子どもたち
「あー、そうですねぇ。ああ、そうだビルデアさん、体力がつくというか体にいい食べ物って何がありますか?」
「そうだなぁ、一般的なものでいえば蜂蜜とかやくそうの葉とかかな。一般的でないものなら一部のモンスターの肉やマンドラゴラとかかねぇ」
「軍ではやくそうの葉を使ってましたねぇ」
「やくそうの葉って薬みたいなものなんですか?」
疑問に思ったので聞いてみたらビルデアさんとファーガソンさんが顔を見合わせた。
「どうなんだろう? やくそうで中毒になったとか聞いたことがないし、滋養強壮になるってことじゃないのかな」
「やくそうの葉ももともとはただの食材だったはずだ。ポーションが開発されてそれの材料になっただけで」
「なら子どもたちが食べても問題ないですよね」
「もちろん、村の子供とかはよく食べてるはずだぜ」
「ならここの食卓に出せますか?」
「うーん、町でその葉を食べるには高いんだよなぁ。新鮮なまま運ぶためにたいがい保存魔法かかってるし。ポーションの材料にもなるからさ」
「追加で予算出しますんで、なんとか確保してもらえませんか? ロメイさんとかにもいいと思いますし、アレックスさんにも」
「予算が出るならなんとかするよ。蜂蜜も高いが予算出るなら。蜂蜜があるならお菓子とかも作ってもいいしな」
「食べざかりの子とかもいるからお菓子とかあってもいいと思いますし。お願いします」
「分かった。すぐにはできないかもだが、なんとかするよ」
「帝国でしたらルート知ってるんですがねぇ、ここじゃ俺は何もできませんわ。せいぜい多少商会にも顔が利くくらいで」
「いえいえ、得意なことをやっていただけるだけで助かりますし。それに帝国にやくそうが豊富なら帝国からきたゴールドマン商会とかいいかもしれませんね」
「おお? ゴールドマン商会がこの町にもきたんですか?」
「ええ、最近来たみたいで。ゴールドマン商会のトップの人と知り合いですよ、俺たち」
「ええ! そうなんですか、さすがクレイトさん顔が広い。軍に納めていたのがゴールドマン商会でしたからそこに頼めば確実にいけると思いますよ。お知り合いでしたら特に」
「そういうことならビルデアさん、今度一緒にゴールドマン商会に行きましょうか」
「ああ、顔が利くならそれに越したことはないからな。お願いしたいね」
「では明日にでもさっそく行きましょうか」
「わかった。いつでも動けるようにしておくぜ。あーでも飯時はすぐには動けないぜ」
「はい、わかってます。もしその時だったら待ちますので」
話がついたので離席する。
「ではこれから少し小屋に戻ってきますので、ユーリアをお願いします」
とファーガソンさんに頼んだ。屋敷にいたら危険はほぼないと思うものの、クレイトさんも俺もいないなんてことは今までになかったので。ここは要改善かもしれない。
食堂を横切って眠たそうに夕食を食べているユーリアを確認してから二階にあがって小屋に戻る。
ファーガソンさんがついてきてくれて他に誰も付いてきていないか、小屋に転移するまで不備はないかを見張ってくれた。
小屋に帰ったらすぐに自室に戻って、魔力増幅器を身につける。
ブレスレットとネックレスは常に身につけていてもいいかもだけどイヤリングだけは勘弁したいところなので結局全部必要なときにつけるようにしている。
この魔力増幅器がないと転移魔法使えないけどつけっぱなしはなんか恥ずかしいから。
すでに外は暗くなっているけど転移先ではあまり昼夜関係ないので気にせず宝物庫へ飛ぶ。
いくつかの手続きを終えて宝物庫にたどり着いたので持ってきていたバッグに金貨を無造作に入れていく。金貨って重いんだよなぁ。
だから常にたくさん持ち歩くのが難しいのでこうして度々取りに来ないといけない。今回のは先程話した食費の増額分とゴーレム作成用の鉄を買う用だ。
小屋に戻ってきたらケリスさんが来ていた。
「あれ? どうされたんですか?」
「いえ、今やエテルナ・ヌイの防衛力は高いので私がいなくてもなんとでもなるでしょうが、なら小屋を空にしておくのは怖いなと思いまして」
