レッドドラゴン
そう思っていたら後からやってきたナーガとオークたちがオーガに誤射するのを躊躇わずに魔法や石を撃ってきた。
なるべく避けているようだけど、見てるだけで何発かは誤射してる。
「こりゃいかん、オーガに接敵していないゴーレムには後ろのナーガやオークたちに瓦礫を投げつけてやるよう指示をお願いします」
ああ、しまった。指揮系統の説明をしていなかった。
「もうすでにファーガソン殿の指示でゴーレムが動くようにしているよ」
すかさずクレイトさんが説明してくれた。
ファーガソンさんはその説明を受けて、確認も取らずに的確に指示していく。アルティナさんとドゥーアさんにゴーレムの後ろから魔法による支援も指示していた。
たぶん俺とユーリアは優先事項に入れられたのでずっと後方かもしれない。
オーガを助けるように、剣を持ったナーガラージャたちが乱入してきた。
動いているの初めて見たよ。
生きてると思ったより大きく見えるんだな。
鎌首をもたげた蛇の頭の部分が人間の上半身になっている姿だ。レミュエーラのセイレーンみたいな半身半獣の異種族だ。
さすがにオーガとナーガラーシャを同時にさばけるほどストーンゴーレムは強くない。
アイアンゴーレムはその防御力のおかげかさばいているように見えたけど。
ので、増援として後ろに控えさせていた、戦闘経験がないゴーストが入っているゴーレムを戦いに出すことにして、敵に瓦礫を投げつけてもらっている。
特にピンチのところにはケリスさんを投入することになった。
俺とユーリアも後方からちくちくと魔法で支援はしている。
ユーリアはいつの間にかマジックミサイルを覚えていたようだ。
ケリスさんの威力は大きかったようで、あっという間にオーガの一角が崩れてついでにナーガラージャも一人倒していた。
ナーガの攻撃魔法やオークの投石が目立つケリスさんに集中したけど、魔法はあまり効いているようには見えず、投石はそもそも当たってない。
逆に剣の衝撃波で敵の後衛を吹き飛ばしていた。これケリスさんだけでもいけるんじゃないか?
「いやぁ、文字通りの一騎当千ですね、ケリス殿は。あれ程の戦士は軍にいた頃も見たことがない」
ケリスさんが想像以上の戦力だったためか安心しているようだ。
まああの実力を見たらそうだよなぁ。
そんな事を言いつつ、ファーガソンさんもたまに剣から衝撃波を出して援護している。
ファーガソンさんもケリスさんと同じ技使えたんだ。
もしかしてこの世界の戦士なら一般的なのか?
と思っていたらひときわ大きなナーガラージャが現れてケリスさんと戦い始めた。
両手に剣を持っているのに魔法を繰り出して牽制してくるその大きなナーガラージャにケリスさんはかかりきりになってしまった。
「むう、ケリス殿と互角レベルのものが現れたようです。これはケリス殿がいてよかった。ケリス殿がいなかったら止めれなかったかもしれない」
なるほど、そう考えるのか。
確かにそうだ。
ケリスさんを釘付けにされたのは痛いけど、あんなのをフリーにしてしまうほうがもっと痛いのは確かだろう。
他のやつは他のでもなんとかなりそうだし、あの大きいのはケリスさんに任せて他を倒してしまおう。
ストーンゴーレムたちは連携しはじめてオーガを押し返し始めたし、アイアンゴーレムたちは俺とユーリアが支援してオーガを圧倒し始めている。
支援のためちょっと突出してしまっているけど側にはお手製の大きな斧を持ったグーファスが控えているので安心だ。
レミュエーラは空から監視しつつ、弓でケリスさんの支援をしている。
投石も届かないほどの上空にいるようなので問題はないだろう。よくあんな高くから精密射撃ができるものだ。
ゴーレムにたいしてファーガソンさんが的確な指示を出してくれるので戦闘経験がないゴーレムたちも満足に働けているので純粋に戦力が増した感じだ。
