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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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準備、拭えない違和感

 ***


 私のパートはギターだけでなくボーカルでもあるから、二つ同時に結線をしなくてはならなかった。とは言っても、夏音達がやっているようなドラムの結線よりは使うマイクの数が少ないからそこまでして大変といったわけじゃないけど...。

 ライブハウスでバイトをしている身としては、何度もやった作業をサークルのライブでもする、といった所だから慣れているし、掟を見なくても作業工程はしっかり頭の中にインプットされている。

 他の人が戸惑っているのを見て、簡単に説明しながらマイクをアンプに付けていき、準備を整える。PAはPAで、照明は照明でそれぞれの準備を進めているけど、やっぱり先輩達は非協力的な感じだ。見極めの時も1年生が主体となって準備を進めていて、出来ていない所があったら指摘する、くらいのことしかしてくれないのだ。簡単な手順の指揮はとっていても、それだけじゃ足りないのは明白だった。

 いくら何でも放っておきすぎなんじゃないかな...。そもそもこうやって準備をする機会なんて、普段のサークル活動では得られてないというのに、まだ入って2ヶ月ちょっとの新入生が出来るようになるなんて思えない。

 大体マイクの種類とか、機械の細かい部分とか、覚える事が多いのに、掟に書いてあるから本番までに覚えておくように、で済まされてはたまったもんじゃないと思う。私や結羽歌、夏音みたいにある程度の経験がある人ならまだしも、先輩なんだからもう少し後輩の面倒くらい見なきゃいけないんじゃないの?


「ねえ音琶、ここのシールドどこに繋げばいいんだっけ?」


 こんな感じで、先輩でなく私が頼られる事が多くて、あまり自分の作業が進行しないのも悩みだ。頼むから先輩、1年生に教える機会くらいは設けて下さい...。


 ・・・・・・・・・


「あの、鈴乃先輩」

「ん、何?」


 一通り結線を終えて、ドラマーがチューニングをしている間、私は鈴乃先輩に相談することにした。


「1年生に準備を覚えさせるのは全然いいんですけど、せめて先輩達も少しはサポート入れた方がいいと思います」

「あー、それね...」


 私の言葉に、鈴乃先輩は顔を曇らせる。


「去年の私と同じ事思ってるね」

「そうなんですか?」

「私もそのことは先輩達に聞いたんだけど、そうでもしないと1年生は危機感を持たないし、覚えようともしなくなるからって言われたよ」

「え...」

「掟に書いてあるから、それを読んでおけば大丈夫なんだとあの人達は思ってるみたいだよ、でも本当はただ教えるのが面倒なだけだろうけど」


 曇らせた表情のまま、鈴乃先輩は話し出す。先輩達が後輩に無干渉なのは前から思ってはいたけど、ライブっていうのはみんなで創り上げるものだと私は思っている。

 確かに今回は新入生が主体のライブだけど、だからといって部員である以上、最低限後輩にちゃんとした指導をするべきだと思う。


「PAとか照明はさ、細かい機械使うから先輩ついてるけど、楽器ごとの結線とかチューニングは完全に後輩任せなんだよね。私もサポートに入りたいんだけど、それだと3年生以上が黙ってないの。先輩なんだから黙って見てろ、本当にやばくならない限り足を踏み入れるな、みたいなこと言ってくるんじゃないかな」

「そんな...」


 一体あの人達は私達のことを何だと思っているんだろう。私はただライブを楽しみたいだけなのに、こんなんだとただ一つのライブを創り上げるための当たり前の作業をこなしているだけで、ライブそのものの本質に辿り着けていないと思ってしまう。

 ステージ上で繰り広げられているチューニングも1年生が主体となっていて、先輩達は作業工程を監視しているかのようにその場に立っているだけだ。


「これでいいわけ、ないですよね...」

「音琶がそう言ってくれて良かったよ」

「どうしたらいいとか、ありますか?」

「うーん、直接意見を言うのが一番だと思うんだけど、それだと点数に響く可能性あるかな」

「だからといって、このままの状態を続けるわけにもいきませんし...」

 

 二人で難しい顔をしながら、考え込む。暫く考えても、なかなか良い方法は浮かばなかったけど。


「ごめん音琶、今は他に先輩達いるし、ライブ終わって余裕があったら、二人だけで会おっか」

「...そうですね」


 それから数十分経って、チューニングが終わり、PAがマイクの音を調整する作業に移り出す。この間、それ以外のメンバーは基本空き時間になる。そのまま体育館に残る人もいれば、買い出しに行ったりする人もいる。一応予定の時間までに集まっていれば大丈夫だから、学食でも行こうかな。


「夏音お疲れ、これから学食行かない?それともドラム音やるんだっけ?」


 チューニングが終わった夏音に声を掛ける。ドラム音というのは、PAの音作りの時にドラマーの誰かが残ってドラムのタムやシンバルの音を調整する作業のことを言う。

 ギターやベースは個人の物だからリハーサルの時に合わせればいいけど、ドラムは演者全員が同じものを使うし、マイクが多いからこのタイミングで音を作ることになっている。


「ドラム音は淳詩がやることになってる。あいつPAだから丁度良いってことでそうなったんだよ」

「そっか」

「別に学食行くくらいいいぞ、先に淳詩に買い出し頼まれてるけどな」

「それじゃその後行こ!」

「そうだな」


 準備のことに対する違和感は夏音も抱いているだろうか。そう思いながら話していたけど、鈴乃先輩とのことは夏音にも言っといた方がいいのかな...。

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