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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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部会、想定外の内容

 4月18日


 新歓ライブが終わり、新入生を加えての部会は今日が最初であった。

 授業が終わり、日高と池田さんと部室に向かう。

 別に緊張していないが、池田さんはいつも以上に顔を強張らせている。

 音琶もこれからこっちに来るだろう、果たしてあいつはどんなテンションなのか、少し気になってしまう。

 まあ、俺にとって今日は運命の日になるんだけどな。


 部室に着くと、既に新入生と思われる奴らと2年生以上の先輩達が集まっていた。

 部室の床一面に絨毯が敷かれているので、くつろいでいる者やあぐらをかいている者、正座している者等様々である。

 それにしても正座している奴多いな、そいつらは同期で間違いないだろう。

 と、そこに音琶がいた。体育座りしながらスマホを触っている。

 

「おつかれ」


 俺は音琶の隣に座り、声を掛けた。

 どうも大学入ってから音琶とばかり話しているせいで俺から話しかけるのも当たり前のようになってしまっている。


「あ、おつかれ」


 音琶が返してきた。

 それに続いて日高と池田さんも座る。



 18時30分ジャスト


「はい、これから部会を始めます」


 ホワイトボードの前に座っていた部長と思わしき男性が部会を開始した。

 そういえば、新歓ライブ以外で部長を見るのは今日が初めてだな、あの時までは誰が部長なのかも分からなかったけど。

 その後、部長は2年生以上が全員居ることの確認を取った後、新入生に自己紹介するように促した。

 適当に座っている順番から、新入生が次々と自己紹介していく。

 やがて音琶の番となった。


「上川音琶です、ギター志望です。一応経験者なので、先輩達から色々話聞きたいと思ってます。よろしくお願いします」


 音琶にしてはまともな自己紹介だった。

 こいつのことだから中二病全開の自己紹介なんて期待したけど、流石にそれはないか。

 まあ俺とバンド組むために入った、みたいなこと言われるのは御免だけど。

 

「滝上夏音です、ドラム志望です。かれこれ12年やってます。よろしくお願いします」


 ドラム歴12年の言葉を聞いた瞬間、部長の表情がやや変わった。ここまで長くやってる人は珍しいのかもな。

 長い年月ドラムやっててもいい思い出が無いのも事実だ、叩いている時に昔のことを思い出してしまって上手く出来ないのがコンプレックスにもなってる。


「日高奏です、ギターやりたいと思ってます。初心者なんで色々よろしくお願いしまーす」


 日高の自己紹介は軽い、性格がよく出ていらっしゃる。


「えと、池田......、結羽歌です。ベース、やってみたいです......。その......、よろしくお願いします......」


 こいつもよく性格が出てるよ、声小さいけどな。


 

 全員分の自己紹介が終わったが、ここで俺は違和感に気づく。

 新入生は全員で18人いるようだが、ここにいる先輩の数は18人にも満たない。

 数えてないからわからないけど10人いるかいないかといった所だ。

 さっき部長が全員居るかの確認を取っていたから、これで全員なのは間違いなさそうだ。

 多分、どの年度も10人~20人位の新入生が入ってくるはずだろう、それなのにこの人数ということは全員辞めたのだろうか。

 高校の軽音部は辞める部員がいたとしても多くて5人いるかいないかだったしな。

 本当に全員辞めたとなれば、果たしてこのサークルには何が隠されているのだろうか。

 

「はい、全員の自己紹介が終わったとのことなので、これからサークルの掟がまとめられた冊子を配ります。ここで俺が読み上げるけど帰ってからしっかり読んでおくように」


 部長の言葉と共に、副部長と思しき先輩が冊子を配り始めた。

 配ってるのはこの前のギターの先輩だった。

 結構分厚いな、てかワープロ入力、これ作るの絶対相当な時間掛かってるだろ。音琶もまじまじと見つめている。


「全員分渡ったので、これから読み上げます。1、部会について......」


 これからが長かった。全部読み上げるだけで30分はかかっていたと思う。


 

