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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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意欲、上げるためには

 6月24日


 見極め後初めての全体練習だから、心の準備は万端にしないといけない。

 失敗を消すことはできないけど、まだチャンスは与えられている。


 最初は落ち込んで助けを求めていたけど、もう大丈夫だ、本番では絶対に失敗なんかするもんか。


 ・・・・・・・・・


 練習までまだ時間があるから、先に買ってきた夜ご飯食べたあとギターでも弾いてみんなが来るのを待っていよう。

 昨日夏音のご飯食べて、夏音の意外な一面見て、私自身も色仕掛けなんかしちゃったけど、そんなことがあったから私は元気になったんだ。

 いきなり夏音の前でおっぱいを強調するような体勢取ったときは今思えば恥ずかしいことだったけど、後悔はしていない。

 次こそは触って欲しいって気持ちがあるからね。


 鏡の前で自分の身体を見て思う。わざわざ下着姿になってまで見ているのは、例の服を着ようか別のにしようか悩んでいるわけで......。

 それにしても、最近外食する機会が減って、夏音のご飯食べること多くなったから体重がちょっとだけ減ったんだよね、お腹がぷにぷになのは相変わらずなんだけど。

 でも腹筋はちょっとついたかな、それもボーカルの練習欠かさずやってきた証拠だし、もっともっと付けていったら少しは引き締まった身体になれるかな?

 そしたら夏音も少しは私の事を一人の女の子として見てくれるかな?


 右手には見極めの時に着た服を、左手には普段もよく着る比較的動きやすい上着を持っている。

 自分の好きな服を着ると緊張がほぐれるって話をどこかで聞いたことがあるけど、右手で持っている服を好きな服として捉えるべきかどうかは微妙だし、緊張をほぐすってことになるとまた別の意味になりそうかな?

 でもこれはあくまで本番用に買ったわけで、練習の時に着る予定はないし......、どうしよう。

 本番用を着ながら練習すると少しは本番を意識できそうだけどね。


 とりあえず本番用の服を着て、鏡に映った自分の姿を見つめる。

 赤と黒を基調とした、右肩が大胆に露出しているTシャツは、どこか強そうなイメージがある。

 正直これを着ながら演奏するってことを考えるだけでモチベーションが思いっきり上がってしまう。

 それにしても、やっぱりおっぱいが強調されちゃうな、夏音が思わず見てしまうのもわからなくもない。

 幸い丈が長めだからお腹が見えるってことは無さそうだけど、お腹のラインは割とはっきりわかるタイプの服だから、やっぱりもうちょっと痩せたい。

 思い切って裾結んでへそ出しにしようかななんて考えたりもしたけど、今はまだダメだ。


 でも不思議なことに、この服を着ると身体全体が熱くなってギターを弾きたい、歌いたいっていう意欲が湧いてしまって止まらない。

 もういっそのこと練習するときは毎回これ着ちゃおうかな、夏音も似合ってるって言ってくれたし。帽子はまだかぶらないけど。



 

 18時50分

 

 10分前に部室に着くと、光が弾き語りの練習をしていた。

 相変わらず綺麗な歌声だな......、見極めの時もきいたけど、彼女の歌には独特の世界観があるんだと思う。

 

「音琶はこれから練習?」

「うん、そうだよ」


 1曲歌い終えて、私に声を掛ける光。見極めの後色々言われたけど、今となっては期待してくれてるのだろうか、その表情は優しさに満ちている。


「頑張ってね」


 光はそれだけ言って、アコギとマイクを片付け始める。

 それにしても自分のマイクまで持ってるなんて本気度が感じられるな......、長い間弾き語り続けてたら持っててもおかしくないんだろうけど。


「あと音琶、この前言ったこと忘れないでね」


 言葉を付け加えて、光は軽く微笑んで部室を出て行った。

 


 この前言われたこと


 ''この程度が音琶の本気だとしたら、私は絶対に許さない''



 普段そんなことは滅多に言わない光がそう言ったのだ。

 きっと光は、私があんな演奏をするなんて思ってもいなかったのだろう、その分のショックもきっと大きかったんじゃないかな。

 だってあれだけ私に練習付き合ってくれてたんだし、光には感謝しても仕切れないくらいだっていうのに。

 だからこそ、私はあの程度が本気じゃなくて、もっともっと上を目指せるってことを本番の演奏で証明しないといけないんだ。

 それから数秒もしないうちに、背中にベースを抱えた結羽歌が入ってきた。

 私を見るなり彼女は表情を輝かせて......、


「音琶ちゃん! 心配したんだよ~!」


 そう言いながら抱きついてきた。

 幸い立ったままだったから、背中のベースの重みはあんまり感じられなかったけど、割と勢いあったから後ろに転びそうになってちょっと危なかった。

 結局結羽歌にはLINEの返信できなかったんだよな......、何かもう、どんな文を送ればいいのか思い当たらなかったのだ。

 夏音から聞いた話だと琴実に結構言われたみたいで......。


「ごめんね、何て返事すればいいのか全然思いつかなくて......」

「ううん、音琶ちゃんもう練習来ないじゃないかな、って思ってたんだよ、だから良かった、良かったよ~」


 私に抱きついたまま涙目になる結羽歌。

 そんな顔されたから思わずその明るい茶色の髪をゆっくり撫でてあげた。可愛い奴め。

 

「大丈夫、私があんなことで折れるような人だと思ってたのかな?」

「そんなことないけど、でもやっぱり不安になっちゃうんだよ、あんなに悔しそうにしてたんだから......」

「え? そうだったかな」

「そうだよ~、気づいてなかったんだね」


 そうだったんだ、確かに凄い悔しかったけど顔には出さないようにしてたのに......。


「心配してくれてありがと、練習頑張ろうね」

「うん!」


 笑顔で涙を拭いながら結羽歌は頷いた。


「そこの二人、もう終わったか?」

 

 後ろを振り返ると、呆れ顔の夏音と壁にもたれながら腕を組んでいる湯川がいて、思わず身体が跳ね上がる。

 どこから見てたんだろう、恥ずかしい。


「お、終わったから練習取りかかろう!」

「声上ずってんぞ」

「いいから、早くやるよ!」

「はいはい」


 恥ずかしさを押し殺して、私は全体に合図を送った。

 本番まであと4日、それまでに出来る全体練習は今日を含めて後3回。

 残り少ない時間で本気の自分をどこまで演奏に表現できるかわからないけど、とにかくやってやるしかない。

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