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経験則

「あれー?」


気絶した日から次の日の朝。深夜に起き出してしまったせいか隣から聞こえてきた素っ頓狂な声で不意に目覚めてしまったからか、ちょっと寝不足気味だ。


起きはしたがまだベッドの上でまどろんでいるとドアが開いて誰かが入ってきた。この気配はたぶんユーリアだな、クレイトさんにはそもそも気配ないし。


気配がすぐそばまできた。何となく俺は寝ている振りを続けている。


「なんで自分の部屋で寝てたんだろ?」


小さな声だったがたしかにそうささやいていた。さっきの変な声はその疑問か。


これ、俺の顔覗き込んでるな。目は開けていないが気配が近すぎてわかってしまう。こ、このまま寝た振りはやばいな。


ユーリアは手のひらで俺の額を触ってきた。いいきっかけだと思ったのでそこで目を開ける。


ユーリアがびくっとして、さっと手を引っ込める。


「おはよう」


「お、おはようー。体大丈夫? どこも痛くない? アンデッド化しないよね?」


必要以上に心配してる感じだったのはそれのせいか。なにかトラウマとかありそうだ。


「ああ、おかげさまでなんともないよ。看病してくれたのかい? ありがとう」


ちょっとわざとらしい感じもするが、お礼は言っておかねばならない。


「うん、心配したんだから。あのまま目を覚まさないじゃなくて、覚めたけどだめだった人がいたから……」


「そっか。ほんとごめんよ。油断してるつもりはなかったんだけどな」


話題をそらしたおかげか、思いつめていたような硬い表情が若干緩んでくれたようだ。


「私もアレはやばかった。ケリスさんがすごいのは知ってたけど、あんなにとは。あのときの攻撃、ずっと考えてていける!と思ったんだけどなぁ」


「はははっ、そうだったのか。まあ上位の人はそんな感じなんだろうさ」


「そうかもね、いつかおいついてやるんだから。だからリュウトもついてきてよ!」


「お、なかなか言うじゃないか!」


あえておどけていってみせる。そして手を伸ばしてユーリアの頭を撫でる。そうしないといけない気がした。一瞬、びくっと怯えた感じだったが、すぐに笑顔になった。しかしその目には涙が溜まっていた。……別に俺の行動に怯えたのではないだろう。


「よし、それじゃ朝ごはん作ってくるね。今朝も贅沢にスープ作るね。元気だしてもらわなくちゃ! それにジャービスさんが今日来ると思うし、食材使い切っておかなきゃ。腐らせたらもったいないし。リュウトはまだ横になってていいよ」


「ああ、ありがとう、そうさせてもらうよ」


そういって手を引っ込める。言い訳じみたことをいっているが、好意で彼女がスープを作りたい!ってことなんだろう。

ここで言い訳みたいなことを言ってるのはたぶんクレイトさんもちらっと言っていた、贅沢に対する抵抗があるせいだろう。

本当にいい子だ。

クレイトさんも少々特殊とはいえ良い人だし、俺は運が良かった。

悪意あるものに当たっていたら俺なんかとうの昔に死んでただろうな。そんなことを考えながら二度寝の幸せを味あわせてもらった。


「スープ出来たよー。こっちで食べる?」


再びユーリアが来て、俺を起こす。今スープが出来たということはあれからそんなに時間は経ってないということだが、なにやらすごく頭がスッキリしている。いつ寝たのか分からないぐらい一瞬で深い眠りに落ちたようだ。そのおかげだろう。


