贅沢
「頑張ったね。ではそろそろ帰ろうか」
クレイトさんがいつの間にか来ていた。
「見ていたんですか。まだまだ未熟で……」
「これからじゃないかな。盾を持ってからしばらくも経ってないじゃないか。それ以前に剣を持ったのも最近だろう?」
「はい、そうですね。あまり卑下しないようにします」
「そうしてくれ、行き過ぎはダメだがある程度は自信も持っていたほうが良い結果につながるからね。そうだ、また今度にリヒューサと模擬戦闘はどうだい?」
「え? 竜とですか? 無理ゲーなのでは?」
「うん、勝つのが無理に近いのは分かってる。けど相手が人間型とは限らないだろう?」
「そりゃまーそうですけど」
「もちろんリュウト一人で戦えとは言わないよ。僕以外の全員でいいと思う。そうだ、今度シャイニングホライゾンが来た時とかどうだい? 彼らも加えよう」
それなら勝算あるかな?と一瞬考えてしまったが、逆に言うと彼らを加えないと勝機もない相手ってことか。なんかなおさら無理ゲー感が強まった気もしてきた。
けど集団での戦いに慣れた方がいいのも確かだし、シャイニングホライゾンの人たちと一緒に戦ったことってまだないものな。
「ロメイさんを除いた黄昏の漂流者の人たちも一緒とかどうですか?」
「おお、それもいいね。ん? 今面白いことを思いついたよ。ちょっと相談しておきたいからリュウトはユーリアと先に帰っておいてくれないか? 待っていてもいいけどいつまでかかるか分からないし」
「そうですか。ユーリアどうする?」
「じゃあ先に帰っておこうかな」
「ということですので俺らは先に帰ります」
「そうか。帰りは物資を持っていくグーファスに着いていくといい。そろそろ料理もできてるんじゃないか? ほらグーファスが出てきた」
「お待たせしましたー、お食事の準備が出来ましたー」
「おいしかったですわー。数百年ぶりの食事は格別でしたわー」
しきりに美味しかったと連呼してるのはアルティナさん。
まあ無理もないか。
俺らもおいしいと思うレベルだったものな。特に焼き鳥が食べられるとは思わなかった。たれでなく塩なのは残念だったがないものは仕方ない。
鳥はレミュエーラがとってきたものだったらしい。小屋に持っていく物資の中に鳥肉を含んでもらうことになった。
俺達はグーファスとともに小屋に持っていく物資を用意していた。
小屋の見学がてらアルティナさんも着いてくるらしい。
用意している間にグーファスに足りてないものがないかどうか聞いてみたが乾燥室がほしいとのことだった。
乾燥室ってなんだろう?
まあその名の通りの場所なんだろうけどさ。今度クレイトさんに頼んでみるよと請け合った。
俺は薪を背負子に積み込んで小屋まで運ぶことに。
この背負子もグーファス製か。
鍛冶屋って言ってたのに木工みたいなこともできるんだな。
と感想を漏らしたところ、村の鍛冶屋なんて何でも屋みたいなものですよ、と言われた。
まあ背負子のおかげで量を楽に運べるのだからグーファス様様だ。
ふと見るとクレイトさんがリヒューサと話をしているようだった。
リヒューサと何か企んでいるのか。なんなんだろうな。まあ悪いことにはならないだろう。
ドゥーアさんはエテルナ・ヌイに残って、護衛としてケリスさんと、とはいってもケリスさんも荷物持ってくれてるけど、グーファスとレミュエーラと見学目的のアルティナさんを引き連れて小屋まで行く。
まあ小屋まで大した時間はかからないけどね。
「せっかくだから皆お茶飲んでいってね」
ユーリアが嬉しそうに提案する。前から思ってたけどユーリアは人にお茶を出すこと自体が好きなようだ。
分からないでもない。
