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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
123/572

本番、観客の歓声

 ***


 一組目(?)が終わり、2バンド目の準備に移るが、ギター等の楽器は個人で用意してもらうから、やることと言えばマイクスタンドを移動して、高さを少し変えるくらいだ。それなら特に俺がすることはない、ドラムのシンバルの高さや位置の調整はドラマーでPAの淳詩がやることになっているみたいだからな。

 次の奴ら、構成はボーカル、リードギター、ベース、シンセ、ドラムの五人組だが、メンバー全員とはまともに話したことがほとんどない。部会や何かしらのライブ、適当な集まりぐらいでしか顔をみたことないし、練習をしているのかどうかも怪しい。

 さっきの大津の演奏が良かったから、観客はこいつらもそれなりの演奏をするもんだと思っているだろう。だがな、あまり期待はしないでほしい、きっとほぼ確実で求めていたのとは違うものが披露されるからな。見極めの時に思ったが、こいつら多分サークル辞めるだろうな。


「ねえ夏音、私いつも通りかな?」

「は?」

 

 転換の手伝いを終えた音琶が隣から話しかけてくる。突然何のことを言っているのかわからないから再度問う。


「私の表情、いつも通りだよね?」

「...突然どうしたのかと思ったんだが」

「もう、どうしてそんなに怒ってるの?私なんかしたかな?」  

「別にキレてねえよ、お前が意味分からんこと言ってきたから困惑しただけだ」

「意味分かんなくないよ!だって、いつもと違うとこあったらどうしようって...」

「心配すんな。お前は何も変わってねえよ」

「夏音...!」


 こいつはさっきまで何を考えていたのだろう。まだ出番まで時間あるというのに、転換の間に音琶にとって重要な何かが降りかかったのだろうか。


「...何があったか知らねえけど、お前はいつも通りだ。変なこと気にしてると変になるぞ」

「うん!」


 こいつ、ライブの時になっても自分の感情がコントロール出来てないのかよ、と思いやや呆れるが、音琶を信じたいと思っている俺からしたら慣れていることだった。

 そして2バンド目の出番となるのだが、まあ思った通りの演奏が繰り広げられていた。観客の反応は予想に反するものだったけどな。

 俺は終始、自分があの場に居たら恥ずかしくて死にそうになるな、と思いながら見ていたが、観客含め、音琶や結羽歌達部員も、普通に盛り上がっていた。

 不思議なものである。俺は最低限の技術を見せつけないと観客は盛り上がらず、ライブというものの体裁を保つことができないと思っていた。歓迎ライブの時だって、そこまで上手い奴らがいなくて楽しめることは出来なかった。それでも、日高は『楽しめればそれでいい』と言ってたわけだ。

 そもそも音楽を楽しむこと自体欠落した人間には、その言葉は理解できないよな。例え今までレベルの高い演奏を見てきた奴が今のライブを見ても、普通に楽しむことができるんだろうな。


「ありがとうございました!」


 演奏技術とは関係なく、やり切ったという想いが込められたその声に、観客がさらに盛り上がった。俺には特に印象に残らない演奏でも、他の誰かの記憶には残るのだろう。


「なあ音琶、お前ってライブ見てる時ってこんなになるんだな」

「へっ!?こんなにって!?」

「いや、なんか頭振ってはいないけど、右腕は振りまくってたし」

「それが普通じゃん?」


 今まで音琶とはXYLO主催のライブに行ったことがあったが、その時以上に奴の身体が動いていた。しかも前行ったライブの方がよっぽど上手い奴らが集まっていたというのにだ。


「逆に夏音は何でずっと棒立ちだったの?」

「いや別に...」

「まさかそんなに上手くないから、とか思ってる?そんなのダメだよ、まずは楽しまないと!だからって手を抜いた演奏していいってわけじゃないけど」

「ああ、やっぱりお前もさっきの奴らが手抜いてるって思ってたのか」

「違うよ!」

「あ?」


 なかなか噛み合わない。音楽の価値観が違うとここまでになってしまうのか...。


「一生懸命だったよ!手抜きの演奏なんてしてるわけないじゃん!夏音は何を考えているのかな?」

「何が何だかな...」

「手を抜いた演奏ってのは、あくまで私自身のこと言ってるだけだよ。だって経験者なのに恥ずかしい演奏できるわけないでしょ?」

「まあそうだけど」

「夏音にも言えることだからね!」

「はいはい」

「そうやって勝手に演奏技術の分析ばっかりしてるから楽しめないんじゃないの?」

「...そうかもしれないな」


 演奏技術の分析、か。してはいるが、それが本当の原因とは考え難い。俺が一度音楽を辞めた理由は、それではない。

 元々上手くなりたいと思っていた俺は、自分自身の演奏の分析は何度もしていた。それが今は、自分だけでなく他人のものもしているというだけだ。そもそも、俺は今までレベルの高い演奏ばかり見てきた人間だからな。

 2バンド目から3バンド目の転換の時間、音琶はステージ上で準備はしていなく、いつの間にかどこかに行っていた。

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