「いや、そっちまでいくよ」


そういってベッドから出る。

広間の席につきながらユーリアに尋ねる。


「クレイトさんは?」


「今朝はまだ見てないよ。部屋から出てきてないみたい。まーよくあることだよ」


「ふーん、なんか作業してるとかも言ってたね」


「おとーさんはご飯食べれないから放っておこう。籠もってるの邪魔したら悪いしね」


「そうしようか。じゃあいただこう」


遅めの朝ごはんをいただく。といってもいつものパンとスープだが、今回のには魚が入っていた。


「魚が入ってるんだな」


「うん、戻す時間が短かったからまだ固いかもだけど。パンだけじゃだめだって聞いたからね」


パンだけじゃカロリーは得れても体を作る材料にはあまりならないんだっけ? 確かタンパク質がいるんだよな。干し肉でもいいんだろうけど魚はもっといいだろうしな。


しばらく二人共無言で食べる。干物から出汁でも出たのか今までのものより美味しい気がしたので思わずがっついてしまったせいだ。


「ふー、魚入ってると美味しいね」


「だよねー。お魚入ってるスープなんてここに来てから初めて食べたからびっくりしたよ」


ちょっと聞いてみるか。


「へぇ、そうなんだ。ちなみにここに来る前はどんなのを食べてたんだい?」


「えっとー、だいたいかちんかちんの黒パン。たまに干し肉」


「え? それだけ」


「うん、それも一日一食の日も多かったよ」


うへぇ、思った以上にハードだったようだ。


「そっかー」


「町でジャービスさんとかに助けられながら一人で暮らしてたんだ」


「いわゆる孤児というやつだったんだよ、ユーリアは」


「あ、クレイトさんおはようございます」


急に自室から出てきてクレイトが教えてくれた。孤児かー。


「孤児だったユーリアだったけどある事件が町で発生してね」


「おとーさんおはようー。食べ終わったから私、片付けするね。リュウト、お茶いる?」


「え、あ、はい。お願いしていいかな?」


俺はまだ残っていたので急いでかっこむ。


俺と自分の食器をもってユーリアは台所へ引っ込んだ。


あのー、クレイトさん、それってユーリアにとって辛い話なのでは?


心を読んでいるだろうからユーリアに聞こえないように考えるだけにする。


『ん、ええと、不味かったかな?』


少し狼狽えたようにクレイトも念話で話しかけてくる。


ええ、たぶんですが、話を避けるように引っ込んだので。


『そうか、ミスったな。ユーリアにとって大変なときだったしね。おそらくはそうかもしれない』


「作業って何をされてたんですか?」


そんなことを聞きながら、頭の中では、それはまずいですね、ではこの話題は今はやめておきましょう。ただ知っていたほうが良さそうなのでタイミングが合ったときにまたお願いします。と考えておく。


「あ、作業ね。死の瘴気を抑えるマジックアイテムを使っていると言ったよね。発生する死の瘴気を事前に吸い込むようにしたものだったんだが、これの改良をね。今までは無害にしてから放出してたんだが、魔力に変換して貯めておけないかな、とね」


『わかったよ、今度ユーリアにさとられない時に念話で話そう』


「え、魔力を貯める、ですか」


「ああ、今までなら僕は別に魔力を貯めなくても無尽蔵といっていいほどあるから必要ない機能だったから考慮していなかったんだけどね。ユーリアや君が持っていると良いと思うし、人間との取引でも使えそうだからね」


「そういうアイテムとかがすでに存在してるんですね、取引できるということは」


「さすがだね。魔晶石という形で存在してるよ。だからそれをたくさん作ればなにかの役に立つかな、と。そうなれば忌々しい死の瘴気も有り難みが出てくるというものだしね」


ははっ、まあ俺は簡単な魔法しか使えないから魔力切れとか起こしたこと無いからよくわからないけど、ユーリアとかなら役立ちそうだな。あの魔法打ち放題だとすごいことになりそうだし。


それにお金だってないよりあった方がいいのは確実だし。


「良いと思いますよ。ちなみに普通の魔晶石はどうやって生まれるんですか?」


「んー、以前だとそれなりの力のある魔法使いなら作り出せたんだけどねぇ。今だとどうも魔獣とかの体の中で生成されるものとか魔晶石の鉱脈みたいのしかないみたいだね」


「それだとあまり多くの魔晶石を売りに出したらやばそうですね」


「ああ、そうか。流通が少ないのにそれはそうだね。余計な疑惑も持たれかねないし」


「クレイトさんが作り出した、ってのもなしかな? 以前は皆そうだったんですよね?」


「以前、といっても何百年も前のことでね。今はそのときより魔法の力が普及してないようだから作り出せるのを知られると不味そうだね。そうか、ドゥーア殿とかに渡せば義体の稼働時間が伸びそうだな」


「まあ売るのは数個程度ならいいんじゃないですか。ユーリアの隠し玉として持っておくのもいいですし、仰る通りドゥーアさんたちがためらいなく義体を使えるようになるのは大きいと思います」


「そうだね、ユーリアは魔法使いとしても才能がありそうだし、義体の件も良さそうだ」


話がまとまったところでクレイトさんが急に立ち上がった。


「ドゥーア殿がきたようだ。出迎えようか」


この人(?)大魔法使いでアンデッドなのになんでここまで人ができてるんだろうか? 普通ならもうちょっと尊大になりそうな気もするんだけど。


「尊大になっても損しかしなかったからね。経験則だよ。君は尊大な存在と付き合いたいと思うかい?」


あー、経験則かぁ。クレイトさんもいろいろあったようで。無駄に尊大な人っているけど、そういう人たちは経験則で学ぶ前に寿命で死んじゃうとかなんだろうな。


「俺も行きますよ。元気なところを見せないとね」

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