送り方
「え? なんで俺を?」
「いえ、リュウトさんにはやっかいなことかもしれませんが、何から何まで似てるんでね。ライルは俺たちの仲間であり恩人でもありますから、思い出したいんですよ。あ、もちろんおごらせてもらいますし、何も面白いこと言わなくてもいいし」
いや頼まれたって面白いこととか言えないけどさ。
『いいんじゃないかな? こちらとしても情報はたくさんあったほうがいろいろと助かるだろうしさ』
あ、聞いてましたか。そうですね、ライルさんのこともっと知っておきたいですしね。
「分かりました。俺は構いませんよ。ただ俺いつもどこにいるかわからないと思うので屋敷の方へ伝令を送っていただければ」
「ああ、近々そうさせてもらうよ」
「話は終わったかい。クレイト殿もこちらの晩餐会に……、と思いましたが、そういうのは遠慮されているんでしたな。では近い内に酒をエテルナ・ヌイへ運ばせていただきます」
ドニーさんがまとめてくれた。
「では帰らせてもらいます。いろいろとありがとうございました。ラカハイでも対策を進めておきたいと思いますので、何かあれば遠慮なく。お茶美味しかったよ、ありがとうユーリア殿」
さりげなくお茶を出したユーリアに感謝する辺り、領主様とも思えない気の配り方だ。
このへんドニーさんが憎めないところなんだよなぁ。まあ憎まれるようなこともしてないけどさ。
ユーリアもご満悦っぽいし。
各種族の代表もケリスさんに連れられて戻っていった。
ユーリアはテーブルの片付けをしているし、クレイトさんはドニーさんを転移門まで送りに行った。
俺だけやることないな。エテルナ・ヌイを見て回るか。戦いがあった後だしな、なにかおかしなことになってたら困るし。
東門へ来た。あー死体がそのまんまだな。
オークが一番多いか。けど他種族のもあるな。
エテルナ・ヌイ内ではゾンビにはならないとはいえ、これを放置したままってのも後味が悪い。
他種族をまとめているドゥーアさんを見つけたので話しかける。
「ドゥーアさん、今少しいいですか?」
「はい、なんでしょう。落ち着きましたんでいいですよ」
ドゥーアさんに残された死体のことどうするべきか聞いてみる。
ドゥーアさんいわく普段であれば前回同様スライムに処理してもらうまで放置、だけど今回その仲間が配下になったのでどうしたものか、ドゥーアさんも迷っていたようだ。
「いっそのこと死体の処理について彼らに直接聞いてみるのもありかもしれませんね。人間とは概念が違うかもだし」
「それもそうですな。少し聞いてきます」
「はい、お願いします」
しばらく待っているとドゥーアさんが戻ってきた。
「基本放置みたいですな、なんでも東にはスライム以外にも死肉を食うものが多くいるらしく、中にはゾンビでも余裕で食べてしまうものもいるそうです」
うえ、なにそれ、こわい。
「しかしナーガラージャたちはヴァルカ殿が生まれてからはドラゴンブレスで火葬していたみたいですね。骨も残らず焼き尽くしているそうです」
なるほど、ドラゴンブレスならドラゴンが疲れるだけで燃料とかいらないし火力も十分ってことか。俺の元の世界でも火葬だし、それがいいかも。
「それじゃヴァルカに頼んで火葬にしてもらおうか。放置してた種族も火葬で構わないよね」
「そうですな。念の為もう一度皆に聞いて、皆から人を出してもらって遺体を集めますか。ゴーレムだとつぶしてしまいかねない」
「それは確かに。そうしてやってください。敵対していたとはいえ、死体には罪はありませんしね」
俺の感覚で言えば死んでしまえば皆仏さんだしな。
死体に鞭打つ趣味はない。
あーでもゾンビ化してしまうこの世界では死体を放置ってなかなかできないのかも。
聖王教でも霊安室ってなんか厳重だったし。
「それじゃドゥーアさんは遺体の方をお願いします。俺はヴァルカに頼んできますよ」
「分かりました。お願いします」
ヴァルカは中に入れる建物がないため地べたに伏せていた。
大きな建物の影だ。
ヴァルカの側にはアルティナさんがいて、ヴァルカのまわりをレミュエーラが飛び回っていた。
見かけないと思ったら何をしているのだろう?
