依頼
次の日、幸い酒は残らなかったようで気持ちよく目覚めた。小屋には帰らず屋敷で寝た。
「ユーリアー、今日はどうする? 特に用事はないからこっちはいつでもいいけど」
「いつでもいいよー、お昼過ぎでいいんじゃないかな? その時間なら偶然おとーさんが帰ってくるかもだし」
「そうだなー、じゃあ昼食べてから行こうか」
「わかった」
さて、お昼まで暇になったな。なにしようかな。とりあえず用意されていた朝飯をいただいたら、さっそく行動起こすか。
「ユーリア、俺はちょっと出かけてくるよ。ずっと屋敷にいるよね?」
「うんー、そのつもりー」
今の屋敷には戦闘能力を持つ人間も多いし、そもそも敵の存在はまだ確認されてないからユーリアを屋敷に任せても大丈夫だと思う。
町での生活で常にユーリアのそばにいるってのも非現実的だしな。
とりあえずシャイニングホライゾンが借りている家へ向かう。宿屋に泊まるより家を借りたほうが安いらしく、彼らは寝泊まりを借家でしているようだ。
家といっても本当に寝るだけらしいけど荷物置き場としても重宝しているとか言っていた。
冒険者の割に彼らの安定志向はなんなんだろうな。賢いとは思う。
ノックするとタルバガンさんが出てきた。
「おはようございます、ちょっと用件があるんですが、よろしいでしょうか?」
「あ、おはようございます。今起きたばかりなのでちょっとお待ち願えますか。ここは依頼者を招くことができるようにはしてないのでお店に行きましょう。すぐ準備しますんで」
といって慌てて部屋に戻っていった。まあこっちもいきなり訪ねてきたし、待とう。
タルバガンさんのモヒカンがたわんで寝てたし、身だしなみは重要だよな。
「お待たせしました。朝飯も食べたいのでわたしたちがいつも行ってるところでいいですか?」
そういってタルバガンさんとブラックキャップさん、ティエンさんも出てきた。
「他の方はいいんですか?」
「まだ寝てるだそうで。奴らの信任はもらってるので大丈夫です」
タルバガンさんの導きでどうみても宿屋に入っていった。一階で飲み食いできるスタイルのところのようで外部からの客もOKのようだ。
「リュウトさんはもう朝飯すませたんですか?」
「ええ、こちらはもう食べてきたので、なにか軽く頼むだけにしますよ」
タルバガンさんたちはいろいろと頼んでいたけど、俺の分は同じスープだけにした。
「ところで、どうされましたか? 契約の変更ですか?」
ちょっと心配げな表情で聞いてくる。
「いえ、追加のお願いですね」
タルバガンさんの表情が明らかにホッとした感じで緩んだ。契約切られるかもとか思ったのかな。
「実は模擬戦に参加してほしくてですね」
「模擬戦、ですか?」
「はい、リヒューサはご存知ですか? エテルナ・ヌイにいるドラゴンですが、彼女との模擬戦です。今人数集めてるんですよ」
「ええ!? 竜とですか? 人数集めただけで勝てるようなものなんですか? 我々は長らく護衛しかしてませんから戦闘力そこまで高くないですよ」
静かに食べていたブラックキャップさんがジェスチャーでタルバガンさんを制した。
「待てよ、タルバガン。竜と模擬戦で戦えるなんて貴重だぞ。それに我らでも竜に対しても役立てる場面もあるだろう」
「ええ、ブラックキャップさんの言うとおりですよ。弓の使える者を集めてほしいとも言われていますしね、タルバガンさんも使えるんでしょ?」
「はい、俺はクロスボウになりますが。護衛では使う機会がなかったので知らないかもですがウットチャックは元々強弓の使い手ですしね」
「おー、そうなんですね。それならなおのことシャインングホライゾンの皆さんにも参加していただきたいですね」
「いつになりそうですか?」
「時期はまだ決まってないんですよ。もうすぐとしか。タルバガンさんたちの輸送計画に合わせようかと思ってます」
「おー、それだと助かりますね。我々なんかで本当に良いのなら喜んで受けさせてもらいますよ」
