模擬戦闘その二
今までクレイトさん中心に動いてた感もあるからクレイトさんがいないとなにしたらいいか分からないな。
とりあえず時間はあるから今日はケリスさんに頼んで模擬戦をお願いしてみた。
マジックミサイルは禁止でいいならOKと言われたのでお願いした。
マジックミサイルは打ち得で避けれないため、痛いのは構わないが義体が傷つき弱っている時に敵がくると困るから、ということらしい。
この人、ファイアボールやライトニングに当たるつもりはないようだ。
巡回から帰ってきたレミュエーラや作業が一段落したのか休憩していたグーファスが見守るなか、模擬戦は始まった。
「ほう、盾を持つことにしたんですね」
今日は俺もユーリアもこの間買った盾を持っている。
「元盾使いに対して盾がどれほど有効に使えるか、試させてもらいますよ」
まず前に出ていた俺に牽制だろう大きな横薙ぎが来る。
牽制と言っても相手は格上である。
侮ると酷い目に遭う。
俺は盾で受けすにバックステップで躱す。
横薙ぎの硬直を狙ってユーリアが突きで突進するがこれは軽やかにステップで躱された。
しかしユーリアは二人が交差する時に無詠唱のファイアボールを自分が爆風に巻き込まれないぎりぎりの地点に打ち込んだ。
だけどこれすら盾で義体を守りながらの大きなバックステップで躱すケリスさん。さすがだ。
だがそれは読めていた。俺はそのステップの着地点にライトニングを放っていた。
「なんとぉ?!」
え? ケリスさんは義体を大きくひねって無理やりライトニングの直撃を躱した。
ライトニングは直撃しなくても至近距離なら多少はダメージを与えるから少しはケリスさんにダメージが通ったと思うけど、あれを躱されるとは思わなかった。
俺が驚いている隙をつかれた。その無理やり躱した体勢からケリスさんがこちらに横っ飛びしてきたのだ。
俺の盾とケリスさんの盾がぶつかる。
完全にパワー負けしてる。
ずずっと俺の体ごと後ろに下がらせられた。
その上でぶつかった盾を力任せに弾かれ、俺は盾ごと吹き飛ばされた。
しかし倒れるのだけは避けたいから頑張って踏ん張り、たたらを踏んだだけで体勢を立て直した。
追い打ちはこなかった。ユーリアがケリスさんを牽制していたから。
「実戦とは恐ろしいものですね。もうこんなに成長しているとは」
いや、俺達まったく歯がたってないんですが……。それだけケリスさんが格上すぎるってことなんだろうけどさ。
ユーリアに目配せして、同時にケリスさんに突っかかる。しかし二本の剣はケリスさんの剣と盾に簡単に受け止められてしまった。
「同時にかかるのはいいです。がまだまだ連携がなっていません、よ!」
俺達の攻撃を剣と盾だけで受けながら攻撃までしてくる。
さすがに牽制以下の攻撃なので俺もユーリアも盾で受け流す。
二人ともケリスさんの真似して剣を弾こうとしたが、無理だった。
「いいですねぇ。ちゃんとわたしの行動を見て参考にしている。しかしさすがに本家に通じるほどではないですな」
逆にユーリアの剣がケリスさんに弾かれ、ユーリアが体勢を崩した。慌てて俺がカバーに入る。
「ナイスです、リュウト殿。盾持ちの本領です。逆にユーリア様はやはりまだ盾を持つには体が小さすぎますな。武器や盾の大きさに対して本人の重さが足りなさすぎる」
カバーに入った俺に対して容赦なく剣を振るうケリスさん。
その猛攻に俺は剣と盾を駆使して防ぐことしかできない。
しかもこれでもケリスさんはおそらく手を抜いている。
盾を攻撃に使ってきてないから。
しかしユーリアが体勢を立て直す時間は稼ぐことができた。
ユーリアが俺の後ろで何かを狙ってる気がする。
任せることにしよう。
ケリスさんの横薙ぎの剣を受けた際に受け流す感じで横にステップする。
同時に俺の後ろからケリスさんにユーリアのバックラーが迫る。
