防具談義
すごく長い時間吐き続けていた気がするけど、一分程度だろうか。
不意にヴァルカがブレスを止めた。
「終わったぞ」
確かに遺体がおいてあった場所には骨も残らず一山の灰が残っているだけだった。
「ありがとうございました。あの灰はどうしましょう?」
「吹き散るまで放置でかまわんよ」
とは言われたものの、火葬の文化があった俺にはその灰を放置するのもアレだからどうしようかと考えていたところ、アルティナさんがヴァルカに提案してくれた。
「では私の魔法で東門の外へ吹き散らしてよろしいでしょうか?」
「おう、それはいいな、よろしく頼む」
「ではガストの魔法で灰を東の地へ」
アルティナさんにしては珍しく無詠唱ではなく詠唱している。風を操る魔法ってそんなに難しいのだろうか?
ヴァルカの横にいたアルティナさんから大きな突風が吹き、灰を綺麗に東門の外へ運んでいった。
ほとんど横にそれてない見事さだ、もしかするとちゃんと綺麗に運べるようあえて詠唱して魔法を操作した、ってことかな。
そういやファーガソンさんを放置したまんまだった。
ファーガソンさんなら自分でやること見つけてるだろうけどそっちに行ってみよう。
ファーガソンさんはハギルとともにいた。
「おお、終わりましたか? ナーガラージャや他のものもずいぶんと統制が取れてますよ。人間よりずっとね」
そう言いながらハギルに一言行ってからこちらに来てくれた。
「お疲れ様です。何か参考になりそうでしたか?」
「ええ、彼らはクレイトさんに下ったんですよね。彼らは良い守り手になりますよ、エテルナ・ヌイの。あれですよ、もしよければ彼らをリヒューサ殿との模擬戦に参加させてもいいぐらいですよ。
ふむむ、確かに東の驚異もまだ残ってるし、魔王降臨という話も出てきてるし、彼らにも防衛に付いてもらえたほうがいいよな。
「二人でクレイトさんに言っておきましょう」
ただ一般人もここに来るからなぁ、ここに直接住むのは難しいかもしれない。
リザードマンがOKを出したらエテルナ・ヌイの近くに拠点を作ってもらうのがいいかもなぁ。
クレイトさんが戻ってきた。
「彼らは落ち着いてるかい?」
「はい、私の言葉にも従ってくれますので随分落ち着いています」
ファーガソンさんが報告する。
向こうからドゥーアさんとハギルが来た。彼らも報告があるようだ。
「クレイト様、リザードマンの拠点へ赴いてよろしいでしょうか? 近くに拠点を作るには彼らの同意がないと難しいです」
「それにリヒューサ殿がまだ帰ってきておりませんからな。何かあったのかもしれませぬ故」
「そういえばそうだね。分かった、僕とハギルが行こう、ドゥーア殿には留守番を頼みたい。リヒューサに何かあったのなら僕が行った方が早いだろう」
クレイトさんが俺の方へ振り向く。
「というわけだ、リュウト。君はユーリアを連れてファーガソンさんと屋敷に帰っていておくれ。僕はでかけてくる。そんなに時間はかからないと思うけど、何があったのか分からないから、数日かかるかもしれない。でも心配はしないよう言っておいてくれ」
「はい、分かりました、そうします」
レミュエーラにあまりヴァルカにちょっかいを出さないように言い含めてから、ユーリアとファーガソンさんとともに小屋から屋敷に戻った。
「いやぁ、エテルナ・ヌイの様子を見に行っただけなのにいろんな経験をさせてもらいました」
屋敷に戻ってからファーガソンさんにそう言われた。確かにそうかもしれない。
「そうですねー、俺としてはファーガソンさんがいたタイミングで助かりましたよ」
「わたしは疲れたー」
「食事を終えたらもう寝てもいいでしょう」
「そうしますー」
ユーリア、というか子供にはきつかったかもしれない。異種族との戦闘ののちの取り込み、戦闘の後始末に領主様のお出迎えだしな。
「そういえばリュウトさん、クレイトさんから剣を預かったままなのですが……」
そういって鞘ごと俺の方へ渡そうとしてきた。
「いや、これはたぶんしばらく貸与だと思いますから、しばらく持っていてください。常に身に付けろとは言いませんから」
「はあ、こんないいものを申し訳ない感じですが、今の俺は自分の剣は持ってませんから。ありがたくお借りします」
