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永遠の休息場所エテルナ・ヌイ

幽霊だと断じたのは真っ白なローブを羽織った骨みたいにやせ細った老人が宙に浮いていたからだ。

下半身あたりはモヤになって消えているし。なんか目が光ってるし。


「気にしないでくれ、ドゥーア殿。突然来たのはこちらだしな」


「ええ、ユーリア様の見回りの時間でしたが、一人見知らぬ人間をお連れになってクレイト様もいらしたと報告を受けたので……なにかしら私にもあるかと思いましたので参じました」


「気を使ってもらってありがたい、ドゥーア殿。用があったわけではないのだが、彼を紹介しておきたいと思ってね」


そういってクレイトさんは手をコチラに差し向ける。ドゥーアと呼ばれた幽霊が顔だけぐるんとこっちに向ける。怖いよ! けどそれをなるべく顔に出さずに立ち上がる。


「スガノリュウトと申します。クレイトさんのところでお世話になっています」


「それはそれは。今後共よろしくお願いしたい。このエテルナ・ヌイにいるものたちを取り仕切らせてもらっているドゥーアと申す者です」


「えっと、すいません、俺何も聞いていないのでここが何なのかも知りません。申し訳ないです」


「ユーリア様、クレイト様、私めが説明してもよろしいのでしょうか?」


そういえばさっきからクレイトさんよりユーリアの方を先に言ってるな。この人(?)からしたらユーリアの方が上なのかな。


ユーリアは普通にうなずくだけ。クレイトさんが「僕たちはどうも口下手でね。願ってもないことだよ」とドゥーアさんが話すのを促す。


ドゥーアさんが顔だけでなく体全体をこちらに向ける。横からは顔しか見えなかったけど、正面からだと首のあたりも見えて、骨と皮だけの体が見える。


「さすがお二人が連れてこられた方ですな。私を見ても恐慌に陥らないようで。安心しました」


ドゥーアさんが本心で感心したかのような声でそういいながら、再び頭を下げた。


「私めは今は見た目通りのレイスです。生前の名をドゥーアと申しました。ここは滅びた町、エテルナ・ヌイ。私めは生前はここの町長をしておりました」


どう見てもそうだったから納得したけど、滅びた町かぁ。その町長さんだった人がなんで今レイスなんかしているんだろう?


「私達は突然現れた狂った腐竜によって滅ぼされました。一瞬でした。そのため多くの者達が自らの死を認識できず、アンデッドとなりました。私もそうです」


悲しそうに頭をふる。


「幸い私と小数のものは生前の心を残せましたが、多くの者は心を壊してしまいました。そのため、美しかったエテルナ・ヌイは狂ったアンデッドが大量に徘徊する遺跡となってしまいました」


突然顔を近づけきた。声も若干興奮してる気がする。当時を思い出したからだろうか。


「しかし長い悲しい時間も終わりを告げました! ユーリア様とクレイト様のおかげです!」


両手を二人へ差し出す。


「お二人は、我々を哀れに思い、最大の慰めである永遠の死を我々に与えてくださったのです!」


なんだかパンパカパーンって感じで二人に向けた手が光ってる気がする。


「えっと、でもドゥーアさんは今ここにいますよね」


素直に感じた疑問を直接ぶつけてみる。


「よくぞ聞いてくださいました! 私と、ここに残っている者たちはお二人の慈悲に感銘を受け、お二人に役立てるようあえてこの世に残らせてもらったのです! 不死の呪いはいつでも解けるようなので、いつでも永遠の眠りにつくこともできます。が、今はその時ではないのです。まだご恩を返せていませんので!」


「な、なるほど、この場所とドゥーアさんの経緯は分かりました。今は何をされているので?」


それを聞かれて嬉しい!といった感じのドゥーアさん。このレイス、のりがいいな。


「ええ、ええ! それですよ! お二人は我々を開放してくれた力を世に返していきたいとのことで、このエテルナ・ヌイを永遠の休息場所、魂が眠り、再び起こされることのない場所として、まあ有り体に言えばアンデッドとして復活させられない墓所とすることにしたのです!」


