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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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盲点、全ての原因

 ***

 

 何はともあれ、2人のバンドに対する意欲は今まで以上のものになれたのかもしれない。

 今日の練習がどうなるのかはまだわからないけどな。


「......それで、準備しながらでいいから聞いて欲しいんだけど、本番までどうやって演奏しようとか、色々考えて欲しいんだよね」

「音琶ちゃん......」

「見極めの時に足りなかったこといっぱいあるから、どうしたら良くなるとか......、練習ってそういうことも考える機会なんじゃないかなって」


 音琶が仕切りだし、準備中でもあるのに関わらずメンバー全員の視線が音琶に集中する。


「だから、今まではただ合わせているだけだった感じがするから、これからはもっとメンバーで意見出し合おう?」


 途中から声が震えていたが、最後まで言い切った彼女は安堵の表情を浮かべる。


「まあ確かに意見は言い合ったほうがいいかもしれないけど、あと4日しかないんだよ? それで本当に良くなると思う?」


 水を差す湯川だが、お前だって反省材料多いはずだから少しは協力してくれたっていいだろ、練習はしてるんだろうけどさ、実力的に。

 時間が無いのは揺るがない事実だが、その短い時間でいかに良い演奏を創り上げれるかが問題なんじゃないのか?


「思うよ」

「へえ」

「保証なんてどこにもないかもしれないけど、そんなことやる前から言ったって意味ないじゃん」

「なるほど、それじゃあその言葉が口だけにならないようにしないとね?」

「わかってるよそんなの」


 折角やる気を出した音琶が不機嫌になってるわけだが、どうしてくれるんだこの野郎、やる気の有る無し以前の問題だろお前の言動は。


「まあいい、取りあえず一通り合わせてみるか」

「うん、みんな準備は大丈夫だよね?」


 音琶が落ち着かなくなる前に俺が上手く言葉を放ち、その場の流れを何とか抑える。

 確認を取ると大丈夫らしいから、上手く合図を取って始めることにする。

 突如部室の扉が開いて、入ってきた人物によって開始は遅くなったけどな。


「あ、もう練習始める所だった?」


 入ってきたのは泉だった。始めはなんでこいつがこの時間に部室を使うのかが疑問だったが、その理由は考えればすぐにわかるもので、


「うん、もうすぐで」

「よかった、ちょっと照明のことで確認したかったから」

「いいよ」


 まあそういうことだよな、琴実だって結構俺らの練習見ていたし、泉が入ってきたって別に悪いとかいうわけでもない。それに照明の確認となら尚更だ。

 音琶から許可が降りると、泉は肩まで伸びている後ろ髪を小さく結び、次に鞄からメモを取り出し何かを書き始めた。

 てかこいつ、いつも何かするとき髪結ぶよな、世に言うルーティンってやつか?


「それじゃあ、今度こそ練習始めるよ」


 音琶の合図と共に、俺はスティックを鳴らして全体の音を引っ張っていった。


 ・・・・・・・・・


「......まあ、見極めの時よりは悪くないよね」

 

 一通り終え、音琶がまず最初にそう言った。


「正直言って、見極めの時より悪いともうどうしようもないと思うけど?」


 次にギターのチューニングをしている湯川が言い出す。


「ごめんね、最初間違っちゃって......」


 1曲目でドラムの音とのタイミングをワンテンポずらした結羽歌が謝ってくる。


「結局個人の実力が上がっても、全体で合わせた所で上手くいくとは限らないって話だろ」


 最後に俺が意見を出す。自分でも的を得た意見だとは思ったが、果たしてどうだろうか。

 幸い、湯川以外は納得したように頷いてくれたから、まあよしとしよう。

 とは言ったものの、全員で合わせることでどのようにしてしっかりした形にすることができるのか、何度も試しているが上手くいかないのだ。


「ねえ、メンバーでも何でもない私が言うのも何だけど......」


 ふと、さっきまでずっとメモを取っていた泉が入り込んできた。


「みんな演奏してて楽しい?」


 複雑そうな表情で尋ねる泉だが、言ってることが間違ってるか、と問われても首を横に振ることは俺にはできなかった。


「なんか、与えられたことをするので精一杯になってて、演奏そのものを楽しもうっていう意思が伝わらないっていうのかな。初心者の私がそんなこと言うのも何だけど」

「......」


 泉にそう言われ、音琶は暫く黙り込んだ。

 何か大切なことを考えているように見える。


「ううん、ありがとね、鳴香」

「えっ?」

「どうしたらいいのか分かったから」

「......そう、それならいいのだけど」


 すると音琶は俺の前で立ち止まり、右手の人差し指を突きつけてこう言った。


「夏音が一番できてない!!」


 はい? どういうことですかね、俺は与えられた譜面を叩いているだけで......、


「......」


 与えられた譜面を叩いているだけ、そう考えかけた所で思考が止まる。

 

「夏音はいつになったら楽しくなれる演奏ができるようになるのかな!?」

「はぁ......」

「何で溜息つくの!? 私真剣に言ってるんだよ、バンドの音を支える役割を持っている人がそんなんでいいと思ってるの!?」


 音琶の後ろで泉も頷いている。そして音琶は、腕を組みながら口をへの字に曲げ、俺の返答を待っていた。

 いつだったか似たようなことがあった気がするが、今はそれどころじゃない。


「そうだな、俺のドラムはただ叩いているだけの雑音なんだよな、お前にとって」

「そうだよ! 夏音は今まで私達のこと支えてたつもりになってるのかもしれないけど、全然足りてないもん! 夏音ならもっともっと私達のこと考えれるはずだし、引っ張っていけるはずだよ!」 


 散々な言われようだな、音琶の言ってることなら間違いはないだろうけど。

 だとしても、まさかバンドのまとまりが無かった最大の原因が俺だったとはね、見極めの時に一番緊張していたのは本当は俺で、俺自身が緊張していたからギターとベースに影響を与えてしまっていたわけだ。

 そもそも緊張する、ということは心に余裕がないから起こる事象であって、予めしっかり予習しておけばそんなことはまず起こらない。勉強と同じだ。


 演奏そのものを楽しもうという意思が伝わらない、という泉の意見も辻褄が合う。

 そうだよな、個人の実力が上がったのは紛れもない事実だが、全体が揃っていないから本番に向けて何を改善していこうか、という音琶の意見は''俺自身''が一番考えるべき事柄だったわけだ。


「ねえ夏音、バンドってそんなに辛いものじゃないと思うよ?」


 悲しげな表情で訴える音琶に、俺は何て返せばいいのかわからなくなっていた。

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