「将軍のときに使っていた剣とかはどうされたんですか?」
剣を持ってないと聞いたのでふと疑問に思って聞いてみた。
「戦場で使うようなものは国からの貸与品でしたし、自分で持っていた装備はこの国に来てから全部売っぱらいましたわ。再び使うことはないだろうと思ってましたから」
あーそうか、辞めた理由が辞めた理由だしな。
「そういえばファーガソンさん、鎧、というか防具に詳しいですか?」
「はい? 鎧? ええ、まあ、基本的なことは分かりますが、専門ではないですね」
「いえ、防具に詳しい人が知り合いにいなかったもので、どんな装備をつければいいのか分かってなかったんですよ。だからユーリアに盾を持たせようとして失敗してたりしてましたので、何でもいいからアドバイスがほしかったんですよ」
「あーなるほどそういうことだったんですね。リュウトさんやユーリア、あ、ここではユーリア呼び捨てにさせてもらいますね。他の子に示しが付きませんので。で、お二人が前線に出ているのにまったく防具をつけていなかったのはそういう理由だったのですか」
「はい、魔法主体だし動きやすいほうがいいかとも思いまして」
「相手がドラゴンとかはちょっと分かりませんが、相手が軍隊、もしくはそれに類似するもの、今回の異種族の攻めみたいなものですね、ああいうの相手でしたら敵に弓兵がいる場合があるので、付けておいたほうがいいかもです」
食堂は使用中なので二人で広間で椅子に座って話をしていたらビルデアさんが飲み物を持ってきてくれた。
前も飲んだ味付きの水だ。
そう言えば今日はほとんど水も飲んでいなかったのでたいへんおいしい。
「俺は指揮官でしたので驚異はとにかく弓矢での狙撃でした。ですからブレストプレートとヘルムは戦場では外せませんでしたね。ちゃんとしたブレストプレートとヘルムをつけていれば真正面から顔を射られでもしない限り一撃で致命傷を食らう可能性がだいぶ下がりますからね」
「俺は弓も使うからうなずける話だぜ。弓で敵を殺そうと思って射る場所は頭か胸だからな。他に当たっても一撃じゃ無理だ」
ビルデアさんも会話に参加してきた。
そういえばビルデアさんも一流の冒険者だった。
なんだ身近にいたじゃん。なんか忘れてた。
「軍隊の場合だと魔法使いは防具らしい防具はつけずローブを着てましたね。これは体の線が出ないようにして攻撃を当たりにくくする作用もあったはずですし、軍隊だと別の人が守るのが基本でしたからな。人によってはブレストプレートや鉢金をローブの下につけていました」
「ロメイに聞いたことあるけど、魔法使いは視界が限定されるのが嫌でヘルムはあまりつけないとか言ってた気がするぜ。ブレストプレートは、体力があるならつけていてもいいかもな。ただ魔法使いってのは基本体力あまりなかったりするしな。冒険者だとずっと歩かないといけないし、あまり重いものをつけて体力を削りたくないってのがあるようだ」
「なるほど、となると俺やユーリアの防具って難しいですね」
「そうですな。気休め程度のものしかおすすめできないかもですね。けどお二人とも剣を使うんですよね。ローブをまといつつレザーアーマーをつける、といったところですかね」
「魔法使いが使う強力な魔法って身振り手振りが必要だったりするし、レザーアーマーぐらいが無難かもな。レザーでもつけてるのとつけてないのではだいぶと違うしな。あとそうだな、耳を守るためにフードはかぶったほうがいいかもな」
「耳、ですか?」
「ああ、耳って出っ張ってるからな、傷付きやすいのよ。あと聞こえないと困るけど聞こえすぎるのも困る時があるしな。フードかぶってる程度がいいのかもしれない」
「ローブとレザーアーマーですね」
「ああ、でもユーリアにはレザーアーマーは重いかもしれないし、そもそもサイズがないかもな。ローブだってあるかどうか」
「まあそのへんは防具屋さんで確認してみますよ。ありがとうございます」
「役に立てたのなら良かった。それじゃ俺はアレックスの相手してくるぜ」
「え? アレックスさんどうかしたんですか?」
「んー、いや別にどうってことはないけどロメイが心配すぎてまいってるっぽいんで。もうそろそろみたいでな」