「ああ、確かにそうかもですね。ありがとうございます」
確かに小屋に誰もいない時になにかに侵入されたり待ち伏せされたりしてたら怖い。ここは遠慮せずにケリスさんの助力に感謝しよう。
「また明日も帰ってきてエテルナ・ヌイでの日課をすると思いますので、その時によろしくです。今日は俺もユーリアも屋敷で泊まります」
「はい、クレイトさまもおられませんしその方が良いでしょう。留守は私に任せてください」
「いつもありがとうございます、助かります」
あんまりしつこくお礼をいうのもあれなので一言で済ませて、屋敷に戻る。
もちろん増幅器は外してから。持ってかえってきた金貨も半分ほど小屋に置いておくことにした。
ケリスさんがいてくれるなら小屋に置いていても安心だし。小屋に金庫みたいな倉庫があればまとめて持って帰れて手間もかからずいいかもしれない。クレイトさんが帰ってきたら相談してみよう。
次の日、屋敷で目を覚ましたら屋敷が騒然となっていた。
なにがあった?と思いながら屋敷の自室から出て下に降りてみた。
子どもたちは皆一緒に朝ごはんを食べているが、スタッフがなにやら慌ただしく動き回っている。
自分の席に座りながら配膳をしてくれているビルデアさんに聞いてみた。
「何かあったんですか?」
「ええ、ロメイが産気づいたようでしてね。さっきから慌てて産婆さんを呼んだりお湯を用意したりで忙しくしてますよ」
「俺がさっきひとっ走りして産婆さんを呼んできましたよ」
と言ったのは年長のフレデリックだ。普段はこの時間にはもういないのだが今日はいるようだ。そういえばもうひとりの年長であるアエラスもいるな。
「スタッフの多くがあっちに人手取られるので、こいつらに子どもたちの世話を頼んだんですよ」
厨房から出てきたファーガソンさんが説明してくれる。
「ま、俺らは戦力外って判定で俺はいつもどおりの飯係、ファーガソンの旦那は湯沸かし係だ。俺は飯係だけだから昨日言ってたことも出来るぜ」
「今日は伝令は休んで、こいつらの世話は俺らがします。まあ前のとおりですし、伝令に行かない分楽なものですよ」
「そっか、アエラス、フレデリック、よろしく頼むよ」
二人共俺の元の世界で言えば中学生のはずなのだがすごくしっかりしているから頼りになる。
「ああ、そうだ、ダロンを借りていいかい? ちょっと重い荷物の持ち運びをしたいんだ」
「俺はいけるよ」
「はい、わかりました。ではダロンはおまかせします」
「まかされた。まあとりあえず朝いただいてからだな」
朝ごはんを頂いている途中にユーリアも降りてきた。よっぽど昨日は疲れていたのだろう。俺より遅く起きてくるのは珍しい。
「へーもうすぐ赤ちゃん生まれるんだ」
隣席のフィオナと話しながら一緒に朝ごはんをいただくユーリアにも聞いてみた。
「今日はユーリア、どうする? いつものはお昼にするつもりなんだけど」
「今日はみんなといる。お昼に声かけて」
「そっか、わかった」
ロメイさんは心配だが、今更俺の出る幕はないだろうな。
産婆さん来てて治療術師のモーガンさんもいるし、竜のお守りもあるんだし。
予定通りに動こう。と思ったがひとつできそうなことを思いついた。時間もかからないしやっておこう。
アポーツでポーションを呼び出す。三つもあればいいかな。これを自室の前で座り込んでいるアレックスさんに渡す。
「ユーリアの作ったポーションです。売っているものより効果が高いそうですよ。これを産婆さんに渡してあげてください。傷を治すし体力も回復するから役立つと思うんです」
「ああ、リュウトさんありがとうございます。しかし何故俺に? リュウトさんが渡していただいたらよいのでは?」
「いやだって俺赤の他人だし、分娩中かもしれないところへ入れませんよ。それにアレックスさん心配なんでしょ。これを理由に部屋に入れるじゃないですか」
「……俺のことまで気遣っていただいてありがとうございます。早速渡してきます」
ポーション三つ持ってアレックスさんが部屋に入っていった。生まれるまでは俺が出来ることはもうないだろう。
ビルデアさんとダロンに声をかけて買い物に行こう。