採掘ギルド
広場を抜けてまっすぐにスミスさんの工房へ向かう。
「すいませんー、スミスさん、おられますかー?」
工房を覗いてみて、誰も見かけなかったので声掛けしてみた。奥から返事があった。
「お、誰かと思えばリュウトさんじゃないか、どうしたい、今日は?」
スミスさんが出てきたがまだグーファスは目に入っていないようだ。大きいのに。
「はい、今日は金属素材を分けてほしくて。あとこの人はうちの墓守で鍛冶もやってるグーファスです」
「おう、気づいてなかったわい。失礼した。わしがこの工房のあるじのスミスだ。グーファス?さんとやら、うちの工房はどうだい?」
「はい、とても整理されていて素晴らしいです。ツールログも年季が入っていて素晴らしい。それに見たところコークス炉が主なのですね」
「おうさ、ここは鉱山町だからな。コークスが安く手に入る。むしろ薪の方が高いまであるからな。ということはぬしゃ村鍛冶だったか?」
それだけの会話でわかるのか。専門家というのはすごいな。
「はい、以前村鍛冶をやっておりました」
「そうかそうか。村の鍛冶屋と町の、しかも鉱山町の鍛冶屋はぜんぜん違うといってもいいからの。いややってることは同じだが、村鍛冶の方がより多くの種類のものを作れんといかんからな」
なんか鍛冶屋同士で会話がはずんでるようだ。
「えっと、銅と青銅を十キロずつほしいんですが、在庫ありますか?」
「ん? おお、銅か。銅はあんまりうちでは使わんからな。十キロもあったかの? ちいと待っとくれ」
グーファスに好きに見てってくれと言い残してスミスさんは奥に引っ込んでしまった。
「これすごいハンマーですね。ご自身で作られたんでしょうね」
確かになんか見たこともないいびつな形をしたハンマーがツールログに置いてあった。変な形だが専門家が自分用に作ったのだからその形にも意味があるのだろう。
珍しいものがたくさんおいてあったので待ってる間暇はしなかった。しばらくしてスミスさんが戻ってきた。
「あーすまんの。銅も青銅もなかったわ」
俺とグーファスは思わず顔を見合わせる。
「心配すんな。時間あるじゃろ? これからぬしらを採掘ギルドに紹介しちゃるわ。わしんとこで買うより安く手に入るだろうし、量も手に入るぞ」
「いいんですか? それだとスミスさんの儲けにつながらないんでは?」
「仕方あるめ。うちで用意しきれなかったんだしよ。まあギルドを通すまでもない小さな物とかを今後もうち通して買ってくれたらありがたいってもんよ」
「ありがとうございます。今後も贔屓にさせてもらいます」
「はっはっは。素直なのは美徳じゃ。よっしゃ行くか。おい、ちょっと採掘ギルドに行ってくるわ」
後半は部屋の奥にかけられた声だ。部屋の奥から返事が来た。
「よし、ついてきな」
採掘ギルドっていうんだから採掘現場に近いところなのかと思ったけど、町の中心あたりにあった。
町の中心にある大きな建物だ。
ここが採掘ギルドだったのか。遠目からでもわかる立派な建物だ。
「ギルドの本部が現場の近くにないといけないという法律はないからな」
スミスさんが解説してくれた。それもそうだ。
スミスさんは顔パスでギルドの中をずんずん進んでいくので、それに付き従って行く。
建物の中は活気にあふれていた。
この町の中枢っぽい感じだ。鍛冶屋っぽい人や商人っぽい人がほとんどかな。
「おう、ここでちぃと待っとってくれ」
椅子だけが置いてある待合スペースみたいなところで待つように言われたのでしばらく座って待つ。
「おーい、こっちじゃ、こっちにこーい」
しばらくして近くの受付みたいなブースが並んでいるところに呼ばれた。
「こいつらが金属素材を買いたいという者たちじゃ、いけるかの?」
受付の係員の人がこちらを値踏みするように見る。
「当ギルドの会員でない方に売ることは出来ません」
「だからわしもきとるんじゃ。買えるじゃろ?」
「この方達がスミスさんの一員である、というのであれば買えます。もちろん責任はスミスさんにかかってきますがよろしいのですか?」
「おう、もちろんじゃ。本来ならわしが買って転売するところなんじゃが、面倒じゃからの。わしの名でかまわんぞ」
「分かりました。そのように登録しておきます。それでは皆様方、あなた方のお名前は存じませんが、ここでは今後はスミスさんを名乗ってください」
俺たちもスミスさんのところの一員ということか。無いとは思うけどスミスさんの名誉のためにもうかつはことは出来ないということね。
「商品の手配はこちらで行いますので、買う際はまずこちらにお越しください。私の名前はポールと申します。皆様方の顔は覚えましたので、今後は私を呼んでくだされば話はスムーズに行くことと思います。本日は何をお求めで?」
「はい、えっと、銅と青銅をそれぞれ十キロずつほしいんですが?」
「銅と青銅を十キロですね。ナゲットですか板ですかブロックですか?」
板とブロックはわかるけどナゲットってなんだ? 板とブロックと並んでるってことは形状のことなんだろうけど。どれがいいんだろうか。
そこまで聞いてなかった。
「どちらもブロックでお願いします」
すかさずグーファスが答えてくれた。さすが鍛冶屋。
「持ち運びはナゲットが楽でしょうが、ゴーレムの素材なら塊の方が良いかな、と」
グーファスが小声で塊を選んだ理由を教えてくれる。
「ナゲットもそれぞれ一キロ追加してくれるか?」
スミスさんも追加で注文する。
「分かりました。銅と青銅、それぞれ十キロを塊、一キロをナゲットで。お代はこちらになります」
なぜかわからないけど、料金は木で出来た数字札を並べたものを見せられた。
「取引で代金を口では言わないでください。なお相場は変動しますのでいつもこの代金とは限りません」
「あっはい、分かりました」
木札で記された代金を支払った。
「ではこちらを。これを持って交換所にて商品をお受け取りください。受け取り場所は……」
「場所は分かるからええよ。ありがとな」
スミスさんが受付の人の言葉と品を受け取って省略させた。
スミスさんには四つの割符が渡された。馬車の時にももらったやつだな。
もちろん文様とかはぜんぜん違うけど。
「そいじゃ受け取りに行くかな。銅と青銅は精製加工場所が別じゃから別の場所になるけどな」
建物の中で受け取るのかと思ったら町を降りたり登ったりしてけっこうたいへんだった。
銅と青銅を受け取ってから精算のためスミスさんの工房へ戻った。
「ついでにうちの在庫も買わせてもろうたわい。その分、ほれ。ナゲットを少々分けてやるぞ。袋に入ったナゲットを小さな袋に小分けして渡してくれた。
そしてナゲット分の料金を俺に渡してくれた。
「今後はさっきのポールに声掛けすればわしの名前で買えるからな。まあまたわしがついていってもいいけどな。こういうついでもあるしの」
グーファスは消費していた矢の材料をスミスさんから分けてもらった。もちろんその代金は払った。
「矢の材料まで直に買いに行くのは面倒じゃからのう。今後もうちをひいきにしておくれ」
確かに接着剤と羽をそれぞれ専門店で買い揃えるとなると面倒すぎる。それに今エテルナ・ヌイで矢を使うのってレミュエーラとあと一人のハンターだけだから必要な数が少なすぎる。いわゆる小売レベルだからな。
「ありがとうございました」
礼を言って工房から出る。もう日は落ちてきている。ちょっと寄り道をしすぎたか。物を手に入れるのにあんなに登ったり降りたりするとは思わなかったものな。