最初は互角に見えたけど、どんどん押し戻し始めている。
……俺の指揮じゃこうはいかなかっただろうな。
何度かナーガやオークが回り込もうとしてたけど、未然にファーガソンさんが見抜いて自分で牽制するかゴーレムを動かしていたしな。
瓦礫も牽制に非常に役に立ってる感じだ。たまにもろに当たって潰れてるナーガやオークもいるし。
門の向こうにはまだいくらか戦力が控えているようだけど、門から入ったところで押し込めているので追加で戦力を投入できないようになっているようだ。
これもファーガソンさんの指揮のたまものだ。
あんまり押し戻しすぎて入ってこなくなっては殲滅できないしな。殲滅しておかないとまたいつか復讐戦にくるだろうし、ここで徹底的に叩くのはありだと思う。
今回のも前回の復讐戦っぽいしな。ゴーレムに対応している武装化とか見たら。
まあ油断しなければこのまま楽勝だろう、と思っていたら、低いところまで降りてきていたレミュエーラから慌てた声が聞こえた。
「なんか大きいのが飛んでくる。早いし大きい」
慌てて空を見る。確かに東から大きな赤いものが飛んできている。赤いからリヒューサじゃないだろうし。
「やばいです! あれはたぶんレッドドラゴンです!」
アルティナさんが叫ぶ。
「ユーリア、リュウト、こっちに戻ってくるんだ!」
珍しくクレイトさんが声を荒たげて指示する。
ゴーレムを見捨てる感じになって嫌だが指示通りクレイトさんの元へ戻る。
俺たちの護衛のグーファスや指揮しているファーガソンさんももちろん。
「アンチファイアーシェル」
クレイトさんが持っていた杖の石突で地面を突く。
その突いた地点を中心とした薄っすらとだけ見える半球のドームが形成された。
俺たち全員を包むのに十分な大きさの半球だ。
支援魔法を使いつつ、アルティナさんもクレイトさんと同じ半球を作り出していた。
しかしその大きさはアルティナさんがなんとか入れる程度の大きさしかなかった。これが魔力の差ってやつなのかな。
ケリスさんやゴーレムたちは支援魔法を受けつつ戦い続けている。眼の前に敵がいるから下がれない。
ドゥーアさんは半球も作らず支援している。
赤くて大きいのが飛んできた。アルティナさんが言った通り赤い竜のようだ、レッドドラゴンらしい。
空を飛んでいたレミュエーラに突っ込んできつつ、通りがけに俺たちにブレスを吹き付けてくる。
しかし俺たちはクレイトさんの魔法に保護されているので吹き付けられた炎、ブレスは一切届いていない。熱さすら感じなかった。
レミュエーラはドラゴンの突進を軽々と避けて、弓で反撃していたが見たところ効いていないようだ。
確かに当たったように見えたんだけどなぁ。
それだけ鱗が硬いってことだな。
レッドドラゴンは空を飛びながら、こちらに何度もブレスを吹きかけてくる。
しかし俺たちはもちろん、アルティナさんにも一切届いていない。
ナーガラージャやオーガたちに近いせいかケリスさんやドゥーアさん、ゴーレムたちには吹き付けてこない。
となるとやっぱりこのドラゴンはナーガラージャの仲間か。
まったくブレスが効いていないのにじれたのかドラゴンは目の前に降りてきた。
さすがに爪や牙が届く範囲ではないけど敵意の眼差しでこちらを見つめてくるドラゴン、怖ぇ。
ドラゴンは俺たちの後ろ、西側に降りたので俺たちはオーガやナーガラージャとドラゴンに挟まれた感じになる。
「ふむ、リヒューサと模擬戦闘訓練をやる前にドラゴンとの実戦を行うことになってしまったようだね。これは僕も手伝わざるを得ないね」
クレイトさんに慌てた風はない。ということはこの危機もクレイトさんにとっては危機ではない、ということか。
「君たちはそのままここにいてくれ」
杖を手放してレッドドラゴンの方へクレイトさんが歩いていく。手放した杖は倒れずその場に立って魔法の半球を維持してくれている。