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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第9章 LOVE in the ME
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準備、ライブまでの道のり

 6月28日


 とうとうこの日になってしまったわけだ。俺にとって人前でライブをするのは3ヶ月振りなわけだが、特別な感情が芽生えているというわけではない。ただ一つ、練習でやってきたことをいつも通りにやっていくだけだ。

 12年間もドラムに触れてきて、何を今更不安になる必要があるのか、曲だって別に難しいわけでもない。きっと大丈夫だ。それに、音琶が着いているから、何も問題もないはずだ。


 午前10時


「おはよう夏音!」


 朝から元気な挨拶を俺に向けてくる音琶に、少しだけ心が軽くなる。右肩を露出させ、赤と黒が混ざったTシャツを着ながら奴は近づいてくる。こいつは今日という日を楽しみにしていたわけだから、張り切ってるのがよくわかる。


「元気だな」

「だってだって、今日はライブなんだよ!?私の願いが叶うんだよ!?」

「はいはい、わかってるよ」


 初めて会ったときから俺とバンド組みたいって言ってた奴だ、元気がない方がおかしいよな。


「早く準備するぞー!それと反省用紙俺に出してくれ」


 部長が合図を出し、まずは1年生全員が見極めの反省用紙を渡す。全て受け取ると部長は部室の扉を開け、それぞれの機材を運ぶように促してきた。


「行こっか」

「そうだな」


 部員全員が揃って自分の楽器や、アンプといった大きな機材を運び出す。因みに、体育館にはドラムセット一式が用意されているわけがないから、部室にあるものを解体して運ぶことになっている。ライブハウスでやるのなら話は別だが、今回は会場が会場だから仕方の無いことであるが、面倒事なのには変わりはない。


「みんなどこやる?」


 他のパートの奴らが重い機材を運んでいる中、ドラマー共々はドラムの解体作業に入っていた。ふと扉の方に視線を向けると、アンプを結羽歌と二人がかりで運びながら、辛そうにしている音琶の姿が見えた。大丈夫だ、台車に乗せれれば後は楽だからな。


「それじゃ、俺はシンバルやろうかな」

「じゃあ俺はタム」


 俺を除いた1年は、掟を見ながらそう言った。俺としては、いくら説明が書いてあるからといっていちいち見ていては時間が余計に掛かる気がしなくもないのだが。別にそこまで難しいことじゃないから、事前に予習しておけばこんな面倒くさいことしなくてもいいと思うのだがな。

 まあ、予習もしないで掟も見ずに挑んで機材が壊れた、みたいなことにならないだけまだマシか。


「了解、そしたら俺はスタンドたたむから、各自取りかかれ」


 何故か俺が仕切るようになっていたが、2人の先輩は俺らの様子を見ているだけで何もしてこないのだから仕方が無い。取りあえず、シンバルとタムはそれぞれのケースに入れて、スタンドは手で直接運び出す。

 一遍には無理だから、何度か往復することにはなるけども取りあえずある程度は予定通りだ。あとは時間が押さないように素早く行動しないといけないわけだが...。


「...何やってんだ」


 部室の外に出ると、1年生の何人かが並んで立ち止まっていた。まさかとは思うけど...。


「いや、台車来るの待ってるんだけど...」


 その中の誰かが言った言葉は、大体俺の予想通りだった。部室から体育館までの距離はせいぜい150mくらいだ。対して距離でもないのに何故運べる物をどんどん運ばないのか。はっきりとは言われなかったが、台車に乗せるのは大きくて人の手で運ぶのが難しいものだったり、重すぎるもの限定のはずだ。

 それなのに、ここに並んでいる奴らはまず重くて大きいものを運ぶことだけで頭がいっぱいになっていて、台車が来るまでに簡単に運べるものを持っていこうとしていなかったのだ。


「個人の楽器とか、マイクとか、待っている間に持ってけよ」

「ご、ごめん!」

 

 俺に言われて初めて気付く当たり、こいつら掟すら読んでないな。別に俺は掟というものの存在価値を理解してないが、最低限ライブするに当たっての準備くらいはしっかりやってもらわないと困ると思ってはいる。時間をいかに短縮できるかが大事だというのに、ライブの基本すらわかってないとなると迷惑極まりない。


「全くあいつらは...」

「何か夏音、こういうの手慣れているよね」


 後ろでシンバルケースを抱えた淳詩にそう言われてしまった。仕方ないだろ、高校時代はバンド組んでもらえなくて雑用ばっかりだったんだからな。嫌でもライブの準備だとか、機材の扱い方は身に染みついているんだよ。

 卒業ライブの時だけ、人を都合の良いように扱いやがって...。

 

「夏音、大丈夫?」

「あ?」

「暫く立ち止まってたから、大丈夫かなって」

「ああ、すまんな。早いとこドラムの機材持ってくぞ」


 そう言って一人前を歩いていったが、高校時代を思い出したところで良い気分にはならない。今の俺はあの時と違うわけだし、バンドだって組んでいる。それにあの時にバンド組んでなかったら、音琶には会えてすらいなかったんだよな。

 俺がまたバンド組んでライブするなんてことを三ヶ月前の自分に言い聞かせてたら、そいつはその言葉を信じるのだろうかね。きっと信じないだろうけども。 

 それから数の多いスタンドを次々と運ぶ作業を何度かこなし、全てを体育館に持っていくまで少なくても30分はかかった。初心者がいる割には上出来だろう。


「そしたら、セット作るぞ」


 次は兼斗先輩が指揮をとり、解体前と同じ構造になるように、ドラムセットを組み立てることになった。


「いや待て、他のパートの奴ら手伝え」


 ふと目をやると、未だにアンプをステージに上げられていないギタリスト共が密集していた。これだけ大がかりでやっていて運べてないってどんだけ不器用なんだよ...。


「行くぞ」


 そう言う前に、ドラマー1年の二人は行動に移していた。まあそうやって言われなくてもやることをやろうとする姿勢があるだけ、さっきの奴らよりはマシだな。

 ギターアンプを体育館のステージ上に持って行く。その作業は男子が主体となっていたものの、運び方がよくわかっていないらしい。それも掟に書いていたというのにな。女子共は部室に忘れ物がないか確かめに行っている最中で、そろそろ戻ってくる頃合いだ。

 アンプの下の部分を支え、二人がかりでステージ上に乗るように持ち上げる。その作業を繰り返していき、やがて掟に書いてあった図のようにセットが完成した。


「そしたら、ドラム以外は先に結線していけ。セット組んだらすぐに取りかかるからな」


 PAである浩矢先輩の合図が聞こえ、それぞれのパートがマイクやシールドを用意していき、俺もドラムセットを完成させるべく、作業に取りかかった。

 こうして正確に準備ができていれば、サークル内での成績も上がるのだろうか。今はそんなことより、ライブの方が大事だから終わるまでは考えないようにしておくか。

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