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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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人目、気遣いも必要ない

「も......、もしもしっ!」


 焦って声が上ずってしまった、初っ端からやらかしてどうする私。


『音琶、お前どうして返事なかったんだよ』

「えっと......、それは何か心の整理ができていないというか、何というか。とにかく! 私は別に無視していた訳じゃなくて......」

『心配掛けんなよ』

「え?」


 電話の奥から聞こえてくる声は、いつもの夏音のものだったけど、どこか安心しているような感じがした。

 確かに、LINEの返信どころか既読すら付けなかったのは良くなかったと思う。でも、心の整理ができてなかったのは決して言い訳ではなく、信じてもらえないかもしれないけど紛れもない本当のことだった。

 見極めで思うような演奏ができなかったことに対して、夏音がどう思っているのかを知るのが怖かったし、申し訳ないという気持ちもあった。

 それに......、


『お前今どこにいるんだ?』

「部室だけど......」

『てか全然返信してこなかったけどよ、その間何してたんだよ』

「えっと......」


 夏音にそう問われる間に、自分の顔がどんどん熱くなっているのがわかった。心配してくれてるんだよねこれ。

 嬉しいのと同時に情けない気持ちになっていって、やっぱりちゃんと返事くらいはした方がよかったって後悔する。

 いくら塞ぎ込んでいたからってそれはよくないよね。


「反省するとこいっぱいあるから、見極めで改善するとこ一日中やってたよ」

『......』

「それに、夕方はバイトだったし」

『ああ、それは悪かったな』

「その前は部室行ってて、光と鳴香に色々言われたんだよね」

『何だよそれ』

「いや、それはちゃんと出来なかった私が悪いんだよ? 光には練習いっぱい付き合ってもらったし、鳴香には色々言っちゃったし」

『音琶はそれでいいのかよ』

「うん、だって、結果が出ないと言われても仕方ないから。でも、このままは嫌だから、バイトの時間までずっと練習してた。他の人も部室入ってきたけど、練習するために来たわけじゃなかったみたいだし」

『......お前本当に馬鹿だよな』

「......え?」


 ダメだ、全然噛み合わない、私の考えてることと夏音の言ってること、方向性が違っててどうしたらいいのかわからなくなってくる。

 頑張って次の言葉を探そうとするけど、思いつかない。


『音琶、ちょっと俺の部屋に来い』

「夏音の......?」

『いいから来い』

「わ、わかった!」


 結局私はギターを弾かないまま、部室を出ることになった。

 後ろを振り返って扉に視線を送ると、そこに鳴香が立っていた。

 

「あ......」

「音琶、あなたね......」

「いつからいたの......?」


 さっき電話で鳴香の名前出しちゃったけど、聞かれてないよね?


「音琶が、私と光に色々言われたって言ってたときより前から」

 

 まさに最悪のタイミングって所だ、別に悪口を言っていたわけじゃないけど、名前を出していた時に当の本人が登場すると申し訳ない気持ちになる。

 

「ごめん」

「別に謝るようなことではないと思うけどね」

「でも、陰で名前出してたし」

「本人の前だと陰でもなんでもないと思うけど......。音琶ってさ、よくわかんないよね」

「......そうかも」

「何か人を選んでるっていうのかな、夏音君や結羽歌になら積極的なのに、他の人に対しては気を遣ってるみたいな」

「......」

「特に私に対して、どう思われてるのかとか凄い気にしてる様に見える。正直に言うけど、そういうのはやめて欲しい」

「うん......」

「私の名前をいつどこで言おうと勝手だけど、悪いと思ってるんなら最初から言わないでほしいわよ」


 そう言って鳴香は、抱えていたギターケースからギターを取り出して、アンプに繋げた。

 肩まで伸びている後ろの髪を短く結び、練習に取りかかった。


「それと......」

 

 ギターを鳴らす前に、彼女は再び私に向けて口を開いた。

 

「音琶はちょっとした失敗で折れるような人だとは思ってないから。初心者で始めた私からしたら、音琶は憧れでもあるんだからね」

 

 それだけ言って、鳴香はギターを弾き始めた。


 ・・・・・・・・・


 夏音の部屋の玄関まで来て、恐る恐るインターホンを鳴らすと、すぐに中から物音がして、夏音が出てきた。


「早かったな」 

「だって、夏音に誘われたらすぐに駆けつけちゃうよ」

「全く......」


 やや呆れながらも、夏音は私を部屋に入れてくれる。そんな微かに滲み出てくる優しさが、私を安心させるのだ。


「でも、どうして突然呼んでくれたの?」

「音琶が馬鹿だから」

「ひどいな、私そんなに馬鹿じゃないと思う。夏音が思うほどは」

「いや、俺が思っている以上にお前は馬鹿だったよ」

「何で?」

「お前さ、人の目ばっか気にしてんだろ」

「!!」


 鳴香と似たようなことを夏音にも言われ、後ろめたい気持ちになる私。


「俺とか結羽歌とか、あとは琴実か? そいつらには積極的だよな、でも他の奴らには気遣ってるようにしか見えないんだよ」

「......」 

「俺からのLINE返信しなかったのも本当は気遣ってただけだろ、いつもの音琶ならすぐに返信するんだからよ」

 

 夏音からも、さっき言われたのと同じ事を言われて戸惑ってしまった。


「ごめん」

「そうやってすぐ謝る所とかさ、そもそもお前は感情の起伏が激しいっていうのか? まあなんかそんな感じだからもう少し誰に対しても自信持っていいんじゃないのか?」

「夏音に接する時と同じくらいでいいのかな?」

「いや、それはやりすぎだけど」

「そうなのかな?」

「そうだよ」

「じゃあ夏音に対しては少し遠慮した方がいいよね......」

「いや、それは......」


 私がそう言うと、夏音の表情が曇った。

 何か悩んでいるように見えて、返答に困っている感じだ。


「どうしたの?」

「いや、別に俺にだけは今まで通りでいい」

「どうして?」

「どうしてって言われてもな......、それだと悪い意味で調子が狂う気がするんだよ」

「何それ......」

「とにかく、誰かに何か言われたからっていちいち落ち込むなって言いたいんだよ俺は! だから元気出せよ」

「夏音......」

「俺は音琶がちょっとやそっとの失敗で折れる奴だとは思ってないからな。バンドやるからには万全の状態でやってもらわないと困る」


 さっきから夏音の言ってることが鳴香の言ってたことと被りまくっててちょっと可笑しい。思わず吹き出してしまいそうだ。


「何笑ってんだよ」

「ううん、何でもない!」


 また夏音に助けられちゃったな......、でも、ほんの少しだけだけど、元気が出たような気がした。

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