ええ、もちろん私は二つ返事でしたよ、と頷きながらつぶやいてる。


「ええと、ということは今はこの場所は墓地ということ?」


「ええ、そうです! 今眠っている者の多くは元の住民ですが、最近はお二人の導きで他所からもここへ眠るために御遺体が運び込まれています。今後はもっと増えていくことでしょう。なにせここでは死後自分の死体をいじられることもありませんし、強制的に起こされることもありません。私達がさせません!」


俺の元の世界ではありえないが、こっちでは普通に復活させられるから、そういう需要もある、ってことかな。


「ということは皆さんは墓守、ってことなのかな?」


「ええ、そうなります。たまに墓荒らしがくるのですよ、主にそれへの対処ですね。もちろん管理や清掃なども行っておりますが」


「墓荒らしですか……」


「墓荒らしについては僕が説明しよう。この世界はアンデッドになりやすいという話はしたよね。過去にやってきた不死の魔王のせいなんだけど、その際その不死の力を研究し、対抗策を作ろうとした一派がいてね。彼らはネクロマンサーというんだが、彼らは今もなおその力を研究していてね。死体をもっていってアンデッドにしてしまうんだ」


「ああ、ネクロマンサーですか。俺の知識では邪悪とされてるとかアンデッドの軍勢を作りたがるとかしか知りませんが」


「まあ、間違ってはいないよ。今の彼らは邪悪とされるものが多い。まともに会話できるようなのすら少ないようでね……。もちろん知能レベルの問題でなく、ね」


「はあ、たしかに厄介ですね」


「彼らは新鮮、あるいは生前優秀だった者の死体を求めて墓場にくるんだ。逆に言えば生前優秀とされた人物は死後、その体をネクロマンサーに狙われることが多い。だからここを始めたんだ」


「なるほど、需要が見込まれたんですね」


「せっかく死ねたのにその後わけのわからない輩に動かされ続けるとか嫌ですからね、誰しも。ええ、実感ですとも」


レイスのドゥーアさんが付け加える。


「わたしも守ってるんだよー」


おとなしくやり取りを見ていたユーリアも主張する。


「へぇユーリアは何をしているんだい?」


「最初は呪いに対する結界を作ったの。それと呪いにかからないための封印ー。今はそれの維持と身を守るための訓練だよ」


「ユーリアのギフト、ディスカースはすごく優秀でね。呪いを封じる結界や封印も作れるんだよ。まあ僕の魔法も使ってるけどね」


知らない単語が出てきたぞ、ギフト?


「ああ、違うところも多いんだね。こちらの世界ではギフトと呼ばれる特殊な能力を持った者が生まれるんだ。確率はそう高くないけどね。様々な能力があるんだけどユーリアのは特別レアでね。僕も今まで聞いたこともなかった能力だったからね」


「ギフトはたいがいパッシブなのです。ちなみに私めもギフトを授かっておりました。カリスマアップの」


ああ、ドゥーアさんが見た目がこんななのになんか愛嬌がある感じがするのはそのギフトのせいもあるのかもしれないな。


「ちなみに僕もギフト持ちだった。理解力アップと恐怖耐性だ。これは二つ持っていたわけではなく恐怖耐性は理解力アップの付属という扱いだった」


「そのギフトがあるかどうかはどうやって判別するんですか?」


「それ用の魔法があるんだよ、アナライズギフトって専用魔法が。さすがに滅多に使わない魔法だから今は使えないけど、帰ったらリュウトくんのも見てみようか。たぶんだけどリュウトくんもなにか持ってそうだ」


