量産機と特殊機
用事も終わったし、念話でクレイトさんに帰ることを伝えてから、ダロンと護衛のケリスさんとで小屋まで帰った。
スペクターたちが常に護衛してくれているのでケリスさんが付いてこなくても問題ないんだけどやっぱり暇なんだろうか。
「ダロン、しばらくは転移門のこと、それを使ってエテルナ・ヌイへ行ったことは秘密にしておいておくれよ。出来るだけ早く皆にも伝えるようにするから」
「はい、わかりました。たぶんパトリシアとかなら役立てそうだと思うからパトリシアを次につれてやってほしいです」
「パトリシアかぁ。魔法の才能は確かにでかいよなぁ。もしかするとクレイトさんの手伝いとか出来るようになるかもだしな。わかった、考えておくよ」
「ありがとう、リュウトさん!」
小屋でケリスさんと別れ、屋敷へダロンとユーリアと一緒に戻る。
ジャービスさんが出迎えてくれた。
ちょうど昼飯時だったので皆で食事をとった。
最近のビルデアさんの料理はますます磨きがかかっってるようだ。
持って帰ってきた食事会の料理が効いたのかも知れない。だとするならすごいよな。
素材ではどうしたってかなわないのに、それと競り合ってるんだから。
食生活が豊かになるのは助かる。
この世界娯楽がないからな。
まあ娯楽なんかやってる余裕が無いといえば無いけどさ。
しかしダロンから提案されたけどパトリシアに手伝ってもらうのにはいろいろと考えないといけないことが多いな。
義体のことを知るってことはイコールアンデッドのことを知るってことだしな。
それにダロンも含めてだけどせっかくだから平和な暮らしが出来るようになってほしいしな。
ダロンとか確かに戦士とかに向いてるとは思うけどさ。
しばらくは何事もない、変化のない日常が過ぎていった。
その間に何件か埋葬があっただけで、もうそれは通常業務になり始めてきた。
ラカハイはそれなりに栄えているからか人口も多いので、死者も多いってことだろうな。
そりゃ土地のないラカハイでは埋葬地が枯渇するわけだ。まさか町の入口にそれを作るわけにもいかないだろうし。
そんな中エテルナ・ヌイでは墓守が順調に増えていた。
もちろん義体だ。
クレイトさんが継続していた研究開発により、低級の義体でも食事ができるようになった。
娯楽の意味も大きいが魔力回復手段としての実装である、らしい。
だから別に食べなくてもいいらしいけど、食べればそれを魔力に変換するので長い時間義体を動かし続けることができるようになった。
今までは魔晶石頼りだったのが食事で事足りるようになったということだ。
まあその分必要物資が増えてしまったんだけど。
また無事ドゥーアさんとケリスさんは高級コアによる義体への乗り換えが行われた。
ドゥーアさんは今までにも外部への露出があったので見た目の変更はないけど、ケリスさんはドゥーアさんそっくりだったのがだいぶと若返った感じになった。
中の人の享年に合わせた感じだ。
新しい義体になった二人の能力は跳ね上がったようだ。
ドゥーアさんはレイス時よりも強いぐらいの魔法を、義体使用時でも使えるようになってたし、ケリスさんにいたっては何割増しどころか何倍かになったかのように強化されたようだ。
日々の戦闘訓練でも全く歯が立たなくなってしまった。
今までどれだけ義体の性能に足を引っ張られてたんだ、って感じだ。
例えば前の義体の時の衝撃波飛ばしは楽勝で避けれたのに、今はその事前行動で察知しないと避けれないぐらい早くなった。
ケリスさんいわく
「生きていたときよりも強くなってしまったかもしれません」
だそうだ。
義体はエテルナ・ヌイに住む霊体たちの提案から、生前に高い技能を持っていたものを優先して義体を与えられることになったので、エテルナ・ヌイは急に技能集団の住まう開拓村となった。
変化として大きいのは農業知識を持った人が義体を得たことで、エテルナ・ヌイから少し離れたところにある森を伐採した土地に自給自足を目指して畑を作り始めたことだ。
