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ディスカース

「お前は座して死を待つ気か?」



「座して死を待つもなにも、ここで死ぬ定めでしょう。我らは攻めて破れたのだから」



んー? なんか理由があって攻めてきたのか? それにナーガラージャはもうここで死ぬ気でいるな。確かに攻め入って負けて無事で済むはずはないよな。



「だがあなたには生き残ってもらわねば困る。我が部族の守護神が攻め入って討ち取られるなどあってはならない。あなたが死ぬときは守りで死ぬべきだ」


「ぐぬう……」



「竜よ。しばし大人しくしておいてくれ。少しこの者と話をしたい」



クレイトさんがレッドドラゴンに無造作に背を向けてナーガラージャの方へ歩いていく。


レッドドラゴンは同意の声こそ発しなかったが何も動かなかった。



ファーガソンさんがゴーレムたちに指示してナーガラージャたちが落とした武器を回収させている。


心変わりしたときのためかな?



そしてゴーレムたちを敵だったものを囲むように配置した。


東門はゴーレムで塞ぐ感じにさせている。


まだ外にいるものをいれないようにかな。まあ外にいるものも降参の声を聞いて降参してくれているようだけど。



「偉大なる不死の王よ……」


「その呼び名はやめてくれないか? いくらここを平定したからといって、私は王ではない。クレイトでいいよ」



ナーガラージャはクレイトさんの正体を見抜いたのか?


それともクレイトさんが誘導したようにアンデッドだらけだったというここを平定したから不死の王、だって言ったんだろうか?


たぶん前者だと思うけど、ここにはファーガソンさんもいるし後者だってことにしないといけないしな。



「クレイト様、全責任は部族の長である私にあります。どうか御慈悲を賜り、他の者は生きて返してやってはくれませぬか?」


「その前に話を聞きたい。なぜここを攻めた? 一度やりあって勝ち目が薄いことは分かっていただろう?」



そうだよな、最初に来たときも結果としては向こうのボロ負けだったはず。


ここで降参できるような人がそんな無謀をやらかしたのは何かあるよな。



「何を言っても言い訳になりますゆえ……」


「その言い訳を聞きたい」



「では。東のゴブリンをご存知でしょうか? この地に住まうものは皆、金属をゴブリンから手に入れておりました。しかし最近ゴブリンの勢力が増し、金属に法外な値をつけ始めたのです。噂ではロード種が生まれたのではと言われております。ともかくゴブリンに足元を見られ金属の供給が難しくなっておりました」



「ほう、それは初耳だ」


「そして我が部族には呪いがかかっております。戦いの呪いが。ゴブリンにうまく取り入ってやり過ごすという選択肢はありませんでした。しかし今のゴブリンとやりあってはあの地で生き延びることは不可能です。金属加工の技術を持っているものはゴブリンしかいないのですから」



「そこで西側に来た、と?」


「はい、西側、人間の領土には金属が豊富に取れる地域があると聞きました。金属が取れて人間に加工させればゴブリンに対抗できるのでは、と考えました。我らは戦いの呪いを受けています。どうせ戦うのであれば消耗戦にしかならないゴブリンよりも勝ち目が薄くとも一発逆転が狙えるこちらだと思いました。浅はかでしたが」



最後は自嘲気味に締めた。


表情豊かだし、日本語しゃべってるし、考え方近いというか賢いし、彼らとならうまくやっていけるのでは?


