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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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本番、バンドの名前

 ***


「ありがとうございますっ!!」


 1曲目の演奏が終わり、歓声が上がる。

 私としては、見極めの時よりもずっといい演奏が出来ていたと思う。途中で少し音がおかしくなった所があったけど、それでも今までの練習と比べたら上出来だった。夏音のドラムも、なんかいつもより聴きやすかったし...。

 それにしても、ここからだと観客の表情とか、雰囲気がよくわかる。ステージの一番真ん中に立つってことがどれほどのものなのかが改めてわかった気がする。見てる側からしたらミスにすぐ気づけるのに、演奏している側だと自分の演奏に集中しているから、よっぽどのミスじゃない限りわからなくなるんだろう。バイト中も、そのような人を沢山見てきた。

 人前で演奏するのって、こんなに楽しいことだったんだな...。身体中が熱くて、汗が滲んでいる。自然と口角が上がり、ギターを弾く指が止まらなかった。もしかしたら原曲よりも早くなっていたかもしれないけど、今はそんなこと気にしてられなかった。

 ボーカルだって、今まで沢山練習してきたんだし、しっかりと歌えた自身があった。私の声質が必ずしも原曲と近いものであるとも限らないけど、...何だろう、私何を考えていたんだっけ?

 今はそんなこと考えている場合じゃなかった、早くMCやって2曲目に入んないと!


「えっと、私達のバンドは、Whirlpool(ワールプール)といいます!よろしくお願いします!」


 私がそう言うと、再び観客が歓声を上げる。バンド名は見極め前まで決まっていなかったから、その時までに急いで決めたのだ。私一人で。最初はカタカナの名前にしようか迷ったけど、バンド名って言ったらやっぱアルファベットだよね、と勝手に思い、メンバーの名前で何か共通点がないかな、と考えた。

 すると、メンバーの苗字が「水」に関する文字が入っていることに気づいた。夏音には「滝」、結羽歌には「池」、湯川には「湯」、そして私には「川」が入っている。

 それがわかってからが早かった。すぐにネットで「水」に関係する言葉を探し、英訳していった。その中で最もバンド名に相応しいと思うものを探し、辿り着いた。

 Wirlpoolは「渦」という意味であり、他にも候補はあったけど、私としてはこれが一番良いと思った。特に意味は求めてなかったけど。それに、見極めのMCでメンバーに初めて知らせたけど、反対意見もなかった。

 後で知ったけど、この英単語は検定試験でもあまり出ないものらしかった。


「それでは、メンバー紹介しちゃいたいと思います!」


 バンド名を言った後は、バンドメンバーの紹介に移る。この流れも事前にLINEで打ち合わせしていて、順番も決めている。因みにこれは見極めではやってないことだ。

 まずは湯川にマイクを渡す。言ってなかったけど、私達のバンドにはコーラスはまだない。もしかしたら今後追加するかもしれないけど。


「はい、湯川武流です。盛り上がってるみたいで何よりだね?次も盛り上がってくれるよね?」


 経験者だから、MCにも慣れている感じで、盛り上げるのも上手ではあった。私も楽器に関しては経験者なんだけどね。

 湯川のMCで歓声や指笛が鳴っていて、何か会場が最初よりもずっと温まっている感じもした。そして奴は無言で私にマイクを返したから、次に私は結羽歌にマイクを渡した。


「それじゃよろしくね」

「うん、頑張る」


 やっぱり沢山の人の前で話すのには抵抗があるのか、結羽歌の手は震えていた。でも頑張って、そうしないとバンドの紹介にならないからね!


「池田結羽歌といいます!この中で私だけ初心者ですけど頑張りますっ!」


 思いっきり声が上ずっていたけどよくやった。さっきの演奏だって良かったよ、経験者に囲まれて大変だったと思うけど、これからも一緒に頑張っていこうね。

 MCを頑張っている結羽歌にそう言い聞かせ、終わったらそのまま夏音にマイクを渡すように促した。一旦夏音は立ち上がり、結羽歌からマイクを受け取るとそのまま話し出した。


「滝上夏音です。よろしくお願いします」


 ...え、それだけ?

 本当にそれだけ言った後、夏音は私にマイクを返してきたんだけど...。


「えっと...、他に何か言いたいことあったら言っていいんだよ?」


 思わずマイク越しにそう言ってしまう。すると、観客側からは笑い声が一斉に聞こえてきた。今、笑うとこあった?


「もうねえよ、俺は演奏に集中するだけだからな」

「そ、そっか...」

「次はお前の番だろ、早くしな」

「う、うん!」


 まあ今までの夏音を見ていれば、MCで長々と話すようなタイプじゃないよね、だとしてもさっきのは短すぎだけどね。いいや、別に空気が冷めたわけじゃないんだから、あとは私が精一杯のMCを...、


「最後に私、上川音琶です!さっきの曲は良かったかな~?」


 私はそう言ってマイクを観客側に向けると、再び歓声に包まれた。

 

「そっかー、盛り上がってて嬉しいな!」


 何だろう、私と結羽歌が喋ったときに限って盛り上がり方が違う様な気がしなくもない。


「はい!私達Whirlpoolは、ベースの結羽歌が唯一初心者で、あとはみんな経験者のバンドとなってます!曲の方は、さっきの曲ともう1曲、全部で2曲用意しているので、最後まで盛り上がっていくよー!!」


 MCの時に、『次の曲で最後』という言葉はあまり使いたくない。できればみんなには最初から最後まで盛り上がっていてほしいから、相応しくないと思うのだ。

 この瞬間が終わってしまう、なんてこと考えると、どうしてか辛くなってしまうんだから、仕方ないよ...。

 会場のボルテージが最大になった所で、次の曲に移る。2曲目は私のギターボーカルから入るから、ドラムの合図はいらない。照明が暗くなって、好きなタイミングになったら始めることにしよう。

 一度深く息を吸って、右手を動かし、お腹に力を入れて、私は歌い出した。

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