竜は友達
次の日、ラカハイの領主様がエテルナ・ヌイにくるから、まずエテルナ・ヌイへ行って、そのことを伝えて準備しておいてから、一旦ラカハイに戻って改めて来るというスケジュールに。
二度も行くとか面倒だけど、いきなり領主様の兵士がエテルナ・ヌイに来たらグーファスとかがびっくりするだろうしね。
レミュエーラもちゃんと保護しておかないとだし。
あとエテルナ・ヌイの中にいるアンデッドたちをどうするのか考えないと。
常に外部の人が来ることになったら嫌な人たちもいるかもしれないしね。
朝起きて簡単な食事を済ませてから、三人でエテルナ・ヌイへ。
エテルナ・ヌイに変わりはなかったのでいつもの作業を行ってから、エテルナ・ヌイ元在住民、すなわちゴーストなどの霊体アンデッドたちに集まってもらった。
「今後、人の出入りが激しくなると思われます。ですのでエテルナ・ヌイ内での行動に制限がつくようになります。そのためゴーストの皆様全員にゴーレムを作成することにしました。ですからゴーレムとしての役割を担ってもらうことになります。またよい機会でもありますので、昇天されたい方がおりましたら、是非申し出てください。人の出入りが激しくなる前に全員にゴーレムを渡すことは不可能ですので。皆様のご協力に感謝いたします」
クレイトさんが集まったゴーストたちにそう宣言した。言葉としては聞き取れないが、ゴーストたちがひそひそと周りと話し合いをしている感じがした。
「数は少ないですがスペクターやファントムたちはいかがしますか?」
ドゥーアさんが代表して質問した。
「そちらは人から見えにくいので、申し訳ないが後回しとなってしまいます。もちろん昇天希望者がいたらどうぞ。スペクターやファントムの魔力ならいけそうなので、そちらにはアイアンゴーレムを用意しようと考えています。ですがアイアンは素材が足りないので、その点でも後回しにせざるをえないのです」
幸い?昇天希望者はいなかった。
ドゥーアさんによると、まだ協力できることがあるならいさせてほしい、というのがゴーストたちのまとまった意見だったようだ。
理不尽な死に方をしてアンデッドになってしまったのにありがたいことだ。正直人手は全く足りてないので助かる。
とりあえずクレイトさんはさっそくゴーレムを作り出すことにしたので、その間に俺はグーファスたちに話に行こう。
グーファスとレミュエーラに転移門がエテルナ・ヌイに直接つながって人がたくさんくるようになる、と説明する。
「それであたいとかは何か変わるのかな?」
レミュエーラの疑問はもっともだ。実際レミュエーラには関係のない話かもしれない。
しかしグーファスには結構関係がある話だ。
「もしかすると俺も町へ行けるように?」
「ああ、すぐにとは言えないけど、行けるようになると思う。というか俺たちがいないときとかはグーファスに任せることもあると思う。まあ転移門自体は教会の管理となるので、俺らの自由にはならないけどね」
「なるほど、墓守としてしっかりとというのは、こういうことだったんですね」
まーそれ言ってた時はこんなことになるとは思ってなかったと思うけどね。
けっこうクレイトさん考えてるようでいきあたりばったりなところあるからな。
ただその場合のつじつま合わせと言うか対処が上手いと言うかそんな感じだ。
とりあえず二人には納得してもらえたようだ。
そういえばアルティナさんには言ってあるのだろうか。
念の為話してみるか。
アルティナさんを探してみると、広場に幼女になったリヒューサとユーリアと共にいた。
女の子が三人和気あいあいしてるようにしか見えないけど、本物の女の子は一人だけなんだよなぁ、などとある意味失礼なことを考えながら話しかける。
「おはようございます。会話に割り込んで申し訳ありません。転移門の件について聞いてますか? アルティナさん」
「はい、先程リヒューサ様から直接に」
「私とあまり会話しておらぬから、私が話せるの忘れておったのではないか? リュウトよ」
「え? あ、はい、すいません。本当に失念しておりました」
「素直じゃな。さすがクレイト様が目をかけているだけはあるのかの。まあよいわ。私はクレイト様の第一の配下じゃからな。そこだけ忘れんようにしてくれたらいいぞ」
誰が第一かとかクレイトさんは気にしない人だと思うけど、彼女には大切なことなのだろう。
元々リザードマンで現在竜だから俺みたいな人間とは感性も常識も違うだろうし。
それに時系列的にも戦力的にもそれが事実なのも確かだしね。
「はい、気をつけます。あとそれとリヒューサさんには一回屋敷に来てもらわないといけませんね。屋敷に転移門がある理由付けをしておかないと」
「そうじゃな。今日教会に行く前に屋敷によることにするわ。じゃから屋敷の人間にも言っておいてくれ」
「わたしから言っておくよー」
静観していたユーリアが乗ってくれた。
