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無双

「ユーリアたちはこの結界の中で待機しておいてほしい。ちょっと本気出すからそこから出たら危ないからね」



え? ドラゴンのブレスが危ないからじゃなくて、クレイトさんが本気出すから危ないの? とか思ってたら、それが本当にそのままだったことが、後から思い返せば笑える事態だった。



ドラゴンは進み出てくるクレイトさんを見て、首を傾げ、吠える。


それに構わずクレイトさんは進み出て、いきなり攻撃魔法をかました。



「デトネーション」


前にイビルコープス戦のときに使っていた爆発の魔法だ。


しかし相手はたぶん炎に対する耐性を持っているレッドドラゴンだ。


その魔法でいいの?


まあ確かに爆炎とかはアンチファイアシェルに守られてこっちに全く影響はなかったけど。



爆発の煙が晴れてきて、レッドドラゴンが見えた。やっぱり効いていないように見える。


爬虫類顔なのになんか訝しんでいるといった豊かな表情を見せている。



「いったい何を考えている? 人間。我に炎系魔法など効くはずもないであろうことはお主も分かっているだろう?」



レッドドラゴンが喋った。いや、喋ったというか全方位に向けて念話を発した、って感じか。あの口で喋ったわけではないようだ。



「ふむ、その程度か、やはり。ああ、もちろんお前に炎系では効きづらいことは知っている。……その上でお前を炎系で退けてみせようと思ってね」



なにやってんだ、クレイトさん。余裕の舐めプというやつですか?



「思い上がった人間め。粉微塵にしてくれるぞ」


さすがにレッドドラゴンも、その挑発にのってしまったようだ。



「そこだ、その程度だから僕なんかに舐められるんだよ」


そういいつつまた爆発魔法をぶつける。よく見てみると、確かに炎、というか熱でのダメージは入っていないようだけど爆発の衝撃によるダメージは入っているようだ。鱗が弾け飛ぶのが見えた。



