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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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準備、束の間の休憩

 学食の適当な席で二人向き合いながらお昼ご飯を食べる。土曜日と言うこともあって人は結構居たから、並ぶのに時間が掛かってしまい、あまりのんびりしていられなくなってしまった。

 今ここに居る人達、ライブには来ないのかな...。とにかく一人でも多くの人に見て貰いたいっていう気持ちはあるけど、プレッシャーも凄い。結局誘ったのは悠来だけだし...、ていうか他にこれと言って仲の良い人が居るわけないんだけどね。


「ねえ、夏音は何人くらい誘ったの?」


 正面でカレーをスプーンで掬って食べてる夏音に問う。日高君は誘っているだろうけど、千弦も誘ってるのかな...。それとも私が知らないだけで夏音には沢山友達がいて、百人くらい誘ってたりとか...、それはないよね。

 

「俺は誰も誘ったつもりはねえよ。ライブの話したら行くって言ってきた奴ならいるけどな」

 

 うーん、本当は見に来て欲しいって思ってるんだろうけど相変わらずだな...。その人はきっと日高君だろうけど。


「そうなんだね、私は一人だけ」

「珍しいな」

「え?」

「お前のことだから、知ってる奴も知らない奴も関係なく誘ってそうだけどな」

「もう、流石の私も友達じゃないと誘いにくいんだよ?」

「よく言うぜ...」


 呆れ顔になりながら水を飲む夏音は、どこか遠くを見ていた。何か考え事をしているんだろうけど、今は何を思っているのだろう。

 ライブにはどれくらいの人が来るのだろう。体育館は少なくとも千単位の人が入れるようになっているけど、それでもしガラ空きだったら悲しい。

 冷静になって考えると、体育館は大抵のライブハウスよりも広いから、沢山の人が入ることが出来る。逆に人が全然居なかったらそれはそれで悪い意味で目立つ。私としては自分の演奏を出来るだけ多くの人に見て貰いたいから、誘ったのは一人だけだけど会場が埋まってくれればいいな、と思っている。


「てか音琶、お前ここが地元なんだろ?それだったらXYLOのスタッフだったり、高校の同級生とかも誘えたんじゃないのか?」

「!!」


 高校の同級生。夏音が発したその言葉に思わず固まってしまう。高校には通ってない。これも夏音に話していないことの一つであって、私が最初から鳴成市に住んでいるってことも言ってない。でも、XYLOで一度バイトを辞めているって発言から怪しまれたんだろうな...。

 

「あー、それね...。でも洋美さん来てくれるみたいだし、あの人が居ない分他のスタッフが出なきゃいけないみたいで、XYLOの方は厳しいだとかで...」

「オーナー不在のライブハウスとか笑えないよな」

「うーん、でもあの人自分の用事がある時は結構休み取ってたし、それに他の正社員がオーナー代理としているから今まで何とかなってたし、きっと大丈夫だよ!」

「へえ...」


 完全に挙動不審な喋り方になってしまった。夏音は勘が鋭いから、この何気ない発言で私の秘密がバレてしまっても可笑しくない。ここは何とかして誤魔化さないと...。


「まあいいけど。XYLOの方はともかく、高校時代に何かやましいことがあったんなら、そこまで追求するつもりはない」

「え...」

 

 流石夏音と言った所だ。話の大まかなことは把握しているみたいだった。これじゃ他のことも私が話す前に気づかれちゃうな...。


「俺だって大学入る前はいい思い出ねえから、話したくなかったら話さなくていい」

「そっか、それじゃ話さない」

「それに、人なら百人集まればいいもんだろ、ポスターだってキャンパス中に貼ってるわけだし、他の音楽サークルの奴らだって暇つぶしに来てくれると思うけどな。別にライブハウスでやるわけじゃねえんだ。嫌でも目に留まるだろ」


 不意を突かれて焦ったけど、何とかなって良かった...。夏音も私みたいに何か抱えているよね、今まで関わってきてわかったことだけど、夏音はいつもどこか寂しそうで、虚ろな目をしている。それでも僅かに優しさが残っていて、特に私には良くしてくれる。

 今日まで、そしてこれからも色々あると思うけど、私は夏音を支えていきたい。


「......」


 もうすぐトレーに乗った食事は全て無くなる。それから暫く二人とも言葉を発さず、黙々と食べ続けていた。


「もうすぐ時間だろ、行くぞ」

「う、うん!」


 集合の時間が迫ってきたから、先に夏音が立ち上がって私の前を歩いて行った。


 ・・・・・・・・・


 PAの音作りが全て終わったらしく、時間になったら出演順とは逆の順番でリハーサルが始まる。逆順でやったほうが時間を省くことが出来るし、転換の手間も少なくなる。

 私達の出番は最後から2番目。だからリハーサルは頭から2番目になるけど、1バンド20分だけの短い時間でいい音を拾わないといけない。

 ライブハウスでPAを経験したことはあるけど、演者としてライブに関わるのはこの前の見極めが初めてだ。いくら見たことがあったとしても、自分自身で他のパートの音をしっかりきいて、自分の演奏を引き立てるなんてのはそう簡単なことじゃない。


「最初のバンドお願いします」


 最初にリハーサルをするのは琴実達のバンドだ。桂木君もメンバーの一人だから、今PAは浩矢先輩と茉弓先輩の二人がやっている。

 このバンドをトリとして選んだのは先輩達だ。バンドの順番は見極めの時の評価順となっていて、つまり先輩達は琴実達のバンドが一番出来ていると判断したのだ。

 無論、これだけは妥当な順番だと思う。私達のバンドが最後から2番目なのは納得できないけど。あれだけやらかしたというのに、トリ前というのが理解できない。これならトップバッターの方がまだ吹っ切れる。

 やっぱり、先輩達は技術面でしか、バンドを見ていないんだな...。

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