「おー、お茶が飲めるのですか。素晴らしいです。今度お酒を……お酒を飲んでも酔えるのでしょうか?」
アルティナさんわくわくだな。さすがに酔えないと思うけど、クレイトさん凝り性だし酔えたりするのかな。
小屋についた。
まずは皆の荷物をおろしてもらう。
それからグーファスに小屋の間取とかを教えながら運び込む。
ユーリアはお茶の用意。
ケリスさんは念の為と周囲の警戒にレミュエーラとともに。
アルティナさんは運び込むのを手伝ってくれた。
運び込むのが終わってお茶休憩にしようとしていたところでレミュエーラが帰ってきた。
ちょうど呼びに行かなきゃって思っていたところだからよかった。
「ケリスさんがお茶してきなさいって、ケリスさんはもう少し辺りを見回ってくるだって」
あーケリスさんはお茶飲めないからな。仕方ない、ケリスさんいないけどお茶にしよう。
今日はグーファスやレミュエーラ、それにお初のアルティナさんもいるから贅沢にお茶菓子はいつもの干し果物ではなく砂糖漬けの乾燥したやつを出した。
「なにこれ、おいしいね」
レミュエーラは無邪気に食べてるがグーファスは神妙だ。
「こんなの村で暮らしているときも食べれませんでしたよ……いいんですか?」
「私も冒険のあとの贅沢でたまに食べてた程度ですね。んー久々のこの甘さ!」
概ね好評だ。
「私にはちょっと甘すぎるかも」
ユーリアには今まで甘い物を食べるという習慣自体なかったし、砂糖漬けは甘いかもなぁ。
「せっかくクレイトさんが用意してくれたものですしね。贅沢だとは思いますが食べてしまいましょう。もうすでにここにあるんだし」
「そういえばここにも乾燥室はないんですね」
雑談中にグーファスが聞いてきた。
「はい、その乾燥室ってなんですか? 俺はよく知らないもので」
「乾燥室は、まあ普通に換気の良い部屋なだけなんだけど特にドライの魔法をかけているところもあるわね。わたしもドライ程度ならパーマネンスできるから作れるわよ」
「えっ、そうなんですか。先程リュウトさんにクレイトさんに乾燥室を作れないか頼んだところだったんですよ」
グーファスがアルティナさんに説明する。
「私は部屋自体は用意できないからそのへんはお願いしたいけどドライの魔法は設置できるわ」
「はい、部屋というか建物自体はすぐに用意できると思いますので、頼んでもいいですか?」
「ええ、もちろんいいわよ。干し肉でも作るの?」
「いえ、薪の乾燥を早めようかと。思ったより必要量が多いのですが蓄積がないので早めたいんですよ」
「確かに薪代ってバカにならないわよね。分かったわ。建物が用意できたらすぐに設置するから声かけて」
グーファスにはエテルナ・ヌイの雑多なこと全部を任せているからたいへんだよな。
けどかといって迂闊に人を増やすってことも出来ないところだからなぁ。
協力できることがあったら協力しよう。
会話がとまったところでケリスさんが帰ってきたので、ちょうど良いかとお開きになって、皆エテルナ・ヌイへ帰っていった。
「さて、微妙な時間だな。どうする? 屋敷に行くかい?」
ユーリアに聞いてみる。
「今日はもういいかな。夕食の準備をするよ」
「そっか、手伝うよ」
時間があるから今日は米を使おう。そろそろなくなりそうだけど。今回はきっちり肉も炒めて完璧な焼き飯を作れた。
ユーリアには付け合せというか焼き飯と一緒に飲めるスープを作ってもらった。
「ただいま」
急にクレイトさんの部屋の扉が開いてクレイトさんが出てきた。
テレポートで戻ってきたようだ。
クレイトさんが帰ってきたのは夕食を終えて一服してるときだった。
エテルナ・ヌイでリヒューサと何を話してたのか気になるが、まあ関係がある話ならいずれ話してくれるだろう。