食事会
すぐに竜のうろこを持ってアレックスさんが来た。アレックスさんの代わりにシムーンさんが部屋に残ったようだ。
「久しぶりじゃのアレックス。おめでとさん」
「ありがとうございます。スミスさん」
ビルデアさんも知り合いだったしアレックスさんも同様でもおかしくないか。
「ほう、これは立派なうろこじゃの」
受け取ったうろこを見て、そうつぶやく。
「まあわしにかかればこの程度のことなど造作も無いけどな」
などと頼もしいことをつぶやきながら道具を取り出す。
よっ、とかほっ、とか声を出しながら作業をしている。穴はすぐに空いたようで空けた穴を加工してくれているようだ。
「ほれ、できたぞ。固定もできるように上に一箇所、下に二箇所、穴を空けたぞ」
おお、はやい。さすがだ。
「ありがとうございます。さっそく取り付けてもらってきます」
アレックスさんが受け取って部屋に戻る。取り付けは裁縫技能をもっているシムーンさんが行ってくれるのだろう。
「お代はどの程度ですか?」
「おう、飯をおごってくれるから無料でええんじゃが、それだと納得せんよな。特殊な道具も使っとるしな。銀貨一枚でええよ」
職人さんに出張してもらってるのにそんなに安くていいんだろうか? けどこれ以上気を使わせるのもダメだろうし。
「わかりました。存分に食べていってくださいね」
「待たせたな。準備できたぜ。他のスタッフも一緒でいいよな」
ビルデアさんが呼びに来た。
「おう、わしが混ざってもええなら、わしは気にせんぞ」
「酒も用意したぜ。あ、リュウトさん、酒は俺が個人で買ったやつだからな。使い込んだりはしてねぇぜ」
ははは、そんな疑い持ってないし、普通のお酒ぐらいだったら経費でいいんだけどね。けどしっかり分けてくれているのは信頼できるなぁ。
「お前の金か。今日は飯を食いに来たんだし、ほどほどにしておいてやるよ」
スミスさんが軽口を叩く。
用意されてたのは子どもたちとあまり変わらない普段どおりの食事だった。
しかし見慣れない料理もあるな。
「ビルデアさん、これは?」
「おう、これはロメイ用に試作したお菓子だな。さっき子どもたちにも食わせた。食後に切り分けるぜ」
おー、見た目からしてベイクドケーキっぽいなと思ったんだ。
ロメイさんには今食べやすいカロリーが必要だろうし、子どもたちにも喜ばれるだろうし、よいチョイスな気がする。
「おほ、甘いものもあるのか。楽しみじゃのう」
明らかにのんべなのにスミスさん甘いのもいけるのか。
ロメイさんとアレックスさんを除いてスタッフが全員集まったので食事会が始まった。
スミスさんとは初対面のスタッフもいるだろうに、すぐに打ち解けていた。
また偏見を持っていたようだ。職人さんは偏屈で気難しいって。スミスさんは全然そんなことないのにな。
「うまいなこれは。言うだけはあるわい」
スミスさんがビルデアさんの料理を褒めていた。
実際店に出しても通用すると思うんだよね。これらを比較的安い値段で作ってるんだからすごい。
まあ今日のはお金かかってるんだけどさ。ケーキとかやくそうの葉とかには。
「お、部外者のスミスのおっさんにそんなこと言われちゃ、信じちゃうぜ? 思い上がるぜ?」
「信じてもええが思い上がんな」
ビルデアさんのおちゃらけに言い返すスミスさん。ごもっともだ。
「わしらの食事の格もここに来てからまじで上がったからのう。ほんにビルデアとクレイトさんのおかげじゃ」
ウンウンいいながらジャービスさんもそんな事を言う。
まあ実際俺は最初からクレイトさんに贅沢させてもらってたけど自炊じゃここまでのは作れなかったからなぁ。
ビルデアさんの料理の腕は本物だと思う。
「酒もいいものじゃないか?」
飲みながらビルデアさんに絡んでる。
