招待
屋敷に戻ったら子どもたちに囲まれた。
「ねえ、あの竜友達なんだよね、また来るかな?」
「二階に何があるの?」
子どもたちにはあまり説明してなかったからなぁ。
「どうかなぁ、これたらいいんだけどね。二階は今度落ち着いたら教えてあげるよ」
「また来てほしいな、今度はちゃんと挨拶するんだ!」
これでますますクレイトさんの人気は上がりそうだ。
「ふう、これでようやく一息つけそうだ」
「大司教に領主様まで出てきちゃいましたからね」
「そうだった。領主様にお呼ばれするかもしれないんだったね。ユーリアや君の服を用意しないとね」
「服、ですか?」
「領主様は貴族だからね。貴族に関わるなら身だしなみもしっかりしておかないと失礼になってしまうからね。今度シムーン君と一緒に服を作ってもらいに行ってもらおうか。あーでも間に合いそうもないな。古着でいいのがないか手配してもらっておこう」
子どもたちを落ち着かせていたシムーンさんを呼んでクレイトさんが説明してる。
シムーンさん驚いてたな。そんななのか、領主様にお呼ばれするってのは。
「新たに服を作るなら最低でも一ヶ月は欲しいですね。あとさすがにリュウトさんのは私にはわかりかねますので母に伝手を聞いてみますね。あ、もしかすると父の服がいけるかも」
服ってそんなに時間かかるんだ。
あーでもそうか。
ミシンもなにもない針だけで作るならそれぐらいかかってしまいそうだ。
それに今着てるような簡素な服ってわけにもいかないんだろうし。
「他は……待ちだねどれも。ゆっくりさせてもらおう、最近慌ただしかったからね」
「そうですね、服は急ぐとして他は特に急いでやらないといけないことは……、エテルナ・ヌイの充実ぐらいですかね」
「そうだね。そのへんはまた今度話そう。ユーリア遊んでおいで。リュウトも好きにしてくれていいよ」
それからしばらくは変わったことはなかった。
領主様から招待状が届いたり、聖王教からコアを譲り受けたりしただけかな。
招待された日までに服を間に合わせるのはちょっとたいへんだった。
古着でそれなりのものを見つけられたのはよかったんだけど。サイズがイマイチあってなかったため、仕立直しをしてもらったけど、それが思ってたよりずっとたいへんだった。
何度も試着したりサイズを測り直したりで、俺が付き合わないといけないこともたくさんあったから。
けどなんとか間に合った。
睡眠時間を削ってまで仕立て直してくれた職人さんに感謝しかない。
ユーリアの服はシムーンさんの妹さんの服がぴったりだったのでちょっと仕立て直しただけで良かったようだ。
聖王教から売ってもらったコアは高品質もあったようだ。
並もそれなりにあってだいぶ余裕というか義体を量産できそうだ。
屋敷用や転移門用のゴーレムを作る方に回してもそれなりの数があるから、質さえ考えなければだいぶ増やせそうだ。
ただ生産に時間が掛かるからアルティナさんやドゥーアさんにも手伝ってもらえるよう教育中だそうだ。
この間に一度だけラカハイで死者が出たので、埋葬をした。
最初ということもあって護衛が多いとか大仰なところはあったけど問題もなく終わることが出来た。
亡くなった方の家族とかまったくの一般人もエテルナ・ヌイに訪れたけど、問題は起こらなかった。良かった。
今後はたまにお墓参りということで家族の方もこっちに来る可能性が出てきた。
そのへんの対応のためにも簡易型でも義体を増やしておきたい、ということらしい。
エテルナ・ヌイや小屋への物資の補充には相変わらずシャイニングホライズンに任せてある。
転移門に馬車が使えないためだ。
転移門のあるところまで馬車をもっていけないしね。
馬車なしだと荷物を背負って持っていかないといけないし、さすがにそんなことに最初の頃は転移門は使わない方がいいだろうとの判断から。
まだみんな存在自体に慣れてないしな。ある程度日常化したら多少なら転移門を使って物資を運んでもいいと思う。
そんなこんなで時間は過ぎ去り、領主様に招待された日になった。
体にフィットしててずいぶん着心地がいいけど着慣れてない服を着て準備していると領主の屋敷から使いの人がやってきた。
本来であれば馬車でお出迎えするところだけど立地上そういうわけにもいかず申し訳ないと頭を下げてきた。そんなのここなら当たり前の話なんだけどぐずる人がいるのかもしれない。
ユーリアがシムーンさんと着付けてた部屋から出てきた。ちゃんとしたドレスにアクセサリまでつけてる。
『あのアクセサリは魔法の品だよ』
身につけていてもおかしくないようにか、装飾品の形をしたマジックアイテムって多いよな。
クレイトさんが多数持ってる魔法の品から装飾品としても優れているものを探してきたようだ。
そんなクレイトさんはいかにも魔法使いーって格好になっている。魔法使いの姿は正装として認められてるらしい。
「ユーリア、似合ってるね」
ユーリアが緊張してるのかかたくなっていたので声をかけてみる。
「ほ、ほんと? おかしくない?」
緊張してるんじゃなくて照れてるのかな?
