時間も時間なので起こすことにした。


「結羽歌~、もう10時だよー」


 肩を叩きながら声を掛けるけど起きない。

 お酒の力で深い眠りの世界に引きずり込まれているのかな、そう思いながら同じことを繰り返すけど全然起きない。

 足の裏や掌を動かしたりくすぐったりしても起きないので、上着の裾からのぞいているお腹をくすぐることにした。

 寝ている人を起こすにはお腹をくすぐるのが一番早いと聞いたことがあるし、底の見えるかわいいおへそに触れてみたいという好奇心もあった。


 柔らかな結羽歌のお腹は呼吸をする度に上下していて、何とも言えない色気を感じた。

 ちょっとイケないことをする気持ちがありながらもそっと手を伸ばし、触れてみる。

 そして指を這わせ、丁度おへそに指が当たったとき......、


「ひゃあぁぁ!!」


 結羽歌が飛び起きた。効果抜群。


「なんで...、なんで音琶ちゃんがここにいるの!?」


 お腹を押さえながら顔を真っ赤にして、目元に涙を浮かべた結羽歌は私に聞いてきた。


「ええと、昨日のこと覚えてる? あれだけ潰れていたら覚えてないかもだけど」

「うん......。私お酒飲めるから......、飲みすぎちゃってそのまま寝ちゃったんだよね......」


 覚えていたみたいでよかった、すごく安心する。


「そうだよ、それで私と先輩たちで家まで送ったんだよ」

「そっか......。ごめんね」


 結羽歌が謝ってきた。

 確かに寝たままの結羽歌を送るのは大変だったけど、謝るほどのことじゃない、とは思う。

 何回も繰り返されたらどうなるかはわからないけど。


 夏音にも頼んだけど、あからさまに嫌な顔をされたってことは黙っておこう。


「ううん、全然大丈夫だよ、私だって無理矢理起こしちゃったし。これでおあいこ」

「うん、くすぐったかった」

「あはは、ごめんねー」


 とりあえず一件落着、あとは昨日話せなかったことを話してみる。


「その......、私さ、結羽歌のこと強引に誘っちゃったんじゃないかな? って後で考えて思っちゃったんだけどさ......」


 今までの結羽歌の反応を見ると、迷惑に思われているかもしれない。

 夏音にも言われたことが引っかかって少し不安になっていた。


「改めて聞くけど、私とバンド組んでも大丈夫だよね?」


 自分でも何を今更だったけど、結羽歌とはじっくり話したほうがいいと自分の本能が示していた。


「私......、音琶ちゃんと、バンドやりたいよ。それと、音琶ちゃんに、ギターボーカルやってもらいたい、かな......。せっかく誘ってくれたんだし......」


 この子は私とは違う種類の不器用なのかもしれない。

 でも私とバンド組みたいって思ってるのが嘘じゃなかったから安心できた。

 それにしても、日高君だけじゃなくて結羽歌からも私にギターボーカルをやってほしいって声が出るなんてね。

 別にやっても構わないけど、メンバー全員の同意が必要だし、夏音がどう思うのかが気掛かりかな。


「そうだね、決めるのはメンバー全員だし、それにギター持ちながら歌うのはもうちょっと練習してからにするね、頑張ってみる」


 実際私はギターしか練習してこなかったから、歌いながら弾くには少し抵抗があった。

 夏音の前で下手な演奏はしたくないし、いい所見せたい。

 それを実現するために沢山練習しないといけないんだけどね。


「音琶ちゃんのこと、応援してるから、これからよろしくね」


 結羽歌が笑顔で言ってきた。


「うん、よろしくね」


 私もその言葉に笑顔で返す。 

 こうして、私は結羽歌と本当のバンドメンバーになることができた。

 これからギターだけじゃなくて歌も頑張らないと。


 その後、結羽歌は起きてから暫くおへそ丸出しだったことに気付き、再び赤面しながらどうして言ってくれなかったのと涙目で訴えてくるのは、また別の話である。

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