「おう、そりゃスミスのおっさんとはいえ、招待したお客人だからな。俺の秘蔵の酒を出させてもらったぜ」
「とはいえ、とはなんじゃ」
詰問口調だが顔は笑っている。
あんまりスミスさんが美味しそうに飲むので俺も少しもらった。
「リュウトさんなら喜んで。あんたらはダメだ。自分で買えよ。いい給金もらってんだろ」
俺だけ分けてもらって少し恐縮。こういうときのためにスタッフ用のお酒の費用出しておいたほうがいいかもしれない。
ビルデアさんが分けてくれないためか何人か離席していった。
取ってくると言って。
みんな隠し持ってたのか。
そりゃ分けたくなくなる。
「ロメイには悪いけど我慢できなくなった。僕も飲む。シムーンもどお?」
モーガンさんが自分が持ってきたお酒をシムーンさんにも勧めている。
ロメイさんはずっと妊娠してたし、今は別室で食事をとってるのでいないが、ロメイさんに合わせて禁酒してたのかもしれない。
「あ、いえ、わたしはあまり飲めないので」
シムーンさんが遠慮していた。……もしかすると本当に飲めないのかもだけど。
ファーガソンさんはジャービスさんとスミスさん、それに俺にも振る舞ってくれた。
ははっ、なんだか飲み会みたいになってきたな。前の世界のときはあまり好きな雰囲気ではなかったけど、今はなんだかとても楽しい。
俺もなんか秘蔵の酒を用意しておいたほうが良さそうだな。今度ゴールドマン商会に行った時になんか探してみるか。
普通の料理をあてに散々飲み食いしてしまった。もうけっこう時間が経ってるな。
「うーい、今日は楽しかったわい。わしゃそろそろ退散するわ」
タイミングよくスミスさんが帰宅するとのこと。
「今日は本当にありがとうございました。助かりました」
ちょっと足がおぼつかないが、もっとおぼつかない様子のスミスさんを支える。
「おう、すまんの。なんのなんの。またわしを頼ってくれ」
「おーう、スミスのおっさん帰るのか? 送っていってやろうか」
ビルデアさんはあれだけ飲んでもしっかりしているようだ。
「野郎の送りなんかいらんわ! 一人で帰れるよ。ん、リュウトさんありがとな」
「じゃーぼくが送ろうか?」
「おう、モーガン、そりゃ魅力的な提案じゃが帰りに女一人で返すわけにはいかんわい」
念の為玄関までは送ったけど一度立ってしまえばしっかりとした足取りでスミスさんは帰っていった。
ふー、なし崩し的に宴会になってしまったな。
ユーリアをほったらかしてしまった。子どもたちは年長組にひきいられていたと思うから大丈夫だろうけど。
子どもたちは皆居間でくつろいでいた。
ユーリアは珍しくパトリシアと一緒にいた。別グループの子だったけど仲良くなれてよかった。
アエラスとフレデリックが一緒にいたので声をかける。
「やあ、二人ともありがとな。スタッフみんなで飲むことになってしまってな」
「あ、リュウトさん、全然構いませんよ。いつもこうだったんですし、家があってお腹が膨れてるだけで前とは比べ物になりませんから」
あー、まー、そりゃ以前と比べたらなんだってそうなっちまうけど、まだ子供なのに出来すぎじゃないか?
「それにロメイさんのこともあって結構皆さんピリピリしてましたから無事に生まれてくれてみんなほっとしたんだと思います」
これはフレデリック。すごい観察眼だな。よく見てる。
「あーそれもあったかもな。ま、お礼に今度いいもの食わせるよ。それぐらい役得があってもいいだろ」
他の子どもたちに聞こえない程度の小さな声で囁く。
二人の顔がぱぁっと明るくなった気がする。
「ありがとうございます。楽しみにしてます」
子供と言えどやってくれたことには感謝せんとな。実際この二人にはめっちゃ助けられてるからな。