モーガンさんが使ってた豊穣の魔法をその人も知っていたのでレミュエーラやグーファスに教えたっぽいので収穫は期待できそうだ。
自分自身ではアンデッドであるため使えないそうだ。
また狩りの分野でもレミュエーラの成長著しい上にハンターだった人も一人義体を得たので飛躍的に向上した。
食事が出来る義体が増えたことで、グーファスの負担が増大したので料理人だった人も義体を得て、エテルナ・ヌイ専属料理人となり、グーファスは鍛冶や工作に専念している。
今も続々と義体が製造されているけど、次に作られたら木工職人を増やす予定らしい。
ハンターが増えたので矢の増産や、柵を量産しなければならなくなったりとグーファスへの負担がたいへんだったからなぁ。
グーファスとレミュエーラは数少ない生者ということで、義体達のまとめ役となっている。
義体が増えて揉め事も増えるかな、と思っていたけど、中に入っている霊体たちはユーリアとクレイトさんへの恩義と、生者である墓守のグーファスとレミュエーラの二人を尊重してくれているので目立ったものはなかった。
しばらくリザードマンの集落へ戻っていたリヒューサが帰ってきた。
最初リザードマンの姿になったけどすぐにその姿だと人間の言葉がしゃべれないことに気づいて、以前の幼女の姿になってくれた。
しばらくリーザドマンのところにいたからくせになっていたんだろう。
「あの地に住まう異種族たちはだいたいまとめました。しかし一部エテルナ・ヌイに近い地の部族を吸収しきれなかったので、攻めてくるかもしれません。まあさすがに私がここにいる時は来ないと思いますが」
「どこの部族なんだい?」
今は新たに整備した大広間で、見張り役を除いた墓守全員が集まってリヒューサの言葉を聞いていた。
「オークたちを支配下においているナーガ・ラージャの部族です。オーガもいることを確認しています」
ナーガ・ラージャかぁ、一回攻めてきてたものなぁ。
「今のエテルナ・ヌイにはゴーレムがたくさんいるので、驚異にはならないでしょう」
義体の一人が言う。まあ確かにそうなんでしょうけどね。
義体の作成と並行してゴーレムも量産していたので、すにで多数のゴーストがゴーレムを得ている。
もうだいたい全員に行き届いたんじゃないかな。
「驚異にはならないと思うけど、オーガもいるとなるとちょっと厄介かもね。もし僕がいないときに来た時は遠慮なく呼びつけておくれ」
「分かりました、クレイト様。一応念のための警戒体制をひいておきます。我らは疲れで能力が落ちることはありませんからなぁ」
そうなんだよなぁ。戦力として考えた場合、ゴーストたちは魔力残量さえ気をつければ疲れ知らずなんだよなぁ。
魔力も普通に活動しながらでも回復するみたいだし。
ただゴーレムにずっと入ったままってのが出来ないだけで。
その弱点も、溜まりに溜まったクレイトさんの魔晶石を各ゴーレムに埋め込む形で所持させることにしているので、弱点を補うことができてるんだけどね。
ゴーストたちがごにょごにょとドゥーアさんに話ししている。
ゴーストのまま話せたらだいぶと楽だったんだけどねぇ。
「ではクレイト様、墓場拡張と道の舗装しなおしはそのまま継続でよろしいですか? 工事担当のものからの質問です」
「ええ、工事担当のものはそのまま工事を続けてください。他になにか要望があれば言ってください」
ゴーストたちがまたごにょごにょする。
「えー、今のゴーレムは力強く大変楽に作業が出来ていますが、腕も指も太いため、器用さが足りません。繊細な作業をする時に向かないので、そのへんの作業に特化したゴーレムがあると助かる、とのことです」
「なるほどね、それは気が回っていなかったよ。そのへんは義体の諸君に任せられるようにしようと思っていたんだが、ゴーレムであっても良いよね。分かった、軽作業用のゴーレムを開発してみるよ。義体の研究が進んでだいぶと操作体系がこなれてきたから、作業ごとに乗り換えられる仕様にするよ。軽作業用になると戦闘には向かないだろうからね」