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アンデッドジョーク

目が覚めると、そこは見知った天井だった。

……あーなんかかっこ悪いなぁ、気絶してしまったのは覚えている。しかしどうやってここまで戻ったんだ?


「フローティングディスクの魔法を使ったよ」


おおう、いたのかクレイトさん。気配がないし月明かりだけだから気づかなかったよ。


「ユーリアがずいぶんと心配していてね。大丈夫だって言っても聞かないぐらいにはね」


クレイトさんがささやき、俺の足元を指差す。そこには椅子に座って、俺の足元に突っ伏して寝ているユーリアがいた。肩には毛布がかけられている。近くに椅子を持ってきて腰掛けているらしいクレイトさんによるものだろう。


「もう夜っぽいですが、俺どれぐらい気絶してたんでしょう?」


「半日ほどだね。今は深夜だよ」


うはぁ、思ったより長く気絶してしまったようだ。


「なかなか目を覚まさないからユーリアが看病する、とかいってここにいついちゃってね。そろそろ目覚めそうだったからここで待っていたんだよ。ユーリアを起こさずちゃんと寝かせてやりたいところだが、触れないからね」


少し悲しそうな声だった。俺は何も言えず、黙っていると頭の中にクレイトさんの声が響いた。


『起こしたくないから念話で話すよ。君は考えるだけでいい、いつもどおりにね』


いつものことだが器用だなぁ。


『ああ、目覚めたとはいえ、まだ動かない方がいいだろう。ユーリアを起こす心配もあるからね』


そう念話しつつクレイトさんは静かに部屋から出ていった。


『申し訳ないがやることがあるのでそれをしながらにさせてもらうよ』


ええ、構いませんよ、俺も失礼して寝たままですし。


『目が慣れて意識がはっきりしてから動くといいよ。それまでは横になっておくこと』


はい、そうさせてもらいます。……ところであのあとどうなったんですか?


『どうにもなってないかな。あれで訓練は終了だったし、すぐに君にはポーションを飲ませたしね、ユーリアが』


そっか、心配かけちゃったな。はー情けない。


『あまり卑下しなくていいと思うぞ。僕は正直驚いたよ。ケリス殿はまだ義体に慣れていないとはいえ、かなりのやり手だったはずだし。その彼を一瞬、ユーリアと二人がかりとはいえ、ひるませたんだからね』


最後のはユーリア単独のお手柄ですよ。俺は何も出来なかったです。


『いやいや、一流とは流石に言わないが、それなりの動きだったと思う。本当に君自身は剣も握ったことがないんだよね? なら上等すぎるよ』


あ、それなんですけど、体の影響ってあるんじゃないかな、と。


『なるほど、その体の持ち主だった者が一流の戦士だったのかもしれないね。そして体が覚えていた、と』


はい、そうじゃないと俺自身説明できません。


『いろいろと興味は尽きないが、あまり突っ込みすぎて君が消えてしまうのも惜しいしね』


え? 俺消えるんですか?



『いやいや、どうしてこうなったかわからない以上、あまりそのへんをいじくり回したら何が起こるか分からないからね。ユーリアも気に入っているようだし、僕としては君にはずっとここにいて欲しいぐらいなんだ』


なんかすごく買いかぶっていません? そりゃ期待されてるなら答えたいですけど、要求が高すぎると無理ですよ。……今までは期待すらされてなかったからなぁ。


『まあ期待してるのは事実だ。しかしそこまで高望みでもないと思う。僕の不自由さもわかってもらえるだろう? わざわざ義体を用意してまでやってることも、君なら理解できるだろう? 自分で言うのもなんだが僕の意図や立場をしっかり読みとって配慮できる人物はなかなかいないんだ。ドゥーア殿はかなりのものだが、彼も僕と同じ悩みを持ってるからねぇ』


アンデッドである、ということか。となると俺は人間である、というだけでアドバンテージが有るということか。……なんか以前に見た肺呼吸できてるから偉い、と言ってくれる動画を思い出したよ。


