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経緯

「さて、どこから話せばいいでしょうか……」



とりあえず皆席に座ったところでラピーダさんが話し始めた。


「私がライルと出会ったのはおよそ二年前、都市連合所属の町ででした。破術師としての修業を終え、パーティー仲間を探していたんです。ライルは戦士として登録していました」



ユーリアだけが目の前に置かれていた料理、たぶんローストビーフっぽいやつ、を食べながら聞いている。他の人は食べも飲みもせずに聞いている。



領主のドニーさんの方をちらっと見ると、なんか楽しそうだ。


「私はライルと今のメンバーのうち二人とその時にパーティーを組みました。今いる残り一人は後からの参加です。……この辺はどうでもいいですね。

ライルは戦士で登録していましたが、各種魔法も使える魔法戦士でした。魔法はあまり得意じゃないから戦士として登録した、と言っていました」



「魔法戦士とは珍しいね」


ドニーさんが感想を述べた。

けど誰も聞いていない。

ちょっとシュンとした感じだ。



ドニーさんの立場的に発言を無視されることとかまずないんだろうなぁ。


「五ヶ月ほど前にある依頼を受けました。守秘義務はなかったので言いますが、腐竜の討伐です」



ドニーさんもクレイトさんすら驚いた様子だ。


……確か腐竜ってエテルナ・ヌイを滅ぼしたあの腐竜?


それの討伐が請け負えるレベルなのか。



「正直難しい依頼だと思いました。しかし町のためどうしてもということでしたので引き受けました。受けたのは私達だけでなく数パーティーいました」



「大規模な討伐だな。町のため、か……」


なんかドニーさんは考え込んでしまったようだ。

何か重大な意味でもあるのかもしれない。

俺には分からないけど。



「長い時間をかけて下準備をし、それぞれ出発しました。各パーティーに連携はなく、かちあったら互いに協力する、という約束だけでした」



ユーリアには関係のない話だからかひたすら食べていた。

そういえばユーリアって食いだめができたんだっけ。

こんな高級な料理とか滅多に食べれないだろうし、今はどんどん食べるのがいいと思う。



俺はというと、目の前に置かれていた瓶が気になる。

半透明の瓶だから中に何が入ってるのか分からないけど、少なくともワインではなさそうだ。


日本酒を頼んだし、もしかすると日本酒かもしれない。

聞きながら瓶の蓋をとって高級そうなグラスに注いでみる。

黄色っぽいけど透明といっていい感じだ。



「腐竜が隠れている場所へ到着したときにアンデッドどもの強襲を受けました。慎重に近づいたつもりだったのですが察知されていたようです。私達はアンデッドたちを倒しながら腐竜に近づきました。

後少しで腐竜がいるであろうところに着いた時、急にライルが私達に撤退するように言ったのです」



おっと、お酒が気になるが、話の方も核心に近づいてきたようだ。



「俺がアンデッドたちをひきつける。お前たちはすぐに戻るんだ。って。何故と聞き返しました。アンデッドたちは無理なく処理できていたので腐竜さえなんとかすればいい段階には来ていたからです。

すると、アンデッド共の主力は他のパーティーに向かっていったようで、すでに壊滅したか撤退したかとのことで、すぐにでも強力なアンデッドどもがこちらに押し寄せる、そうなったら勝ち目はない。

追われてもやばい。だから俺が腐竜と一騎打ちをしかける。アンデッド共は腐竜の配下だからこっちにくるだろう、と」



ライルさんは囮になったのか。って、あれ? そうだとしたら何故ここにライルさんの体が満足にあるんだ? こっちに来た時、傷ついてはいたから筋は通ってるけど。



「ライルは今までに見たこともないような力で突き進んでいってしまいました。まるで本当に腐竜と一騎打ちで倒してしまうのでは、と思えるほどに。私達とライルはあっという間に分断され、ライルが言ったように強力なアンデッドが現れ始めたため、私達はライルを追う事はできず、引き返しました」



