出産
「ほう、なんでしょう?」
「近々エテルナ・ヌイ防衛の模擬戦を行う予定なんですよ。それにファニーウォーカーの面々も参加していただけたらなぁと」
「なかなか面白そうな企画ですね。墓参りをその日にして私も見に行っても構いませんか?」
んー、これは本来クレイトさんと相談した方が良さそうな案件だけど、今いないしなぁ。子どもたちも来る予定だし、アンソニーさんならいいかな。リヒューサも町ではもう有名だしな。
「ええ、たぶんいけるかと。正式には師クレイトに聞いてからになりますが」
「ありがとうございます。彼らには私からも言っておきますよ」
「はい、今度飲むときにも言おうと思ってたんですが、雇い主に直接言った方がいいかなと。許可取る手間はぶけますしね」
「ええ、そうですね。でもそろそろ契約を解除しようと思ってるんですよ。彼らは一つの商会がお抱えして良い人たちじゃないですし、彼らを帝国まで連れて行くのもなんですしね」
ああ、そうか。もうすぐ帝国に帰るから、ファニーウォーカーは連れて行けないってことか。都市連合に追われてるかもしれないし、帝国にいたらやばいかもだしな。
「ああ、そうそう、エテルナ・ヌイに持っていくお酒の準備もそろそろ終わるんで、また持っていきますね。タイミングが合えば同時でもいいかもですね」
そういえばそういうのもあったな。
「はい、よろしくお願いします」
ダグサさんが戻ってきた。
「おまたせしました。荷物が多いので若いやつをつけて運ばせますね。お代はあちらでお願いします」
「はい、わかりました。ありがとうございます、今後もよろしくです」
おそらくお勘定担当の人なのだろう、指定されたカウンターにいた人にお金を払ってくると、背負子を背負って荷物を持ってくれている先程の若い人が待っていた。
なんだか申し訳ないな。こんなことならダロンも連れてくれば良かった。
トップと知り合いだから優遇してくれたんだろうし、こんな業務が日常とは思えないし、そういう文化があるかどうか分からないが、チップぐらいこの若い人に渡してもいいかもしれない。
アンソニーさんに挨拶してから屋敷に戻る。
俺やビルデアさんも荷物を持っているが、若い人は大量に持ってるけど遅れることなく付いてきてくれた。
屋敷に帰るとファーガソンさんが出迎えてくれたので、玄関で若い人には戻ってもらうことにした。
「ありがとう、少ないけどこれどうぞ。上の人にこれ報告しなくていいからね」
といいつつ、銀貨を三枚渡した。チップとして適切な額なのかイマイチ分からないが、高すぎも安すぎもしない、と思う。
若い人は普通に感謝の言葉を言って受け取って帰っていった。
ファーガソンさんに食材を運びながら様子を聞いた。
「どうです、ロメイさんの様子は?」
「さっき生まれたみたいだ。赤ん坊の鳴き声が響いたからな。だから俺が出迎えたってわけだ」
「おお、良かった。男の子か女の子か、どっちだったんですか?」
「いや、まだ産婆さんも出てきてないから分からん。ただ元気に泣いてたし、他に騒ぎもないからロメイも無事だと思う」
「ファーガソンさんは冷静ですね」
「そうか? まあジャービスの野郎まで取り乱してたからな。誰かが冷静でないと怖いしな」
「え? ジャービスさんがどうかしたんですか?」
「あ、いやいや、アレックスの相手してやってたようなんだが一緒に喜びのダンスとか踊ってたからな。泣き声が響いた時に」
「ロメイが無事なようで良かったよ。あいつとも付き合い長いからな」
一緒に運んでいたビルデアさんも嬉しそうだ。
「よっしゃ、じゃあ俺はロメイにさっきの王乳を用意するわ。リュウトさんもちょっと様子見に行ってやってくれ」
ビルデアさんの言葉に従って、一通り荷物をおいてからファーガソンさんと一緒にロメイさんがいる部屋の前まで来た。
