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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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本番、3ヶ月ぶりの舞台

 決して難しい曲ではない。今更焦る必要も無い。ただ、練習通りにやっていけばいい。今だけは。

 演奏が始まってまだ数秒。それなのに、真っ直ぐ前に見える沢山の人が俺を圧倒している。この感触には覚えがある。それは三ヶ月前と同じものだと瞬時に理解した。

 客席の一番前で俺の演奏に魅了されている奴は今ここにはいないが、バンド全体を盛り上げようとしている奴らは沢山いる。未だに一体感があるとは思えないバンドだが、それでも盛り上げていこうと思ってくれる人がいるから、少しくらいは頑張ってやってもいいかもな。

 まだ始まって少ししか経ってないのに、場の空気に馴染めている気がした。まあそう思い込んでるだけなんだろうけども。


 イントロからのAメロの変わり目で全体の音が遅れた気がするが、今はそれをどうこう言ってる暇はない。失敗をいちいち引きずっていてはちゃんとした演奏なんて出来るわけがない。

 俺以外もそれに気づいたみたいだったが、ミスを無かったことのように演奏を続けている。俺だって、遅れたことよりも音琶のボーカルの方が気がかりだったしな。

 俺が勝手に思ってるだけかもしれないが、音琶は本番に弱いタイプだ。そして誰よりも傷つきやすい。それでも、やると決めたことは諦めない強い心を持っている。感情の起伏があっても、音楽や、きっと俺に対する想いだって変わることはないだろう。

 そんな奴のボーカル。今は調子が良い、というよりも練習よりも声出てないか?元の曲の歌い方とあまり変わらない所があってだな、俺としてもやりやすい。

 音琶が初めてのギターボーカルを何度も苦戦していたことはわかっている。それで何度も練習を繰り返して、出来ていない所を何度も修正して、完成に近づけていった。

 完成、というものがどれほどのものなのかは誰にもわからないことだろうけど、少なくとも自分の中で決めた目標を形に出来ていると思った。


 湯川のリードも今は落ち着いている。この状態を保ってくれればこっちもやりやすいのだが、果たしてどうだろうか。

 確かにこいつは音琶より上手いかもしれない。さっきのドラムも見る限り、音楽歴はかなり長いことが窺える。しかもこいつはベースも弾けるみたいだから、相当な音楽好きであることくらい言われなくてもわかる。

 それでも、バンドをするってことの意識が足りてないのは明確だけども。それは俺にも言える話だがな。

 練習中はずっと独りよがりな演奏で、まるで自分が一番とばかりに突っ走られたから、こっちとしてもどう合わせていけばいいのかわからなかったしな。

 琴実同様ポスター作りに忙しかったのかもしれないが、音を合わせることくらいは経験積んでる奴だったらある程度の感覚でいけるものではないのだろうか。それとも俺が我儘すぎたのだろうか、と思ってしまうこともあったが、そうではないはずだ。

 まああれだ、練習でやろうと思ってなかったのことを本番でいきなりやられても、それはそれで困るって話だ。まあようやくちゃんと演奏する気になれたのか、と思うと話は別だが。


 そしてサビに入る。バンドに限らず、一つの曲で最も盛り上がる場面。1曲目では全部で3回訪れるサビだが、最初のサビということもあって、走り気味に成り兼ねない。それを防ぐのは8割方俺の役目だ。

 見極めの時は、最初のサビの時点でBPMは上がっていなかった。ていうか俺は一通り正しいBPMにしていたはずだ。周りがズレたのは...、もしかしたら俺が原因かもしれないけども、それは今考えても仕方ない。

 とにかく、曲の重要な場面はしっかり魅せないといけない。失敗は許されない。

 ベースの音に上手く合わせて、それが分かれば次はギターを上手く拾っていく。

 音琶のボーカルの調子は良好だし、走っても遅れてもいない。これなら上手くやれそうだ。だいたいこれも何度も繰り返したフレーズ、多少のやり残しはあったかもしれないが、形に出来ているのは確実で、会場の空気が変わることもない。

 この2ヶ月間で最低限の形を成したボーカルとベースは、落ち着いている。まあ特徴がない、といった欠点もあるが、それでもここまでよく頑張ってきたものだと思う。

 サビという大事な部分で響き渡る歌声も、重みのあるベースも、軽やかに弾かれたリードギターも、一つの山場を乗り越えることができた。


 そして次は2回目のAメロに入る。ここはギターを弾く部分がないから、ボーカル、ベース、ドラムだけの演奏になる。

 バンドの曲といったら、最初のサビの後にこのような構成になることが多い。一度静かになる場面と言ってもいいだろうか。正直なことを言うと、俺はこの部分が昔からどうも苦手だった。昔から、と言ってもあくまで一人で練習していた時に感じたことだけどな。

 どうして苦手かと言うと、ギターの音が全く無くなる分、ミスすると物凄く目立つ。「それだったらミスしなければいい」とは思わなくも無いが、だからといってそう思うことで本当にミスが消えるわけでもない。それにいくら上手くなったとは言え、初心者の結羽歌にとってはこのようなフレーズはプレッシャーになるだろう。何だかんだでこの曲でベースが一番目立つ場面なわけだし。

 実を言うと、ドラムはこの場面はハイハットとバスドラムしか使わない。俺が心配している事と言えば、ベースの音との調合が上手くいかなくて共倒れになることだ。だからこうしてベースの音を聞きながら叩いているわけだが、見極めの時はベースのズレに早く気づけたから完全に自分のペースを保ったが、それはあまり良いやり方ではない。

 だからこそ、本番ではそうならないようにしていきたいのだが、果たして上手くいくだろうか。

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