「その輸送計画の方も変更がありまして」
「ほう、いかがなされましたか?」
「エテルナ・ヌイの人口が急に一時的に増えていましてね。持っていく食料を増やしてほしいのです」
「へぇそうなんですね。発展著しいですな。その力になれてると思うと我々も鼻が高いです」
タルバガンさんたちは俺と話をしながら器用に食べている。しゃべる時に口にものは入れてない。本当に冒険者なのか?と思えるほど作法が出来ている気がする。
「とりあえずいつまでかは決まってませんが、輸送限界ぎりぎりまで持ってきてほしいのです。肉系を主に増やしてほしいですね」
「そうですねぇ。生肉とかになると保存魔法がいりますから費用はかさみますがよろしいですか?」
「ええ、そのための予算も持ってきていますし、皆さんへも追加報酬を用意させてもらうつもりです。もちろん模擬戦参加にもです」
「おおー、いや本当にありがたいです。いかに我らを安く働かせるか、ばかり考えているような依頼者ばかりですからな。まあ依頼者の側にたてば我らもそうなりそうですから、文句はありませんが。その点、リュウトさんやクレイトさんは我らに良くしてくださる。本当に頭が上がりませんよ」
「いやいや、そうかしこまらなくても。俺たちにしても信用できるフリーの方が動いてくれるのは本当に助かっているんです」
これで儲けを出さないといけないとなるとこう気前よく渡せないのも確かだろうし、クレイトさんがしこたま溜め込んでくれていたおかげで大盤振る舞いできてるのは本当に良かった。4
エテルナ・ヌイ、そしてユーリアの理解者、というか側に立ってくれる人を増やしていかないとな。
「では日時が決まったら直接、あるいは伝令に伝えさせますね」
「はい、我らもいつでも行けるよう準備しておきます。ウッドチャックが弓を使うのは本当に久々でしょうし」
「竜対策も考えておきますよ」
ブラックキャップさんもそう静かに言っていた。シャイニングホライゾンの参謀的位置にいそうだしな。そういえばティエンさんの発言はなかったな。
「よろしくお願いします。ティエンさんもよろしく」
まだ少年のようにも見えるティエンさんが露骨に狼狽えた。
「あ、ああ、俺も短弓なら使えるから、準備しておくよ」
コミュニケーションは苦手な方なのかな。留守番だったのはそのせいなのかもしれない。
シャイニングホライゾンとは店で別れた。
順調に会話が進んだので、まだお昼までは時間がある。
どうしようかなと一瞬考えて、ついでにファニーウォーカーとの約束も果たせないかと思い、アンソニーさんのゴールドマン商会へ行ってみる。
ゴールドマン商会では副店長の、たしか名前はダグサさんに出迎えられた。今日はお客じゃないと言ったんだけど。
そのダグサさんに聞いてみたけど、今日はアンソニーさんは留守でファニーウィーカーたちはそのアンソニーさんの護衛として全員出払っているそうだ。あら残念。でもアポなしってこんなものだよな。
今日はお客じゃないと言いつつ、副店長に出迎えられて何もなかった、なんていうのはアレかなと思って、シャイニングホライゾンに委託してる輸送のゴールドマン商会分を増やしておいた。
保存魔法のかかった生肉とかすぐに調達できそうなのってここぐらいだろうし。ラカハイにある他の商会は地域に根ざしているというか長距離運ぶようなことはあまりしていないようなので保存魔法かけ済のものとかあまり手配出来なかった覚えがあるし。
ゴールドマン商会は帝国から運んでくるものも多いせいか保存魔法の使い手が多くいるっぽい。
そういったことを世間話みたいに話しているとダグサさんも一通りの生活魔法を使えるとのこと。
やっぱり魔法の使い手は引っ張りだこなのかもなぁとか思った。
そういえばうちの子にも一人魔法の才能ってギフトを持ってる子がいたし、その子も今後どうしたいか聞いておかないといけないな。
魔法を使える子も複数いたし、せっかく使えるなら活かした方が良いだろうしね。