聞いてる限りだとライルはもう死んじゃってるよなぁ。


じゃあこの体はライルのじゃないのかな? けど見た目や魔法も使える戦士ってところもかぶってるしなぁ。



「私達は都市連合へは戻れません。完全な依頼失敗ですし。帝国は東側、腐竜の住処の向こうですので撤退するのに敵がくる側に逃げるわけにも行かず、北の異種族の領地へ逃げ込みました。

逃げている間にもアンデッドの追手はたまにかかり、うかつに人の住んでいるところへ入れなくなりました。

しばらく自給自足で異種族の領地を放浪しました。

放浪しているうちにアンデッドの追手がかからなくなり、街道へ出たところをアンソニーさんの商隊に拾われたのです」



「ええ、あとは私が話しましょう。ラカハイに支店を開くべく商隊を組んでラカハイへ向かっているところ、ぼろぼろの冒険者たちと遭遇しました。見ただけで歴戦と分かりましたので助けることにしました。今はわたしと仮の契約をして私の個人的な護衛となってもらっています。

今回のパーティーに彼女がいたのは私の護衛、そしてパーティーパートナーとして来ていただきました。唯一の女性でしたし礼儀作法が分かっているのは彼女だけでしたから」



「なるほど、話は分かりました。確かにそんな状況で瓜二つの人物を見つけたら、生きていたのか?! と動揺もするでしょう」



クレイトさんが顛末をまとめてくれた。


次に発言したのはドニーさんだった。


「私は都市連合が腐竜を今更退治したがってるのが気になりましたね。聞けば腐竜がいた場所は帝国との国境付近だった様子。帝国と都市連合の不仲は有名ですからなぁ」


「はい、都市連合側に野心があるのではという疑念は確かにありました。しかし腐竜によるアンデッド被害が都市連合の町々に及んでいるのも事実でしたから」



それにラピーダさんが返す。ドニーさんの方を見ると、別に意見されて不愉快、ということもなさそうだ。

むしろ無視されなかったので喜んでいるという感じだった。



「私なら何々ができる、ということでもありませんが、協力できることがあればいつでもなんでも言ってください。首を突っ込んだからにはそれぐらいはね。そのライルさんが常に身につけていたものとかそういったものはないのでしょうか」



クレイトさんが少し同情的な感じに発言する。

確かにそういうのがあったらライルさんがこの体の持ち主だったかもしれないということが分かる、かもしれない。



「いえ、残念ながら特にそういったものは……。当時は魔法をあまり阻害しない金属鎧を身に着け、魔剣と魔法の盾を装備していたぐらいで……」



「金属鎧、ですか……」


『その体は金属鎧の下に着る服を来ていたね。まあそれだけで断定できるわけじゃないが』


そうですね。



「アンデッドの追っ手というのはもう大丈夫なのですか?」


ラカハイの領主としては確かにそこは気になるかもしれない。



「はい、最後に来たのが異種族の領域で一ヶ月以上も前のことですし、もう大丈夫かと。腐竜の住処からもだいぶと離れましたし」


「これからどうなされるので?」



「まだ何も考えておりません。拠点にしていた都市連合の町には戻れませんし……、ライルの手がかりもさっぱりですし……」



「ならば何か目的ができるまではラカハイにおられると良い。都市連合の者がなにか言ってきても保護しますよ」



「ありがとうございます。しかし仮とはいえすでにアンソニー様と契約しておりますし、私一人の考えでパーティーのことを決めるわけにはいきませんので……」


「おお、そうであったな。アンソニー、君は彼女たちをどうするつもりなのかな?」



「はい、ドナルド様。正直に申しまして仮契約は彼女たちを手助けする名目でしかありませんので、どうこうしようという考えはありません。今の所はおかげさまでラカハイに店を構えられそうのですので専属の護衛でもしてもらおうかと……。

ただ聞いたところではかなりの手練の様子なので護衛に使うのはもったいない、というか適材適所ではない、と思い始めております」

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