ベルカ
「ユーリアさまにリュウトさん、それにケリス」
ドゥーアさんの義体が駆け寄ってきた。
「お出迎えにも行けず、申し訳ありませんでした。人口が増えたので管理が大変でしてな」
「ええ、それは承知してますから一向に構いませんどころかこちらに気を使う必要ないですよ。ドゥーアさんがいてくれて本当に助かってますから。ところでどうされたんですか?」
「ありがとうございます。ああ、先程クレイト様から連絡が飛んできましてな。アルティナとレミュエーラをこちらに連れてきてほしいとのことでして。一応ケリスを護衛としてつけようと思っております」
「ああ、そうなんですね。ずっとケリスさんを使ってて申し訳なかったです」
「ではしばらくお二人の護衛はスペクターに任せます」
「そういえばレミュエーラ、今日は見かけてないなぁ」
「ああ、レミュエーラは食事に行っているナーガたちの見張りをしております。レミュエーラにもクレイトさまからの念話が飛んでいるはずなので直に戻ってくるかと。ああ、そうそうお二人への伝言も頼まれております」
「クレイトさんからなにか聞いているんですね」
「はい、だいたい順調にことが進んだので明日ぐらいには帰る、とのことです」
「わかりました。それぐらい直接念話飛ばしてくれたらいいのに」
「あの術を長距離で使えるのはクレイトさまだけですからな。何かあるのかもしれません」
そういえばそうだった。
こっちが念話を飛ばしているんじゃなくてクレイトさんがこっちの思考を読み取ってくれているだけだしな。なんらかの条件とか制約とかがあるのかもしれない。
「伝言ありがとうございました。おかげさまでいつ帰ってくるのかとじれることもなくなりました」
「明日、おとーさん帰ってくるんだね」
「順調にことが進んで明日ぐらい、ですから何かあれば伸びるかもしれませんが。明日に帰ってきていただければ私も助かりますなぁ」
「ドゥーアさん、はいこれ。分け方はお任せしますー」
ユーリアが背負袋から袋を取り出してドゥーアさんに渡す。
「おお、ユーリアさま、ありがとうございます。これは……?」
「すっごくおいしいお菓子だよ。みんなで分けて食べてね」
「おお、これはクッキー、ですかな。生前食べたことがあります」
「うん、すっごく美味しいから、みんなで分けて食べてね」
「ありがとうございます」
宝物でも授かったかのような姿勢で袋を受け取るドゥーアさん。相変わらず大げさである。
「では俺たちはそろそろ帰ります。明日も来ますのでなにか足りないものとかありますか?」
「そうですなぁ。もしよければポーションをいくらか持ってきてもらえれば助かります。ナーガラージャとオークで傷の深いものがおりまして、放っておいても治ると主張しておるのですが、万一があるとアレですし、痛いのを我慢させるのも。もしよければでいいのですが」
「ああ、そういうことなら今すぐ渡せますよ。それにポーションもうちではそこまで貴重でもないですし」
そういってアポーツでポーションをあるだけ取り寄せた。
「私もポーション作り頑張るから使ってあげてー」
「おお、早速のご対応、ありがとうございます。我らの弱点ですからなぁ回復魔法が使えないのは。さらに忠誠心が上がるかと思われます。回復魔法もそうですがポーションも貴重ではありますからな」
「そうですね、これで傷を癒やしてあげてやってください、それじゃ俺たちは帰ります」
「はい、ありがとうございました」
ドゥーアさんと別れて帰ってきた。
スペクターには悪いけど護衛として付き合ってもらった。
小屋に戻ったらユーリアがポーションを補充しておくとのことだったので、しばらく小屋で時間を潰した。
もちろんまだストックしてあったポーションはいつでもアポーツできるような場所に置き直しておいた。
そろそろ屋敷では夕飯の準備が始まっているだろう時間になったのでユーリアに声をかけて一緒に屋敷へ戻る。
スミスさんがくるはずだし俺がいないとな。
ユーリアを一人で小屋にいさせるわけにはいかないし。
屋敷に戻ってみると思ったとおりちょうど夕飯の準備が始まっていた。
台所でビルデアさんが何故か上機嫌で料理をしていた。
「そらおめぇ、新しくて珍しい食材を使って料理できるんだぜ? 機嫌も良くなるってものよ」
そういったものかな? まあ機嫌がいいのは良いことだ。
そういえばロメイさんは大丈夫なんだろうか?