「アルティナさんはこれからどうされるのか、クレイトさんから聞いています?」
「はい、私はせっかくユーリア様に似せて作られておりますので、今後ユーリア様の影武者として動けるよう、今日は潜んでおくように言われております。ドゥーア様やケリスの義体の安息部屋がありますので、そこを一時的に魔法で封鎖し、これから義体をそこに安置し、霊体で潜んでおこうと思っています」
なるほど、そうなのですね。それじゃそのことはお任せしますね。
グーファスたちにも伝えておいてください。
「はい、分かりました」
俺ができそうなのはこんなものかな。クレイトさんの様子を見に行こう。
クレイトさんは集めておいた武器を魔法で溶かしていた。
すごい熱気だ。
そりゃこの建物換気とか考えて作られてないのに、そんなところで鉄をも溶かす魔法を使い続けてるんだから、とてもじゃないが部屋には入れそうにない。
普段は人間にしか見えないから自然に人間として接してるクレイトさんだけど、こういう場面に出くわすとやっぱり人じゃないんだなと思い知らされる。
『ん、なにかようかい?』
クレイトさんが近くにいる俺に気づいたようで、念話で話しかけてくる。
あ、いえ、用事ってわけじゃないんですが、クレイトさん何してるんだろう、ってこちらに来ただけです。
『そうかい。ああ、この部屋が熱いから入れなかったのか。なんでそんなところで立ち止まってるのかすぐには分からなかったよ』
ははは、俺らだけのときはそれでいいですけど、他人がいる時は気をつけてくださいよ。
人が普通に活動できる熱気じゃないですよ、ここ。まあクレイトさんなら魔法の力で大丈夫です、で通じそうですが。
『そうだね、君の言うとおりだ。今後は気をつけないとね。ちなみに熱さから身を護る魔法は確かにあるね』
やっぱりあるんだ。
えーと、そろそろ屋敷にいかないといけなくないですか?
『おお、もうそんな時間か。作業に集中しすぎたよ。ではここにある鉄をゴーレムにしたら戻るとしようか。数分で終わるからユーリアと屋敷へ戻る準備をお願いするよ』
はい、ユーリアはさっきあそこにいたから大丈夫かな。あーあとリヒューサさんが一度屋敷に来ます。屋敷の転移門の言い訳として。
『ああ、そうだね、それは大切だ。ありがとう。そこまで気が回ってなかったよ』
そうかなぁと思ったのでリヒューサさんに先程頼んでおきました。それじゃ戻る準備、というか声かけしてきます。
ユーリアはまだ二人と話をしていたようだ。
「ユーリア、そろそろ帰るよ」
「はーい、それじゃリヒューサはあとでー。アルティナさんはまた今度ね」
二人と手を振って別れる。
「おまたせ。それじゃ屋敷に戻ろうか」
クレイトさんと合流して小屋まで戻る。
「そういえば結局どれだけゴーレム作れたんですか?」
「ストーンゴーレム5体、アイアンゴーレム3体といったところだね。アイアンはこれでしばらく打ち止めだね。鉄がない。ストーンはドゥーアさんに手頃な石を集めてもらうように言ってあるから集まり次第増やしていくよ」
「それでも一気に戦力が倍以上になったんですね」
「霊体たちには窮屈だと思うからなるべく避けてきたんだけどね。そうも言ってられなくなったからさ。義体を増やせたらいいんだけどね」
「コアが希少なんですよね。あと制作時間もだいぶとかかるみたいだし」
「コアはどうしようもないけど、制作時間はアルティナのは新しい機能を増やしたからね。次作るとなればそこまで時間はかからないはずだよ」
「賑やかになってきて嬉しいな」
ユーリアがぼそっとつぶやいた。
リヒューサもアルティナも実際の年齢は違うけど、レミュエーラとかも見た目の年齢はユーリアに近いし、友達が増えた感じかな。
屋敷には友人がいたけどこっちには友人はいなかったものな。
小屋に戻ってすぐに屋敷に行くと、すでに屋敷の庭にリヒューサが来ているようだ。
子どもたちは屋敷の一室に集められてシムーンさんと共に居た。
リヒューサの対応をしているのはアレックスさんのようだ。
慌ててクレイトさんがリヒューサの元に行く。
俺とユーリアは子どもたちのところだ。
事前に言っておくつもりが予想以上にリヒューサが早く来てしまったから混乱してしまったようだ。
「あの竜は大丈夫ですよ。だから安心してください。皆出てきて見に行きましょう」
「そ、そうなんですか?」
シムーンさんが涙目だ。
実際剣を構えるファーガソンさんとジャービスさんが屋敷の入口を守ってるのが見えたし、元冒険者の皆もアレックスさんの側にいるようだ。
完全に警戒してる。
悪いことをしてしまったようだ。
「ええ、あの竜はクレイトさんの知り合いなんですよ。ですから大丈夫です。俺も会ったことありますし」
「竜と友達なの?」
パトリシアが目を輝かせて質問してきた。
「え、あ、ああ、友達、かな」
リヒューサ的には先輩っぽいけど、まあ友達と言えないこともない。
「パトリシアや、他の子もたぶん友達になれるよ」