降伏
ラーガナージャの部族の長が降伏したおかげで戦いは終わった。
こっちの被害はゴーレムが多少傷ついた程度だ。その程度ならクレイトさんが直さなくても自動で回復できる。
問題は降伏した彼らをどう扱うかだ。
配下にしちゃったみたいだけど、どうするんですか? 彼らを。
クレイトさんに念話を飛ばしてみた。
『んー、別に配下が必要だったってわけじゃなかったんだけどね、彼らを丸く収めるにはそれが一番いいと判断したんだよ。無罪放免というわけにもいかないしね』
まあ確かに。
『なんとかまとめてみるよ、皆と相談しながらね』
「ナーガラージャの長よ、名をなんという?」
「はい、私めの名はハギルと申します」
「ではハギルよ。まずはここにいるものたちをまとめよ。外にいるものもな」
「はい、しばしお待ちを」
『さて、この間にこちらも少し相談するとするか』
ハギルは外に出てまとめ始めた。時間はあまりなさそうだけど。
クレイトさんが念話で呼んで、主だった者たちがクレイトさんの周りに集まった。ちなみにレッドドラゴンは地に伏せ、じっとしている。
「どうしたらいいと思う? なんでもいいから意見がほしい」
いつの間にか偵察から帰ってきていたハンターがまず手を上げた。
「彼らは東でも有力だと思われる種族です。彼らを引き入れたとなるとエテルナ・ヌイの安全度はより高まったかと思います」
次にファーガソンさんが発言した。
「ならば彼らはエテルナ・ヌイの近く、もしくはエテルナ・ヌイに滞在という形にしてはどうでしょうか? 今どこに村があるのかは知りませんが」
「ふむむ、確かに彼らナーガラージャは半分人間の姿だし、レミュエーラみたいに人間にある程度受け入れてもらう余地はあるかもしれない。それにレッドドラゴンを生んだ種族でもあるようだし、聖王教の人には受け入れやすそうだ。リザードマンの前例もあるし」
「オーガとオークたちはどうしますか?」
そういえばナーガたちは何故他種族であるオーガやオークを引き連れていたのだろう?
「そういえばそうだね。わからないことは聞いてみよう」
クレイトさんが進み出て、近くでじっと待機していたナーガラージャに話しかけた。
「あー、そこの君、君たちは何故オーガやオークたちを引き連れているんだい? というかどういう関係性なのかな?」
話しかけられたナーガラージャは大いに戸惑った様子だったけど、しどろもどろにもならず答えてくれた。
「えー、あー、はい。オーガたちは傭兵でして、というかオーガたちは少人数で各地を放浪している種族なんです。ですから今回の件で雇い入れたという感じです。オークたちは奉仕種族でして自分たちで集落を作らず他の種族の集落にいついてその種族に奉仕しながら増えていく者たちですので、彼らは昔から我らについてきています」
「君たちは降伏したけど、それはオーガやオークたちも同様、と考えていいのかい?」
「あーはい、おそらく。ですがオーガはこの場は降伏してますが、我らとひとまとめでなく個別に話し合われたほうが無難であるとは思いますが。オークに関しては我らとひとまとめでも問題ないと思います」
「ありがとう、参考になったよ」
恐縮しまくっているナーガラージャにお礼をいってクレイトさんが戻ってきた。
この人がさっきの絶大な力を見せつけた人には見えないよなぁ。
レッドドラゴンが舐めてかかったのも仕方ない気もする。
料理担当の義体の人が手を上げた。この人が主張するのは珍しい、というか初めてなのでは? 意見を聞いたら答えてくれるって人だった記憶がある。
「もし彼らをここに置くのではあれば、人間の食べ物と同様と考えるとまったく材料が足りません。我ら義体は食べなくても問題はありませんが……グーファスさんやレミュエーラに出す分も早々になくなってしまいます」
「ふむ、それは問題だね。ナーガラージャはいいとして他のものは何を食べているのかすら知らないしね。これも聞いてみるか」
「何度も済まないね。もう一つ聞きたいのだが、君たちは普段何を食べているのかな? ナーガやオーガ、オークも知りたい」
「はい、我々は主に採集狩猟で暮らしています。ジャイアントラットが多いですが何でも食べます。魚なども好きですね。果物や草なども食べます。ナーガは肉だけになります。主にジャイアントラットです。オークは我々と変わりありません。オーガも何でも食べれるようですが肉を好むようです。ジャイアントラットの肉を渡しています」
「ジャイアントラットに依存しているようだが、どこにいるのかな? そのジャイアントラットは」
「東の地ならば本当にどこにでもたくさんいます。狩っても狩っても増えるという感じです。逆に狩らなければ奴らにいろんなものを食い荒らされてしまう感じですね。害獣であり食料です。勝手に増えるので狩りすぎってことはないです。ナーガたちには特に小さな子供以外は自由に食べにいってもらっています」
「他のもだけどナーガたちは勝手にジャイアントラットとかいうのを食べているらしいよ。東にならいくらでもいるらしい」
「東には狼がいないらしいのでそうかもしれませんね。こっち側だと狼がいるせいかあまり見かけませんけど、取ろうと思えば取れます。人間にはあまり好評な肉ではないですけどね」
ハンターが答えてくれた。
「しかし他のものは基本的に人間と同じようだ。彼らを抱えるには食料の問題があるね」
「ジャイアントラットが主食であるなら狩りにいってもらうのもありですな。ジャイアントラットが増えてこっちに来られても困りますし」
これはドゥーアさん。
「リザードマンの協力を仰いでもいいかもですね」
「そうだね、東のことはリザードマンのほうが分かっているだろうし」
「レッドドラゴンはどうします? ここにいてくれるとリヒューサがいないときでも安心って感じなんですけど」
「うーん、部族の守護神を名乗ってるみたいだし、あまり部族と離れた場所にいたくはないだろうね。部族をどうするか次第になるかな」
まだ相談している間にハギルがこちらに戻ってきた。かなり早くにまとめたようだ。優秀な指導者なのかもしれない。
「ぬかりなく掌握しました。一人拠点へ伝令を送りたいのですがよろしいでしょうか?」
「何を拠点に伝えるんだい?」
「はっ、我らがクレイト様に下ったこと、私とレッドドラゴンのヴァルカは無事なこと、私か別の伝令にて命令があるまで大人しくしておくこと、などです」
最後のところ、少し問題あると思うけど、現時点では仕方ないかな。
「ふむ、いいんじゃないかな。信用するよ」
ナーガラージャの部族の長、ハギルが一瞬、え?という顔をしたのを見逃さなかった。
「ではこの者を伝令とします」
先程クレイトさんの質問に答えたナーガラージャが前に出てきた。クレイトさんに向かって一礼する。
「先ほど言ったとおりだ。拠点の者に伝え、余計な動きをしないよう言ってきてくれ」
「かしこまりました。ではさっそく……」
そのナーガラージャがこの場から立ち去ろうとしたところでクレイトさんが声をかけた。
「君、武器を拾っていきなさい。道中獣に襲われないとも限らない」
ナーガラージャは驚きの顔で自分の部族の長の方を見た。ハギルは頷いただけだった。
「そ、それでは失礼して……」
伝令となったナーガラージャは自らが落とした剣をゴーレムが回収して集めていた中から拾い上げてから門から出ていった。
どうも彼らにとってはクレイトさんの振る舞いは下った相手にするようなものではないようだ。
まあ威厳というか怖さはないよな。だから逆に怖いというのはあるかもだけど。