ロメイさんたちがいるはずの部屋の前に誰もいないけど。
寝てたらあれなので軽くノックしてみた。
すぐに部屋からアレックスさんが出てきた。
「あ、リュウトさん、どうぞ」
小声になってるけど、入っていいのかな? ユーリアを呼んで一緒に入る。
「今ロメイもベルカも寝てますが、見るぐらいは大丈夫です」
ベルカって赤ちゃん? もう赤ちゃんの名前つけたのかな。
「わー、ちっさいー」
ユーリアも小声で感想を言う。確かに小さいな。赤ちゃんってもうちょっとふくよかだと思ってたけど、こっちの世界の栄養状態じゃこんなものなのかもな。それとも生まれたてだからか?
「産婆さんによると母子ともにおかげさまで極めて健康、とのことです」
アレックスさんが笑顔で教えてくれた。そういえばもう産婆さんもいないな。優秀な方を迎えれて良かった。
竜のうろこのお守りは寝ている赤ちゃんの上に置かれていた。スミスさんがきたら回収でいいかな。
「もうそろそろ職人さんが竜のうろこに穴を空けに来てくれるので、その時に竜のうろこを持っていっていいですか?」
念の為、アレックスさんに確認しておく。
「ええ、もちろんです。私が持っていきますよ」
「では職人さんがきたら、ノックしますんでお願いします。俺たちはこれで。もうすぐ夕飯が出来ますから、ロメイさんの分も持っていってやってください」
「はい、ありがとうございます」
ずっと赤ちゃんをロメイさんごしに見つめていたユーリアに声をかける。
「それじゃ出るよ」
「はーい、ベルカちゃん、またねー」
寝ている赤ちゃんに手を振りつつ俺と一緒に部屋を出る。
少し心配だったが、直にロメイさんと赤ちゃん、ベルカを見れて安心した。他の子ともども健康に育っていってほしいものだ。
そうこうしているうちに夕飯が用意できたようで、子どもたちが食堂に集まっていった。
「ユーリアも食べておいで」
俺たちスタッフの食事は子どもたちのあとに用意されることが多いし、今日はスミスさんも招待するしね。
「おまえらー、葉っぱは必ず一つは食べろよー、体にいいやつだからなー」
ビルデアさんが台所から叫んでる。まあうちには野菜だからといって残すような子はいないけどさ。
たまたま食べれなかったって子がいるかもしれないしな。
「よお、できてるかな?」
スミスさんが突然現れてびっくりした。後ろにジャービスさんがいたから俺が気づかなかっただけか。
「あ、ようこそ。今ビルデアさんがスタッフみんなの夕飯の準備してますのでしばらくお待ちを」
スミスさん店で見た格好じゃなくて服も着替えてるし、髭も束ねていた。
俺が目をパチクリさせたからか、何も聞かなくても答えてくれた。
「いや、生まれたての子供がいるんじゃろ? 仕事着のまま来て金属粉とかばらまいたらやばいしな。それにお呼ばれしてるんじゃし身だしなみぐらい、わしでも整えてくるわい」
ははは、確かにもっともだ。
「おー、スミスのおっさん、来てくれたのか。もう少し待ってくれ。今ロメイとアレックスのを準備してるんでな」
台所から顔をのぞかせたビルデアさん。
「それじゃちょいちょいと仕事しとくかの。粉が飛んでいい部屋と竜のうろこを用意してくれるか?」
「そこまで粉が飛び散ることないですよね。じゃあ居間でお願いします」
スミスさんを部屋に案内する。ちょうど通りかがったシムーンさんが気遣って俺の代わりにアレックスさんを呼びに行ってくれた。