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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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前日、その前の練習

 明日の集合時間は朝の10時、集合場所は部室。

 時間になったら、部室から体育館まで個人の機材、サークル用の機材を体育館まで運ぶ。

 重いものがほとんどだからなかなか骨の折れる作業だが、大学の方から台車を貸して貰っているらしく、アンプ等といった壊れやすいものはそれで運ぶことになる。

 音響機材も体育館にあるものを使って良いとのことで、基本は自分が使うものを個人で管理することが第一となっている。


 11時には全ての機材を体育館まで運び出し、それが終わると結線、そしてPAの音作りに入る。

 恐らく、見極めの時のことを考えるとここが一番の正念場だろう、会場が大学の体育館ともなれば、特に誘ってなくても暇な奴はふらっとでも見にくるはずだ。

 最低でも見てくれる人達を待たせるわけにいかないが、経験の浅い奴はライブの感覚が未だに掴めていない所が多く、計画通りに物事が進むとは考えにくい。

 だからこそ、先輩達がそいつらを上手くサポートしていく必要があると思うのだが......、果たしてどうなることやら。

 ライブが始まるのは16時で、終演が18時の予定だが、ライブハウスでやるより難易度は低いはずだから、何とか上手く進んで欲しいものだが、簡単にいくわけないよな。


 ・・・・・・・・・


「......いよいよ明日か」


 本来なら部会が始まっている時間だが、今日は違う。

 今から2時間、本番の最終調整としてバンド練習が始まったのであった。

 今まで色々あったし、俺の実力があれから少しの時間で上がったとも思えないが、少なくとも本番への意欲はあるはずだ。

 もうこれ以上音琶を悲しませたくはない、だからこそ俺に出来る最低限の演奏をぶつけていかないといけないのだ。


「最初の曲、夏音が合図してくれないと始まらないよ?」

「ああ、そうだったな」


 今、部室にはバンドメンバー以外に泉と琴実、そして淳詩がいる。

 琴実はともかく、泉は照明、淳詩はPAだから最終確認という名目で来てるのだろう、見極めの時もこいつら結構苦戦していたし、参考にってことで他のバンドの練習に顔を出しているらしい。


 にしても、こうやって1年生が頑張っているのだから、先輩達も少しくらいサポートしてやっても良いと思うのだが。

 あいつらが部会とバンド練習以外で顔を出すことはあまりなく、後輩に教えていたのも結局最初の方だけだった。

 それでも、こうして練習風景を見て参考にしていたり、少しでも自分の実力を上げようとしている奴らがいるということは、先輩になった時に後輩への指導をしっかりするんだろうな。


「いくぞ」


 スティックを鳴らす合図と共に、ギターの音色が室内に響き渡る。それに重なってベース、そしてドラムが加わる。

 イントロの盛り上がりは曲の第一印象でもあるから、大事な部分を殺さないように音を積み上げていく。

 そして、イントロが終わると当たり前だがボーカルが入る。


 音琶のボーカル......。最初は聞いていられなかった声も、今となっては1つの旋律だ。

 ボーカルというバンドの主役をしっかりこなしている歌声を俺はドラムで支えるべく、音を整えていく。


 結羽歌のベース......。いきなり勝負を持ちかけられて、先輩には辛い言葉を浴びせられ、何度も足掻いてきたベースは、まだまだ上手いとは言い切れないが、音楽を楽しむことの意思が充分に伝わってきている。


 ギターがドラムの音を聞いて合わせるように、俺はベースの音を聞きながら音を合わせていく。


 初めて合わせた時から1ヶ月、長いような短いような、何とも言えない時間だが、その間に2人はここまで仕上げてきたのだ。

 きっと何度も辛い思いをしてきて、折れそうになっても部員の支えや自分自身の意思が2人を変えていった。

 2人の演奏を聴いていると、この1ヶ月で何も変わらなかった自分が情けなくなるくらいだ。

 でも俺はもう投げ出さない、このバンドの中で俺が一番出来ていなくても、まとまりを壊していたとしても、それでも音琶は俺を必要としているし、結羽歌は俺を導いている。


 きっといつかは絶対に本来の演奏を取り戻すことが出来るはずだ、そう信じているあいつを裏切るわけにはいかない。


 だから俺は、1つの音を創り上げていく義務がある。


「今までで一番合っていたんじゃない?」


 一通りの演奏を終えると湯川が口を開いた。

 こいつに対しての違和感として、いつもはリードギターが暴走しているというのに、本番直前になって音を合わせだすという行為が挙げられる。

 ちゃんと合わせられるんなら最初の練習の時から合わせろっての、今までのがわざとだってことくらい俺にはわかってるんだからな。


「そうだな、お前のリードが珍しく合っていたからだな」

「へえ、夏音はそう思うのかい?」

「最初からできるならそうしろや」


 こいつの感じの悪さは何も変わらないが、今は気にしたら負けだ。とにかく残りの時間で何が出来るのかを考えなくては。


「でもさ、夏音のドラムはあんま変わってないけど、結羽歌もまた少し良くなったよね! 多分私も」

 

 音琶、地味に傷つくし、お前を泣かせてしまったことには少し後悔しているんだからそこは自重しろ。

 追いかけてくれたこと、感謝してるんだからな。


「そうだな、音琶が一番良くなってるよ」

「本当!?」

「俺が言うんだからそうなんだろ」

「やったー!」


 幼い子供のように両手を上げて喜ぶ音琶、こういう無邪気な所がまた可愛いんだけどな。


「えっと......、私は......」


 音琶の右隣で問う結羽歌には、音琶とはまた違った言葉を告げる。


「メンバーの中で1人だけ初心者だってのに、よくここまでやっていけたよな。最初はかなり心配だったわけだが......」

「やっぱり私が居たからだよね!!」

「お前は黙ってろ」

「むう~」


 勝手に割り込んできた音琶を黙らせるつもりで放った言葉は奴を不機嫌にするだけだった。

 ならもっと上手い言葉を掛ける必要がありそうだ、今後は。


「まあ、結羽歌には音琶が居ないと耐えられなかったかもな。色々あったわけだし」

「うん......、本当に色々、あったね......」

「別に気にするようなことでもないがな。お前はお前のやりたい演奏をすればいい」

「やりたい演奏......、私頑張るよ!」


 メンバーそれぞれの意欲は今までで最大のものになっているはずだ。

 数々の苦難はあったが、明日は全てを曝け出す時、何があろうと積み重ねたものを見せにいく。


 これだけ頑張ったのだから、きっと上手くいくはずだ、演者全員が、明日という日の主人公なのだから。

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