なにかいいもの持ってたら今後も楽になりそうなんだけどな。


「さて、話はこれぐらいにして実際に見回ってみるとしよう」


クレイトさんが会談(?)を打ち切る。


「顔合わせだし、ドゥーア殿は義体で来てくれないか?」


「おお、そうですな。これは気づきませんで。早速行ってきますので先に向かっておいてください。あとで合流させていただきます」


そう言い残してドゥーアさんはスゥっと消えた。本当に幽霊なんだな。


「それじゃ行こうか、リュウトくん、ユーリア」


「私が先頭を行くね」


さっと立ち上がり、ユーリアが駆けて建物から出る。


「ははっ、会話ばっかりだったから、ユーリアは退屈していたんでしょうね」


俺とクレイトさんも建物から出て、歩いてユーリアを追いかける。


「ふむむ、なるほど。僕は長らく一人で、人ですらなかったから、そういう配慮が苦手でね。今後もなにか気づいたら遠慮なく言ってくれないか」


俺としてはただの世間話みたいなもののつもりだったのだが、深くクレイトさんは受け止めたようだ。

普通のアンデッドがどういうものか俺は知らないけど、クレイトさんは普通に思慮深い良い人な気がするな。


「ええ、分かりました。気づいたことがあったら遠慮なく言わせてもらいますね」


「ああ、頼むよ」


三人で滅びた町を歩く。

それなりに大きな町だったようで大通りに出ると石造りの建物は完全には風化せずに残っている。

さっき話をした建物も石造りだったし。特に破壊された形跡は見えないけど、一瞬で町の人たちを虐殺したという腐竜ってなんなんだ一体……。


「おそらく死の瘴気だろうね」


クレイトさんが俺にだけ聞こえるレベルでつぶやく。


「それってクレイトさんも出すという奴ですか? そんなにやばいやつなんですか?」


「ああ、この死の瘴気は前に話した不死の魔王が纏っていたものでね。この世界にはなかったものだったらしいのだが、並の生命体では触れただけで死にいたり、アンデッドと化す」


うへぇ、やばすぎだろそれ……。


「不死の魔王が現れてから一部の高位アンデッドが持つようになったらしい能力でね。正直自動的すぎて僕も困ったので封じるマジックアイテムを作ったのさ。なにせ協力的なものであっても生命体は皆殺しだからね……」


嫌なことを思い出したかのようなしぶい顔をしながらクレイトさんがつぶやく。


「おとーさんたち、おそーい! おいてっちゃうぞ」


もう結構遠くにいたユーリアが振り返り、声をかけてくる。ん? なんかユーリアの周りに二人ほど影が見える気がするんだけど……。


「ああ、彼らはスペクターだ。ユーリアを守ってくれているんだ。元々この町の住民だった者だよ」


幽霊ばっかだな、ここは。まあ仕方ないか、元々アンデッドの巣窟だったらしいし。別に元の世界にいた時から幽霊が怖いってわけじゃないけど、慣れないとなぁ……。


開けた場所に出た。町の中心に近いところのはずなのに妙に開けている。

たぶん広場だったんだろう。その中央に碑に見える大きな岩が立っている。端の方にはお墓に見える石が何個か見える。


「中央の大きな墓は我々のためにクレイト様が作ってくださったものです」


いつの間にいたのか見知らぬ人物がそうこっちに話しかけてきた。この声はドゥーアさんか?


「遅くなりました、ドゥーアでございます。突然申し訳ありません、リュウト殿。何も聞かされていないと聞いておりましたので、つい」


あー、これが言ってた義体というやつか、すごいな、普通に人にしか見えない気がする。あーでも服装にごまかされてるところもあるかも……。


義体は大きなつばのある帽子をかぶり、いわゆるローブというゆったりした服を着ていた。これで木の杖でも持っていたらどう見ても魔法使いにしか見えない。白くて長いひげをはやしてるし。


「ドゥーア殿は魔法も使えるしな、この姿がちょうど都合良かったんだ」


クレイトさんが補足してくれる。


「この姿は生前の私の姿に似ているから動きやすいのですよ。ただ魔力を結構使いますから常にこのままでいるわけにいかないのが残念なところですが。レイスの姿のまま客前に出るわけにもいきませんからな」


たしかにそうだ。アンデッド化したくないからここに埋葬されるのに、そこをアンデッドがうろついてたら不信感わくよなぁ。現実は非情、というかアンデッドが管理してるんだが。


「ここの主人はユーリアだよ。彼女なしでは成り立たないからね。僕たちは彼女の下僕といったところだよ、お客にしてみればね」


……まあそういう風に考えることもできなくはないか。クレイトさんたちがそれでいいのなら。

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