「ファイアピラー」


レッドドラゴンがいた地点に炎の柱が立つ。傍からは炎の柱にレッドドラゴンが押しのけられたように見えた。炎に圧力とかあったっけ? あの魔法にはあるのかもしれない。



レッドドラゴンが退いたあと、怒りの咆哮を発した。


しかしクレイトさんはそれに怖気づくこともなくその開いた口にファイアボールを打ち込んでいた。容赦ねぇ……。



炎のブレスを吐く口だから熱でのダメージはなかったようだけど、ファイアボールにも衝撃力はある。そのせいで牙が何本か吹き飛んでしまったようだ。



「ぐぬう、ここまでコケにされるとは思わなかったぞ」


後ろに下がったレッドドラゴンがまた懲りずに吠えながら喋る。



その吠えにもファイアボールを打ち込もうとするクレイトさん。


さすがにそれはレッドドラゴンに避けられた。しかし避けたということは効いているってことでもあるな。


まあ牙が吹き飛んでいるんだから効いてないはずがないか。



そういえば後ろから戦いの音が聞こえなくなった。


どうしたのか振り返ってみると、皆戦闘を止めて、こっちの方を見ていた。



ケリスさんと大きなナーガラージャも隙を見せないようにしつつ、こちらの戦闘の成り行きを見守っていた。


他のナーガラージャやナーガ、オークたちも動きを止めて見ている。それはこちらのゴーレムやファーガソンさんも同じだった。


それもそうか、お互いのトップ同士、レッドドラゴンはたぶんだけど、の一騎打ちだしな。



「おのれ、人間のくせに。どうしてくれようか」


「まだそんなこと言っているのか? 見た目だけで相手を判断するのは愚者のやることだぞ。今降り掛かっている現実を直視するんだな」



何度がブレスをクレイトさんに向けて放つものの、そのブレスは途中でかき消されたり、魔法による壁に阻まれたりでクレイトさんに直撃しない。


……クレイトさんが人間だったら直撃はなくても熱でやられていたかもだけど、鉄を溶かしている時にあの熱でも気づかないレベルだったからなぁ。



「ファイアジャベリン」


空中に何本もの炎の槍が出現してレッドドラゴンに向けて発射される。


レッドドラゴンはその巨体を見事に動かして何本か躱すものの、巨体故に何本かは受けざるを得なかった。


炎だからそれほどダメージがあるようには思えなかったけど、結構ダメージが入ったようだ。



「どうした? 降参するなら命までは取らんよ」


クレイトさん的には慈悲のつもりなのかもしれないけど、煽りにしかなってない気がする。



レッドドラゴンは一声だけ吠えて飛びかかってきた。その勢いで右の鉤爪をクレイトさんに振り下ろした。



「格闘戦ならいけるとでも思ったか? まだ戦力差が分からんのか?」


クレイトさんはなんとその大きな鉤爪を右手だけでその鈎爪の先を掴んで受け止めてしまった。



おいおい、あの大きさのものが勢いをつけて振り下ろしたものを受け止めるって物理でも最強かよ。



『爪なら触れても大丈夫なようだ。これは参考になるな』


そんなこと言ってる場合ですか。なぜいたぶるような真似を?



『こういう強いものは、本当に自分より強いものが存在するということを認めることが出来たら、成長するし素直にもなるからだよ。話が出来るんだからそれに期待するのもありだろ?』



レッドドラゴンは鉤爪を掴まれたまま動かない。


動けないわけはないと思うんだけど。その体勢のままで腹部にファイアボールを打ち込まれていた。


腹部の炎耐性は若干弱いようで火が効いてるようにも見える。



レッドドラゴンが苦痛で呻いた。しかしそれを隠すかのようにクレイトさんの近くからブレスを吹いた。


クレイトさんが一瞬で炎に包まれて見えなくなる。レッドドラゴンは飛んで後ずさる。



「効かんよ」


炎に包まれたはずのクレイトさんが衣服すら焦がすこともなく無事に姿を見せる。



何をやっても通じないためか、レッドドラゴンが悩み始めたように見えた。


何か行動しようとして、ためらって動かない、といったことが何度も続いた。



「どうした竜よ? まさかお前が言う人間ごときを恐れるようになったのか?」


クレイトさんが余裕な感じで挑発する。ああ、確かにこれは心を折りにいってるな。



それでもレッドドラゴンは慎重になったのか襲ってこない。


しばらく膠着状態が続いた。


ユーリアが見たことのないクレイトさんの様子を見てびっくりしていたので、あれは演技だと説明してあげた。



膠着を破ったのはクレイトさんでもレッドドラゴンでもなかった。



俺たちの後ろで休戦していた大きなナーガラージャ、ケリスさんと戦っていたやつが突然、降参を叫んだのだ。



「何を言っておるんだ、お前は……?」


レッドドラゴンも訝しんでいる。クレイトさんは余裕の笑みで事の成り行きを見守っている。



「あなたではこの人に勝てない。となればわたしもこの人に勝てない。降参するしかないでしょう!」


なんかレッドドラゴンに対して怒ってるような言い方だったが、こちらとしても降参してくれた方が助かるのは助かる。



「あなたは我が部族の守護神だ。守護神が攻め入って負けたのです、降参するのが筋でしょう!」



「我はまだ負けておらぬぞ」


んー、本人からすればそうかもしれないけど、確かに傍から見てたらこれは負けてるよな。

それにまだとか言ってる時点で本人にも勝ち目がないことは悟ってる感じだ。



「あなたがまだ気づいて、いや認めていないだけですでに負けているんです! あなたの攻撃が一つでも彼に通じましたか? 彼の攻撃を一つでも完全に無効化しましたか?!」



降参したナーガラージャは両手に持っていた剣を地面に落とし、クレイトさんに向けて平伏した感じのポーズをとった。



その様子を見ていた他のナーガラージャもオークも、オーガですら持っていた武器を地面に落としてうなだれている。



まあ誰が見てもレッドドラゴンに勝機があるようには見えないものな。

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