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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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対面、演奏を楽しみにしてくれる人

 見極め後から2回目の練習。


「その、すまんかったな。突然投げ出したりして、もう本番もうすぐだってのに」


 開始前に全員集まった瞬間、夏音は昨日のことを改めて謝ってきた。

 今までなら何事もなかったかのように振る舞ってきそうだったけど、私と色々あってから夏音の心境にも変化が訪れたみたいだった。


「ううん、夏音君が戻ってくれればそれでいいよ」

「今回だけは目を瞑ってやるけど、次はないからね?」

「大丈夫だよ、一緒に頑張ろう!」


 こうして、本当の意味での練習が幕を開ける。

 夏音の演奏のやり方や音の感触が、私の言葉だけですぐに変わるという保証があるっていうわけじゃないから、気になるところは積極的かつ具体的に探していって、段々良い方向に導けるようにしていこう。

 そのためには、メンバー同士でちゃんと意見を出し合って、ただ合わせるだけの練習にならないようにしていかないといけないんだ。

 でも、1回目のようなやり方が私にとって良かったか悪かったかと言われると、改めてバンド全体の改善点が見つかって、夏音のやる気も少しは上がったと思うから、結論を言うと良かったと判断してもいいと思った。

 こうして時間が経っている間、勿論私はボーカルの練習もしたし、ギターだって少しずつだけど上手くなっていった自信はある。


「音琶のボーカル、良くなったよな」


 練習開始から30分程経過しただろうか、夏音がペットボトルの水を飲みほした後、らしくないことを言ってきた。

 夏音は元々優しいんだけど、今まで以上に優しくなっていてちょっとだけ違和感はあったけど、それでも私は満たされていた。


「そうでしょ、ちゃんと練習してるんだからね!」

「まあ音琶が練習していないなんて思ってもいないけどな」


 そう言う夏音だって、ちゃんと部室で練習していたってことくらい私は知っている。

 私の信じた人が音楽の楽しさを忘れていたとしても、やるべき事はちゃんとやってくれるってことも知っている。


「夏音も、少しずつ頑張っていこうね」

「それはどうだろうかね」

「そうやってまた誤魔化す!」

「はいはい」


 結羽歌が苦笑し、湯川が呆れた表情を露わにしていたけど、そんなの私は気にしていられなかった。


「そしたら、今のとこもう一回やるよ!」


 ・・・・・・・・・


「夏音君、良かったよね。昨日はどうなるかと思ったんだけど」

「うん、本当に良かった。もうダメかと思ったんだもん......」


 練習が終わって、コンビニに行こうと結羽歌と並んで歩きながら会話を弾ませていた。


「夏音が素直に謝ってきた時はちょっと可笑しかったけどね」

「私も、ちょっとそう思ったかな。でも、きっと諦めきれなかったんじゃないかな」

「そうだよね、あんなことあっても夏音は優しいし、練習だってしてたんだからあそこで辞めるのは嫌だったんだよ」


 そうこうしている内に目的地に辿り着く私達、20時半過ぎということもあるからか、店内には鳴大の生徒らしき人が沢山居る。どこかのサークルの集団だったり、友達同士だったり色々だ。


 ここは夏音がバイトしているコンビニとは違う所で、大学から一番近い所に位置している。

 夏音曰く『そんな所は間違いなく忙しいだろうし、シフトも融通効くかどうか怪しいから絶対にあそこではバイトしない』だとか。

 まあそれは結構重要ポイントだったりするから、どっちかというと言ってることは正しいんだよね、特にうちのサークルの事情を考えると絶対に長続きするとは思えないし。

 後で聞いた話だと、辞めることすら許されないブラックなんだとか。


「あれ? 千弦ちゃん?」


 すると結羽歌が、近くに居た女の子に声を掛けていた。


「結羽歌じゃん、奇遇だね」

「うん、もしかして夜食?」

「そんなところ、かな」


 千弦と呼ばれた女の子は、カップラーメンと炭酸ジュースを両手に、人当たりの良さそうな雰囲気を醸し出しながら結羽歌と会話を弾ませている。

 確か夏音とか日高君と一緒に居たような......。


「そのこは友達?」


 ふと、結羽歌から私に視線を移して問いかけてきた。


「うん、そうだよ」

 

 私の代わりに結羽歌が答える。


「へぇー、もしかして一緒にバンド組んでるとか?」

「何でわかるの?」

「だって、背中にギターケースっていうのかな? お揃いで持ってるじゃん」

「あ......」

「あれ? 結羽歌はギターじゃなかったっけ?」

「私は、ベースだよ」

「そうそう! そうだったね、ライブ行くからね! ポスター見たよ!」

「うん、ありがとね」


 結羽歌も同じクラスの友達をライブに誘ってたんだ、私と同じだ。


「それで、ギターのあんた、名前何て言うのよ」


 千弦という名前の少女が、今度こそ私に視線を向けて話しかけてきた。


「上川......、上川音琶っていうんだ」

「ふーん、音琶かぁ。私は千弦、立川千弦」

「うん、よろしくね。立川さん」

「もう、千弦でいいよ」


 間違いない、夏音とよく一緒に居る奴だ、正直夏音が授業ではどんな感じなのか気になるんだけど、この子にも私の事情を知られるのは恥ずかしいから、夏音のことは伏せることにした。


「それじゃあ千弦、ライブ楽しみにしててね」

「うん、絶対行くよ!」


 そうして千弦はレジへと並びに行った。


「上川かぁ......、なるほどね」


 去り際に千弦が何か言ってたけど、聞き取れなかったから気にしないでおくことにした。

 でも、こうして私の演奏を楽しみにしてくれる人がまた1人増えたから、頑張ろうっていう気持ちがどんどん上がっていくんだよな......。


「ねえ音琶ちゃん」

「ん?」

「今日飲む?」


 そんなことを言い出す結羽歌は、カゴにビールやハイボールの缶を幾つか入れていた。


「結羽歌、本気?」

「うん、音琶ちゃんが起こしてくれたらちゃんと起きれるから」

「授業は?」

「一限からだけど......」

「本当に本気?」

「音琶ちゃんと飲みたいな」

「......わかったよ、でもちょっとだけだからね?」

「やったー」


 言われるがままに、私もカゴにお酒を入れることになってしまった。本当はちょっと軽食買うだけにしようと思ったんだけどな。

 でもいいや、私は授業一限からじゃないし、多少は飲んでも......、ね?

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