 サークルの掟


 ・部会は原則全員参加、やむを得ない用事を除いての遅刻欠席は禁止

 ・ライブ等の行事も原則全員参加、やむを得ない用事を除いての遅刻欠席は禁止

 ・長期休みに行事がある期間は帰省は禁止

 ・部会中の携帯電話の使用は禁止、やむを得ない用事で使用するときは申し出ること

 ・機材は大切に扱いましょう

 ・個人練習するときは自由に使ってもいいが、バンド練習の時は必ず予約すること

 ・先輩にタメ口禁止、失礼の無いように

 ・部員同士では下の名前で呼び合うこと、先輩には~さん、又は~先輩と呼ぶこと

 ・兼部している人で他サークルとの予定が重なったときは当サークルを優先すること

 ・積極的に練習しましょう

 


 等々、これだけでは足りないが、大体こんなもんだろう。

 それにしても凄まじい内容である、ここまでサークルに賭ける意味ってあるのだろうか。

 遅刻欠席禁止、行事がある期間の帰省禁止って......、そんなのアリなのか?

 大学生は比較的自由ではあるけど忙しいのも事実だし、流石に勉強がキツくなったら休ませてくれるよな。その考えも甘かったことが後でわかるけど。  

 音琶や日高はこれについてどう思っているのだろう、隣に座ってる二人の顔を窺ってみる。

 音琶は複雑そうな表情をしていて、日高はと言うと......、明らかに嫌そうな顔をしていた。

 まあ無理もない、良くも悪くも日高は真面目じゃないし、掟に縛られるのが嫌いなタイプだろう。

 こいつとはバンド組むことになってるけどやっぱ辞める、とか言わないよな?


「ライブの告知があったら伝えて下さい、無かったらこれで部会は終わります」


 部長の合図と共に今日の分の部会は終わった。

 聞くだけで疲れた。


「これから飲み会しまーす! 行きたい人は来て下さい! 先輩と話す良い機会になると思うので来た方がいいよー!」


 誰かが飲み会の勧誘をし始めた。

 これは行った方がいいのだろうか、正直帰りたいが。


「なあ音琶、どうする?」


 すかさず俺は音琶に聞いていた。


「行こうかな......」


 やや元気が無かったが、音琶は行くそうだ。


「日高と、池田さんは?」

「二人が行くなら行こうかな......」

「あ、えと......、私も、行きます......」


 結局4人とも行くことになった。

 この時俺は音琶に謝って意地でも去るべきだったのかもしれない。

 目の前のことしか見てなかったから、自分にとっても音琶にとっても何か大切なことを忘れていたのだった。


「なあ音琶」

「何?」

「......いや、何でもない」


 俺は出来なかった。やっぱりサークル入るのはやめる、ここは俺には無理そうだ、と言うことを。

 折角俺のことを求めている人がいるのに、それを反故にするような無責任なこと、できるはずがなかった。

 

 ***


 夏音が何か言いかけて、やめた。

 何を言おうとしているのかは大体想像できた。

 きっと私と同じ事を考えているだろう、と。


 これから私は、一ヶ月前から今までのことを深く後悔することになってしまうのである。

 夏音に話しかけていたことが、後からこんな形になってしまうなんて、あの時の私は考えもしていなかった。


 ただ一つわかったこと、やっぱり噂は本当だったのだ。

 これであの人のことが聞き出せたら、と思うと簡単には引き下がれない。


 本当はここで去るべきだったんだ。

 待ち受けているのは絶望しかないのに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『小説』としてみればかなりレベルの高い作品になっています。 わかりやすく、読みやすい。 これだけでも素晴らしいと言えるのに、更には登場人物一人ひとりに想いがこもっているように感じられ、…
2020/09/06 20:00 退会済み
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