恨みとかなければだけど。すでにこっちも何人かナーガラージャやナーガとか殺しちゃってるからな。



「なるほど、事情はだいたい分かった。では君はどうなればいいと思う?」


「私は部族の長なので部族が少しでも長く続いていくようにしなければなりません。出来るならゴブリンやリザードマン、そしてあなた方と交渉でなんとかできれば良かったのですが、我が部族が受けている呪いによって、それは出来ませんでした」



「本当にそうかな? ではなぜ君は今戦わずに降参できたのかね?」


「そういえば……」



「ここには呪いを弱体化する結界が張られている。そして呪いを解くことができるものもいる。ユーリア、どうだい?」



ユーリアがクレイトさんに駆け寄る。もちろん護衛である俺やグーファスも駆け寄る。



「うん、おとーさん、さっきから気になってたんで見てたけど、どうもこの部族の長さんにかかってる呪いみたい。そこから他の人に伸びてる感じ。だから部族の長さんの呪いを解けば問題なくなる、と思う」


ユーリア、文脈としてはおかしくないけど、まさかこの大きなナーガラージャの名前が部族の長、だって思ってないよな?



「どれぐらいかかりそうかね?」


「んー、呪い自体は強力だけど、長い時間がたってるようだし、それほどかからないかな。二、三ヶ月分程度ぐらい」



「ふむ、ドゥーア殿、どうかね? 多少遅れそうだが良いかな?」


戦線の一部を支えてくれていたドゥーアさんが進み出てきた。



「ええ、私は構わないと思いますよ。今皆に聞きましたが、良いとのことです」


なんかナーガラージャの部族にかかった呪いを解く方向にいってるな。

ということはナーガラージャを許す方向か。



まあこっちは何も被害受けてないしな。何が起こっているのか分かってないのはナーガラージャとレッドドラゴンの方だろうな。



「ナーガラージャの長よ、君がよければ君たちにかかっているというその戦いの呪いを解いてやってもいい。もちろん君も皆も生かす」


「え? しかし……」



「ああ、もちろん見返りはいただく。無事呪いが解けたなら君たちの部族は私の傘下に入ってもらう。リザードマンのように対等、というわけにはいかんが、まあ悪くはせんよ」



「武力あるものに付き従うは我ら種族にとって受け入れやすくあります。一部反対するものもおるでしょうが私が説得してみせます。この呪いさえなければ、より良い手段も選べるようになるのですから」



レッドドラゴンが遠くから声をかけてきた。



「ほ、本当によいのか? 我にもどうすることも出来なかった呪いを解いてくれるのか?」


「ええ、呪いは私たちの敵みたいなものですから」



ユーリアがナーガラージャの部族の長に近づく。


ここまできて暴れるってことはないだろうけど念の為、俺とグーファスが寄り添う。


長はずっとクレイトさんに頭、というか人間の上半身を下げたまま平伏状態なのでユーリアにも届く。


最初出会った時に、俺にやったように長の頬にキスをした。



「はい、呪いは解けたはずだよ」



「おお、おお! 降伏したあともずっともっと戦わなければ、という思い自体は残っておりましたが、それらが一瞬で消え去りました! あれが呪いの力だったのですね。おお、今は心からクレイト様、ユーリア様に平伏しとうございます!」



こちらの長であるクレイトさんは当然として実際に呪いを解いてくれたのはユーリアだからユーリアに感謝を感じるのも当然だよな。


俺としてもユーリア信者が増えてくれるのは良いと思う。

信者なんていうとなんか印象悪いけどさ。



他の人たちも呪いの影響を受けてたのが解除されたせいか、長と同じような感じになってクレイトさんとユーリアに平伏し始めた。


この様子なら傘下に入れても反乱とか良からぬことは考えなさそうだ。



もちろん常に一定量の警戒はしておかないといけないかもだけど。人の心は弱いからな。ナーガラージャたちは俺たちに近い分、余計にね。



「ナーガラージャたちはこちらに下るそうだ、君はどうする? レッドドラゴン?」



改めてクレイトさんがレッドドラゴンに聞く。


「我も呪いの影響下にあったようだ。もう抵抗する気はない。もともと我はあやつの曽祖父であるしな。あやつがそうと決めたのなら我は従うよ」



え? そうなんだ。リヒューサと同じ生まれ直しってやつか?



曽祖父だったってことは結構竜になってから時間がたってるってことだな。カラードラゴンではなく六大竜になってたら敵わなかったかもしれない。

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