店巡り
ファーガソンさんに話しかけられた。二人で話すのも初めてかも知れないな。
「えーっと、とりあえずジュース屋にでも寄ろうかな、と」
「それでしたら俺が出入りしている店とかどうです? ちゃんとジュースもありますし、酒もありますよ。あのグーファスって旦那ならいける口じゃないんですか?」
えー、どうなんだろう? 村にいた頃なら飲んでいただろうけど、その後はなぁ。
「グーファス、お酒は飲める方かい?」
グーファスはレミュエーラの世話、というか食べ方指南とかしていたのだが。ちなみにリヒューサにはアルティナさんがついている。
「え? 酒ですか? ええ、長らく飲んでませんけど、村にいた頃なら好きでしたね」
「お酒飲めるんですの? 是非飲みたいです!」
横からアルティナさんが意見してくる。前もお酒飲んで酔えるのかどうかとか言ってたし、いい機会かもな。
「ファーガソンさんがおすすめする店なら大丈夫でしょうし、そこにいきましょうか」
「はい、任せてください。店の主人とは友人ですし。ちゃんとしてもらいますよ」
「それは助かります。ファーガソンさんもリヒューサは知ってるでしょうけど、あのアルティナさんもちょっと特殊なのでお酒飲んでいいんですよ。でもあの見た目ですから」
「ああ、そういうことですか。分かりました。そのへんは融通聞かせますよ。リヒューサ殿とかにお酒飲んじゃいかん、とか言えませんしね」
皆食べ終わったので今度は皆でぞろぞろとファーガソンさんのおすすめの店でゆっくりすることにした、けどその前につい最近石鹸を買った露店があったので立ち寄った。
「あら……なるほどそういうことでしたか」
店の人は俺たちの顔を覚えていたようで、引き連れた子どもたちを見て悟ってくれたようだ。
「人間たちの小物の店か?」
リヒューサがなんとはなしにつぶやいていた。
今はリヒューサも人間なんだから、人間たちはやめておくれ。
もし誰かが聞いていたら訝しむから、と軽めに言い含めた。
店の品々は男の子にはあまり興味を引くものはなかったようだが、女の子は興味津々である。
「リュウトさん、いいんですか? 運営費だけでも大した額なのにこいういったものにまで……?」
ファーガソンさんが心配して聞いてくる。もっともな考えだと思う。
もしうちが他からの寄付で賄っているところだとしたらダメなことかもしれない。
けどうちはクレイトさんの私財でやってるところだし、少しぐらいはいいだろう。
ちょっと考えもあるし。
「ええ、ここは俺の財布から出した、ということにしておいてください。それに一人一点までとして、もしもっと欲しかったら今後もいろいろと頑張るように、という感じで。
それと男の子向けの商品はここにはないようなので男の子たちを引き連れて雑貨屋に行ってもらえませんか? あとで俺たちも行きますので」
「なるほど、それはいいことかもしれませんね。自立を促せますし、私財という概念を勉強させられる。今の生活は共同生活ですから。では先に雑貨屋へ行ってきます」
女の子たちは思い思いの気に入ったアクセサリを決めていった。
みんないい笑顔だ。
たくさん売れた店の主人もにこにこだ。
その間、ファーガソンさんに男の子たちを雑貨屋に連れて行ってもらった。条件は同じ、なんでもいいけど一つだけ、だ。
露店に残った男は俺とグーファスだけだ。
役目があるからな。
レミュエーラなんかは屋敷の女の子たちとも自然に溶け込んでいる。
リヒューサはまあ見た目はあんなでも年取ってるからな。
流石に落ち着いている。
人間の文化を学んでいるという感じだ。
むしろアルティナさんがけっこうはしゃいでるのが意外で面白かった。
あとで聞いてみたら生きていた頃は修行と冒険に明け暮れていて女の子らしいことをやった覚えがなかったからだそうだ。さすがに照れていたけど。
ユーリアは屋敷の子と同じ感じだ。年相応というやつかな。
結構時間がかかったが、なんとか各々一つに絞りきれたようで、それらを買った。
ここも馴染みの露店になりそうだ。
俺も屋敷とエテルナ・ヌイ用の石鹸を買った。
全部纏めてでさすがにいい額になったが、まあいいだろう。
ずっと騒いでいる女の子たちをなんとかまとめて、というかユーリアとアルティナさんに手伝ってもらって、女の子たちを引き連れて雑貨屋に向かう。
すぐ近くだ。女の子たちは店の外で待ってもらって、グーファスに皆の護衛を頼んだ。俺だけが店の中に入っていく。
店の中では男の子たちが目を輝かせながら店を見て回っていたようだが、すでに目的の商品は各々見つけているようだ。
ファーガソンさんがきっちり仕切ってくれていたのだろう。全員の分を店主に見せ、代金を払う。こっちはそこまで高くなかった。店主がおまけしてくれたのかもしれない。
「さて、じゃあジュースを飲みに行こうか」
男の子が店から出てきて女の子たちと合流してからそう宣言する。子どもたちから歓声が上がる。
「けど今日は露店じゃなくてお店に行くからね。あまり騒ぎすぎないようにね」
男の子も女の子も良い返事を聞かせてくれた。
「それじゃファーガソンさん、先導お願いします」
「はい、こっちです」
ファーガソンさんが先頭にたって歩きだす。子どもたちがついていく。
グーファスは中頃、子どもたちに囲まれて進んでいた。
ユーリア、リヒューサ、レミュエーラ、アルティナさんの四人はグーファスの前を歩いている。
何の問題もなさそうで良かった。
俺は遅れる子や横道に逸れる子がいないかを見張るため最後方を歩いている。
まあ今日は年長組がいるからあまりそんな心配はいらないと思うけどね。
大通りからちょっと小脇に入ったところにあった店に到着した。
先にファーガソンさんが一人で入っていく。
子どもたちはしばらく外で待っているように言われた。
ほどなくして店員風のお姉さんが出てきて皆を店の中に誘導してくれた。
「奥の個室へどうぞー」
子どもたちが全員店に入ったのを確認して、俺も店に入る。ファーガソンさんはおそらく店の主人らしきおじさんと親しげに話をしていた。
子どもたちは先程のお姉さんに誘導されて奥の個室へ入っていく。
個室がある飲み屋ってのも珍しいと思うけど、ここでは普通なのかな?
奥の個室は会議室風だった。そういう風な使われ方なのかな、普段は。子どもたちは皆礼儀正しく椅子に座っていた。
「ご注文はいかがしましょう?」
お姉さんに聞かれたが、俺はここのメニューを知らない。
メニュー表というものもなさげだ。どうしよう?
「えっと、すいません、初めてなもので。何があるでしょうか?」
「はい、うちが自信を持っておすすめできるのがワインとぶどうジュースになります。店主が産地の村まで行って作ってもらっているものなんですよ。ワインが苦手だという方にもおすすめできるものです。けどちゃんと普通のエールとかも置いていますし、ぶどうジュースも甘くておいしいですよ」
へー、産地にわざわざ行って仕入れるどころか注文して作ってもらったものなのか。こだわりの一品ってところかな。それにお酒にそんなに拘っているのにジュースもあるってわかってるなぁ。
「他にはシードルにりんごジュース、ミードなんかもありますよ」
「ミード? なんですかそれ?」
「ええ、ミードははちみつから作られたお酒ですよ。少々お高いですがおいしいですよ」
「なるほど。料理は何がありますか?」
「材料があればなんでも作りますけど、すぐに用意できるのはマッシュポテトとソーセージ、ハムとチーズ、ザワークラウトとかですね」