「あの……ヴァルカさん」
アルティナさんはどうもヴァルカにいろいろと質問していたようだ。ヴァルカは面倒くさそうだったがちゃんと答えてやっていた様子。
レミュエーラはまたちょっかいを出していたようだけど、ヴァルカは全く相手にしていないようだ。
……なんかレミュエーラはヴァルカと相性悪いのかな?
『ん……なんだ? 人間? 貴公も確かクレイト様の弟子だったか?』
も、ってことはアルティナさんも弟子だと考えているってことか。実際は違うけどそれでいいか。
「はい、えとですね。先程の戦闘で亡くなったナーガラージャやオークたちの遺体をどうにかしたいのですが、ナーガラージャに聞いてみたところ、ヴァルカさんが火葬にしてくれていたと聞きまして」
「そうだ。ゾンビ化して苦しむ同胞は見たくなかったからな。狩りの途中とかであれば放置でもゾンビ化する前に腐肉食いどもが弔ってくれていたが、拠点の中で死んだ者はな。わざわざ腐肉食いどもの餌にしてやるのもあれだしな」
「はい、俺達も同じ結論でして、今皆さんにご遺体を集めてもらっていると思うので、ヴァルカさんに焼いてもらえないかと」
「いいだろう、こんなところまでスライムはともかく腐肉食いは来ないだろうしな」
ヴァルカを先導して東門前に向かう。
アルティナさんもついてくる。
間近でドラゴンブレスを見れるのだから当然だろう。
レミュエーラも飛んでついてきている。またちょっかい出してるな。
何が気に入らないんだろうか。
ヴァルカは完全に無視してくれているからいいけどさ。
あんまりしつこくやるならちょっと叱らないといけない。
建物から少数出てきて遺体を並べ始めていた。各種族がそれぞれの種族の遺体を並べている感じだ。
ただナーガには運ぶ手段がないためナーガラージャが代わりにやっているようだけど。
傍から見てると、死者に対して敬意は払っているものの、悼んでいるという感じには見えないな。
そのへんやっぱり人間との感性が違うのかもしれない。
元の世界でも天敵がいない動物は同族を殺されたことを恨むと聞いたことがある。
天敵がいないせいで殺されることが少ないから理不尽に感じるせいらしい。
そう考えると彼らは殺されることが当然、というかよくあることなのかもしれない。
東の地の生存競争は厳しいみたいだし。いちいち恨んでいたら身がもたないのかも。
東門へ向けて一直線に遺体が並べられた。
ヴァルカのブレスは扇状に広がるものではなく火炎放射器みたいに一直線に伸びるタイプだったから、それに合わせたのだろう。
吹き分けられるだけなのかもしれないけど。
作業が終わって準備完了した。ヴァルカが俺の方を見る。
「ええ、お願いします」
俺が声をかけるとすぐにドラゴンブレスを吐いた。遺体が一瞬で炎に包まれる。しかしそのままファルカはブレスを吐き続けた。
オークの焼ける匂いは相変わらず豚肉を焼いた匂いに似ていて困るが今回は他の種族の遺体も焼いているので複雑な匂いになっていた。
吐きそうにはならないもののかなり不快だ。
しかしそれも一瞬だった。
すぐに匂いはしなくなった。
もう肉が燃え尽きたのだろう。
実際薄っすらと骨になった遺体がブレスごしに見える。
そのままブレスを吐き続けるヴァルカ。
思わず俺も手を合わす。
やっぱり死者は仏様だよな。