突然の来訪
「君たちの村はどのへんにあるんだい?」
「はい、以前暮らしていた村は放棄したので、今は定住しておりません。現在はここから一日ほど南東に行ったところで仮の拠点を作っております」
「ふむ、現在は仮住まいってことだね。では拠点をここに移動させることは出来るかい?」
「え? はい、我らは可能でありますが、我らの拠点から北側、ここからは東にあるリザードマンの村のなわばりと重なることになると思うのですがよろしいのですか?」
「そうなのかい? まあ東のリザードマンとは協力関係にあるから聞いてみてからにしようか。とりあえずこのままでは困るから建物に入ってもらうことにするかな。ドゥーア殿?」
「はい、彼らを一時的に収容できそうな建物のめどはつけてあります。しかしレッドドラゴンのほうはちょっとどうにもなりませんね。彼でも入れる地下室はあるのですが入り口が小さく、彼がそのまま入ることはかないませんので工事の時間が必要になります」
「レッドドラゴンよ、名はヴァルカだったか? 人化の法は習得していないのかい?」
「申し訳ないクレイト様、我は魔法は得意でなくてな。このままで困ったことがなかったし習得は出来ていない」
「そうか、この地にはよく町に住む人間が訪れるのだ。人間はヴァルカを見て恐れるだろうが大人しくしておいてほしい。その際失礼な振る舞いがあるかもしれんが許してやってほしいのだ」
「ふん、そんなことか。我はすでにクレイト様に下っておるのだから、頼みでなく命令すれば良いではないか?」
たしかにそのとおりだ、これがクレイトさんのすごいところでもあり、怖いところでもある。
クレイトさんの気持ちが理解できない者にはその態度は恐怖になるのだろう。
……俺は平和だったところから来たから理解はできるけどな。
ただ俺の元の世界でも力があるからといって傍若無人に振る舞う輩はたくさんいたけど、こういう人もいたと思う。
こっちの世界にはまじでいないレベルなのかもしれない。クレイトさんレベルで特異な位置にいる人でなければ。
「それもそうですけどね。命令には慣れてないのですよ」
「まあ了解した。人間と接触することなどめったにないことであるからな。興味深くはある。観察させてもらおう」
その程度の理解で侮っていたのか。力ある者ってそんな感じなのか?
それとも今までにあった人間がその程度だったってことか?
レッドドラゴンならそうかもしれない。
普通であれば一人の人間の敵う相手じゃないしな。
「クレイト様、転移門を見張っているゴーレムから報告が。何人かがエテルナ・ヌイに訪れたようです」
「え? 今日は埋葬の予定入ってたかい?」
「いえ、予定外のことです。どういたしましょう?」
「うん、何もしなくていいよ。ちょうどレッドドラゴンに頼んだところだったし、僕が様子を見に行こう。ドゥーア殿には彼らの監督を頼みたい」
「ハギル殿、各種族のリーダーを僕のところへ連れてきてほしい。ナーガラージャは君だから他の平均的な者一人でいい。あとしばらくそこのドゥーア殿に君たちの監督を任せた。周知しておいてほしい」
「はい、分かりました。しばらくお待ちを」
「僕はちょっと向こうに行っているから、集まったら向こうへ来てほしい」
そういってこの場をドゥーアさんに任せてそそくさと転移門の方へ行ってしまった。
思わず俺とファーガソンさんが顔を見合わせる。俺たちはいったいどうすれば?
「ははっ、クレイトさんもこの状態にあたふたされておられるようだ。では俺は彼らが何も起こさないか見張っておきますよ。リュウトさんはユーリアを連れてクレイトさんについていくのがいいのでは?」
「そうかもしれませんね、ではお願いします。何かあればドゥーアさんに言えばなんとかなるかと」
ふと見渡せばレミュエーラがアルティナさんと一緒になってレッドドラゴンの側に近寄っていて、それをグーファスがとめようとしていた。
何やってんだ、レミュエーラ。アルティナさんは竜オタクだから仕方ないけどさ。
「レミュエーラ、グーファスもついてきて」
レッドドラゴンはレミュエーラのちょっかいを意に介していないようだったが、何が癇に障るか分からないし、止めておくほうが無難だろう。
アルティナさんは、まあ大丈夫だろう。ケリスさんも近くにいるし。
転移門の方へ来てみると、来ていたのはラカハイ領主のドナルドさんだったようだ。他数人のお供の方々も一緒だ。
「どうされましたか、突然」
「いえ、王都からよくない知らせがきましてな。ちょっと知恵をお借りしたいかと思いまして。屋敷に伺ったらこちらにおられるとのことで、ちょうどよいから遊びに来た、わけではなく直接お話したくてですね」
ドニーさんがお供の顔色を伺いながら言い直した。
「申し訳ありません。呼びつけてくださればよかったのに」
「いやいや、私がクレイトさんを呼びつけるなんてよほど切羽詰まってなければやりたくありませんよ。それに久々に外に出たかったですしな」
「ははっ、では立ち話もなんでしょうし、座れるところへ行きましょうか。何のおもてなしも出来ませんが」
「墓場を訪れておもてなしを期待するなんてありませんよ。座れるだけいいですね。私としては立ち話でも良かったぐらいです」
クレイトさんが外に設置している休憩所に領主様を案内するようだ。
これは飲み物とか出したほうがいいんだろうか? けどエテルナ・ヌイに領主様にお出しできるような飲み物なんかあったっけ?
「グーファス、こっちになんか飲み物とかあったっけ?」
「いえ、補充物資にワインが少々あった程度で、それも調理用ですし」
「あーしまったなー、エテルナ・ヌイにおもてなしをするお客さんが来るって想定してなかった」
「リュウト、紅茶とってこようか?」
おもてなし好きのユーリアが提案してきた。
「うーん、今から走って取りに行っても時間かかりそうだしな」
「ならあたいがとってこようか? 小屋までならすぐに飛んでいけるよ?」
「うーん、ダメ元でやってみるか。紅茶の場所とか何を持ってくればいいか、ユーリア説明してあげて。グーファスはお湯の準備を。俺は話を聞いてくる。じゃあおもてなしのことはユーリアに任せるよ」
そう言って、すでに休憩所で座っているクレイトさんの斜め後ろに立つことにした。
角度的に東門の辺りやレドドラゴンが見えないと思うぎりぎりの位置なのでドニーさんはまだ気づいていないようだ。面倒くさいのでこのまま気づかなかったらいいんだけど。
「先日、王都から連絡が入りまして。なんでも星占いによるとこちら側、南ですな、に騒乱が起きるとの結果が出たらしく」
「占いですか、あいにくとそちらの方面は疎く」
「いえ、占いは占いなんですけどね。なんでも実際に空から竜が降ってきたとの話もありまして」
「竜が、降ってきた? 降りてきたではなく?」
「ええ、なにか大きな塊が空から落ちてきたと思ったら、落ちてきたところから竜が出てきたらしいです」
「そ、それは。その竜は赤かったですか?」
「わたしが見たわけではないので。色までは伝え聞いてませんな。なにか思い当たることでも?」
「はい、空にいる竜としては颶風竜が知られていますが、もっと高いところに棲む竜もいるのですよ。豪炎竜というのですが彼らはその地で魔王と戦っているはずなのです」
「ま、魔王ですか。ではその落ちてきた竜は魔王にやられて落ちてきた?」
「ええ、そう考えてもいいかと。もしかするとすぐそこに魔王がいるのかも」
空を指さしてクレイトさんが怖いことを言う。