扉の前に子どもたちが集まっている。その中にジャービスさんも混じっていた。
「ジャービスさん、何してるんですか?」
「あ、リュウトさんお帰りなさい。いえ、さっきアレックスが部屋に呼ばれて入っていったので待ってるんですわ」
言ってるうちにアレックスさんが出てきた。
「あ、皆さんありがとうございました。無事出産したようです。女の子でした。産婆さんによるとしばらくは母親の横にいた方がいいとのことでロメイの横で眠っています。今は産婆さんからロメイが今後の指導を受けているところです」
はー、そういうものなのか。赤ちゃんを見るのは先になりそうだ。
ともかく双方無事なようで良かった。無事じゃなかったらアレックスさんがこんなに落ち着いてるわけないものな。
集まっていた子供たちもしばらく赤ちゃんは見れそうにないと分かって、すこしがっかり気味だ。
まあ分からないでもないが母子優先だ。
「よし、みんな、お菓子食べようか。さっき買ってきたんだ」
小さい子ほど食いついてくれた。一緒に食堂へ向かう。
「んじゃ座って待っててくれ。すぐに持ってくるよ」
何種類かあったけど、お茶請けに出たクッキーを出そう。
たくさんあるけど、無制限だといくらでも食べてしまいそうだな。三つ制限にしとくか。皿に必要な分だけ出していく。
「ほい、おまたせ、食べすぎるのもダメだから一人三つな。ちょうどしか持ってきてないから三つ以上食べたら誰かが悲しむからな」
皆喜び勇んで飛びついてきた。けど、その中でもアエラスは落ち着いてルクスの分をとってあげたりしていた。さすがの年長者だ。
ちゃんと全員に三つずつ行き渡ったようだ。皆美味しい美味しいと喜んでくれた。
今おやつ時だしな、やっぱ食事事情というか栄養が足りてなかったのかも。
以前に比べると皆だいぶと肉付きもよくなってきてるんだけどな。
よほど以前が悪かったってことだな。
ユーリアに前聞いた食事情とかひどかったものな。
まあ今後はやくそうの葉でましになるとは思うけど。
「ユーリア、そろそろいこうか」
「はーい」
一緒になって食べていたユーリアに声をかけて、転移門を使うのでジャービスさんにも声をかけて小屋に戻る。
お土産のクッキーを小分けにして、エテルナ・ヌイの分はユーリアに持ってもらう。
ケリスさんは小屋の中ではなく外で不動の待機をしていてくれたようだ。小屋でくつろいでくれてても良かったのに。
「魔力消耗されたでしょう? これどうぞ。焼き菓子です」
「おお、ありがとうございます。新しい義体になってものが食べられるのは本当に嬉しいです」
道すがらに食べてもらってエテルナ・ヌイに向かった。
「特に問題なかったよー」
ユーリアとともにエテルナ・ヌイをまわって、報告を聞いて、墓参りをした。
その様子を不思議そうにヴァルカが見ていた。ヴァルカの側にはアルティナさんがいたし、グーファスは鍛冶場にいるようでそっちから何かを叩く音が響いてくる。
見て回ってる間にナーガを何匹か見かけた。交代でエテルナ・ヌイの外へ食事に行っているようだ。
東門近くの少し広場になってるところでは焚き火が起こされていて、何かの肉を焼いているオークたちとナーガラージャたちが見えた。
勝手にやってるなら問題かもだけど近くにドゥーアさんらしき義体がいたから大丈夫なのだろう。
ゴーレムたちは急ピッチにヴァルカのための出入り口を作っていた。もうそろそろできそうな感じだ。できる前に雨が振らないでよかった。
「リヒューサもおとうさんも、帰ってこないね」
「そうだなぁ。なにかあったんだろうか。でもまあクレイトさんがどうにかなるとか思えないからなぁ。リヒューサもクレイトさんに匹敵するだろうし」
「それもそうだね」