「ああ、おかしくないどころかすごくかわいいよ」
真顔だったのが笑顔になった。
「よかった。自分じゃどう見えるのか分からないから」
「姿見があればよかったんですけどね。あれってすごくお高いから」
玄関までユーリアに付き添ってくれていたシムーンさんが説明する。
ああ、そうか。なんか違和感あると思ったらそれか。
俺も顔を確認した時以降は仕立て屋さんのところでしか鏡を見た覚えがない。
ユーリアは行くまでもなかったみたいだしな。
使いの人についていく。町をどんどん上に登っていく。
屋敷があるところも結構高いところだけど、領主の屋敷は一番上にあるのかな?
町から出るの不便そうだ。
屋敷についた。
思ってたより小さいな。町自体に土地がないから当然なんだが。
それでもうちの屋敷よりは遥かに大きいし、庭も十分にある。
屋敷の中に入って、別の人に案内が受け継がれた。
見た目からして執事? 老齢の渋い人に変わった。
「本日はお越しくださりありがとうございます。こちらの部屋でお待ち下さい。すぐに領主様がおいでになられます。また立食形式の食事会を準備しておりますので、どうかご参加をお願いしたします」
「僕は人前では食べないんだけど?」
「立食ですのでご随意にどうぞ」
「では参加だけはさせてもらうよ」
「ありがとうございます。是非にと請われておりましたので」
あまり待たずに領主が部屋に来た。
「いや、お待たせして申し訳ない」
「いえいえ、お招きいただきありがとうございます」
クレイトさんが立ち上がって挨拶したので真似して立ち上がって頭を下げる。
それを見たのかユーリアも真似をした。
「ではあらためて。私はここラカハイを国王より任されているドナルド・アレンと申します。一応公爵です」
「バーディル・クレイトです」
『パティルの名前はいろいろと危ないから、別名を名乗るよ。今後はこれでお願いしたい』
咄嗟だったのか今まで考えていたのかは知らないけど、別名になった。
公式文書に書かないといけないだろうし、確かに魔王とかスライムの名前になってる名前はまずいよなぁ。
「ユーリア・クレイトです。娘です」
「リュウト・スガノです。息子ではなく弟子です」
「まあ、どうぞどうぞ、おかけになってください」
領主、今後は名前がドナルドだからドニーさんと思っておこう。ドニーさんが控えていた先程の執事っぽい人に合図を送った。
執事は微動だにしていなかったのにそれに合わせたかのようにメイドさんが入ってきてお茶を用意してくれた。魔法での呼び出しなのか、別の何かなのか。
しかしメイドさんだ、本物のメイドさんだ。もちろん初めて見た。
こっちでもメイドさんの格好は同じなんだな。
「話とは言っても用件としては開拓村に関する書類にサインをいただきたいだけなんですけどね。あとは事後で承認とはいえ、どういった経緯であの滅びた町で墓場をやろうと思ったのかを知っておきたく……」
「ドナルド様」
執事がドニーさんに耳打ちする。
「ああ、そうそう。孤児院についても話がしたかったんだ。我が町での慈善活動だから寄付もしたくてね。ああ、もちろん孤児院を開くのに許可とかいらないからこっちは面倒な手続きはない、ですよ」
クレイトさんは……苦笑してる感じだな。
『なかなかとらえどころのない人のようだ』
そのようですね、これで権力者とか、珍しい気もします。
『だからラカハイが栄えてるのかもしれないね』