これはケリスさんも予想していたようで楽にバックラーを避け、剣をユーリアに振るおうとする。
が、流れ作業のような動きだった剣を止めて下ろす。
なぜならユーリアは超低空で跳び、ケリスさんの足を狙って剣を振るっていたから。先程のバックラーは投げつけたようだ。
起死回生の一撃は残念ながら剣で受け止められたが、同時にケリスさんはまいったをした。
「いやぁ、驚きましたよ。正当な術を習っていては思いつかない策でした。もう少しユーリア様にパワーがあったら剣ごと足を持っていかれていたし、防げたとしても次のリュウト殿の攻撃に対応できなかった」
まいったの理由をケリスさんが語ってくれた。俺もユーリアの動きに驚いていて動けなかったとは言えない。
「それに訓練で貴重な義体を傷つけるわけにはいきませんからね。いやぁ、しかしもうお二人から一本取られてしまうとは……」
ケリスさんは負けたのに嬉しそうだ。純粋に俺達の成長を喜んでくれている。
「しかし教えてませんから当然ですが盾の使い方がなっておりませんな。今後は盾の使い方もお教えしますよ。ユーリア様はもう少し成長なされてからの方がいいかもしれませんね、盾を使うのは」
「そっかー。でも確かに剣を両手で振れないのはきつかったしなー」
少ししょんぼりした感じのユーリア。
「レミュエーラ、盾使うー?」
レミュエーラとグーファスがタオルを持ってきてくれた。
汗を掻くほど動いてはいないがホコリまみれになったのでありがたく受け取り、顔を拭う。
「いいんですか?」
「レミュエーラなら短槍とかを使う際には持っててもいいかもしれません」
ケリスさんも同意した。
「空を飛びますから弓で狙われることも多いでしょうし、バックラーであったとしても人間の部分に対する攻撃は弾けるかもしれません」
なるほどなぁ。
「使うならあげるよ。私が持ってても数年は使えなさそうだしさ」
「わーい、使うかどうか分からないけど、もらいますー。ありがとー」
「いやぁ、皆さんすごいですね。特にケリスさん。レミュエーラの逃げろという指示は的確でしたね。ケリスさんとはまともに戦えた気がしませんよ」
そういえばグーファスはケリスさんと少しだけ戦ってたんだったか。
たしかにその時すぐにレミュエーラが逃げるように言ってたな。
レミュエーラ自身も強かったし、戦いのセンスがあるのかもしれないな。
雑事をするといって離れていたドゥーアさんが戻ってきたので一緒に小屋まで帰った。
小屋に帰ってきたらクレイトさんがいた。いつの間にか帰ってきてたようだ。
「やあ、おかえり」
いるはずのない人がいたらびびるって。先に念話でも飛ばしてくださいよ。
『そうだったね、すまない』
「ところでリザードマンの用事は終わったんですか?」
「んー、終わったといえば終わったかな。もちろん同盟というか相互に手出しはしないという不可侵の取り決めはしてきたよ。ただ困ったことになりそうなんだ」
え? 困ったことだって。クレイトさんでも困ることなのか。
「ああ、もしかするとしばらくしたらこっちにドラゴンが来るかもしれない」
「ええ? ドラゴンですか」
一番驚いたのはドゥーアさんだった。
「ああ、思うところはあるかもしれないが、そのドラゴンは敵ではないはずなんで迎撃はせず迎え入れてくれたらいいよ」
ああ、そっか。ドゥーアさんたちはドラゴンのアンデッドに町ごと滅ぼされたんだったっけ。
「ええ、クレイト様がそこまでおっしゃるのでしたら。それにドラゴンの迎撃なんてさすがに今の戦力では不可能ですし」
今のエテルナ・ヌイの戦力でも無理なのか。まあドラゴンだしな。
「むしろ味方になってくれる可能性が高いんだ。だからもし来たら慌てず僕を呼びつけてほしい」
「わかりました。帰ったら皆にそう通達しておきます」
「ああ、すまないがよろしく頼むよ」
いったいクレイトさんは向こうで何をしてきたんだろうか。