『動画とやらが何かは分からないけど、実際僕らから見たら君は肺呼吸できてるから偉いんだよ、実際にさ』


ははっ、一流のアンデッドジョークってことにしておきますよ。


『ともかく、真理の追求はしたいところだが、取り返しの付かないことになったら困るので、当分は考えないようにしようと思うけど、いいかな?』


あ、はい。この体の持ち主には悪いとは思いますが、前の体よりずっと良いんで。前の世界に未練がないとは言いませんが、あの体に戻るぐらいなら、って感じですかね。


『分かった。正直前の世界に帰りたいと言われたらどうしようかと考えていたところだったよ。僕のわがままみたいなもので君の力になってあげれないのは心苦しくはある。アンデッドになってこんな感情は久々で正直僕も戸惑ってるよ。僕にも感情が残っていたんだなってね』


ぇー、俺の知ってる限り、クレイトさんはすごく人情家ですよ。でなければ俺なんか放置していたと思いますよ。俺の前の世界は世知辛くて倒れていても助けてくれる人がいるかどうか……。


『ふむ、事実かどうかはさておき、君の前の世界の評価はすこぶる悪いようだ。こっちの世界もたいがいだと思うから正直助かるよ。それにユーリアの意思もあったしね。ああ、そうかユーリアに僕の心は癒やされているのか……』


……さすが理解力アップのギフトですね。自明であっても自力でそれにたどり着ける人はなかなかいないと思いますよ。


そろそろ目が慣れてきたかな。念話のおかげか頭もはっきりしてるし、どこも痛みもない。そろそろベットから出るか。尿意あるし。


そーっとユーリアを越さないようにベッドから抜け出した。そのままトイレに向かう。


『ああ、台所にユーリアが作ったスープがあるから飲むといい。もうすでに冷えてるだろうけどね』


冷えてても硬いパンと干し肉の組み合わせよりはずいぶんといいですね。ありがとうございます。


『そうそう、明日、人が来るからね』


え、誰が来るんですか?


『ユーリアの恩人だよ。ここにはユーリアの食料とか不足しているものを持ってきてもらうよう契約してるんだよ、常なら明日に来るはずだ』


へー、恩人か。そういえばユーリアもクレイトさんも過去のこと全く知らないなぁ。まあ俺の過去も二人は知らないし、お互い様だけどさ。けど人間関係が続いていくなら、知っておいたほうが良いかなぁ?

などと思いつつ、トイレをすませ、台所に向かう。


『そうかもしれないね。今度機会があったら話をしよう。僕は明日その人について行って町に行くから、僕からは少し先になるけどね』


ああ、前に言ってた件ですね。ユーリアに嫌われてないってわかったので多分こっちは大丈夫ですよ。


『ははっ。念の為こちらにはドゥーア殿かケリス殿に来てもらうことになっているから身の安全は大丈夫だと思うよ』


今スープ頂いてるんですが、やっぱり塩以外のなんらかのスパイスか何かが欲しいですね。こっちの世界では贅沢品かもですが。


『分かった。たぶん手に入るとは思う。ジャービス殿に確認をとってからになるけどね。ああ、それと町についたらまた念話を飛ばすから、必要なもの欲しいものなど考えておいてくれ。なるべく手に入れるよ。リュウトくんの個人的なものでも構わない』


ジャービスって誰だ? 話の流れからすると明日来るっていう人の名前かな。はい、分かりました。考えておきます。


食事を終えたあと、ユーリアをお姫様だっこしてユーリアのベッドに運んで寝かせてきた。思ったよりずっと軽かったのでびびった。

この体の筋力が高いというのもあるだろうけど、実際に軽いんだと思う。もっとちゃんとしたものを食べてもらいたいな。クレイトさんに機会作って話しておこう。


そんなことを考えながら再び寝ることにした。


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