買い物その二
ラカハイには服屋はないらしい。
なんでも服は作ってもらうものであり、完成品を買うものではないらしい。
針子が多くいるラカハイでは新品の服を売るという概念はないようだ。
しかしそれは新品に限った話で古着は露店で流通しているそうだ。
服は高価だから着なくなったものでも売ってお金にするし、お金がない人は古着を着用するとのこと。
町の広場にきて古着の露店を探す。
美味しそうな匂いが誘惑してくるが、今は我慢。
しばらく探して見つけた露店の主は見覚えのある人だった。
「あ、フィデルさん」
「おや、まいど。いつぞやはどうも」
以前屋敷のスタッフの応募に来た人だ。
残念ながら他に優秀な人が多すぎて不採用になったけど。
ちょっとばつが悪いな、と思ったけど、意外とフィデルさんはにこやかだった。
「いやぁ、あれから皆様にはご贔屓いただいて、よくうちに買いに来てくれるんで助かってるんですよ」
おー、さすがジャービスさんたちだ。そのへん抜かりないな。
「で、本日はどんなものがご入用ですか?」
グーファスのは大きくて難しそうだから後回しにしてまずはユーリアに説明してもらう。
「そのサイズでしたら最近多く仕入れるようにしましたので、たくさんありますよ。女性用に胸のところを余裕もたせているのもあります」
残念ながらレミュエーラはそのへん豊かではなかった。
というか見た目も大きさもユーリアぐらいだし、これからなのかもしれない。
俺に服のセンスはないので、ユーリアに候補の中から二つ決めてもらった。
二つから決めかねていたようなのでどっちも買おうということにした。どうせ着替えはあったほうがいいしね。
次にグーファスのサイズを言って探してもらう。
「ずいぶん大きいですね。戦士かなにかですか?」
「いえ、鍛冶屋だったと聞いています」
「あーなるほど、鍛冶屋なら体格が良くても不思議ではありませんな」
鍛冶屋でしたら、と出てきたのが同じ鍛冶屋から買った古着だそうだ。
丈夫な上に空気をよく通して暑いところでも良い感じ、だそうだ。
ただその特殊性とサイズからずっと売れ残っていたそうで、だいぶ安くしてもらった。
鍛冶仕事するときはそれでいいだろうけど、通常時寒いのは困るだろうな、と思って、もう一着探してもらった。
幸い普通の服もあったのでそれも売ってもらう。レミュエーラも二着分買ったし。
またこんな機会あるかどうか分からないので、俺とユーリアの着替えも探してもらった。本人がいるのでサイズは合わせやすいし、手頃な値段で良いものが買えた。
「いつもたくさんありがとうございます」
「いえいえ、こちらも助かってますから」
「まいどあり!」
バックパックに入り切らなくなったので両手がふさがってしまった。一度屋敷に戻ろう。
屋敷に荷物を置きに戻ると、屋敷に木工職人のカムシンさんが来ていた。
完成した二段ベッドを持ってきて、簡易ベッドの点検をしてくれるようだ。
職人さんたちがベッドを運んでいる。
ちょうどよいのでここで聞いてみよう。
「カムシンさん、ちょっと手のこんだものの相談があるのですが」
「はい、なんでしょう?」
「えっとですね、説明に困るんですが、大型の鳥の止まり木がほしいんですよ」
「大型の鳥の止まり木? 鷲でも飼うのですか?」
「ええ、そんなところかも。鷲より大きいと思いますが」
「そんなに大きいのでしたらバランスをちゃんと取らないと厳しいですな。あと足回り、どれぐらいの太さが握りやすいか、というのも分からないと。屋内用なんですよね?」
「はい、鳥が止まってそこで寝られるようなものが欲しいんです」
「その鳥を見れればだいたいのものは用意できると思いますが」
「エテルナ・ヌイにいるのでそれは難しいですね」
それに一般の町人であるカムシンさんに異種族に分類されてしまうレミュエーラを見せるのは怖いな。
「なれば先程も言った止まり木の太さに関係するので足のサイズと、あと重さですね。鳥の重さをだいたいでいいので分かれば用意できるかもしれません。鷹程度の大きさでしたら作った経験はあるので」
おーさすが貴族御用達だ。そんなニッチなのも作ったことがあるのか。
「分かりました。参考までに聞いただけでしたので、そのへん詳細に調べていませんでした。また見てきますので、その時お願いするかもです」
「はい、バランスさえ見れば入門したての職人でも作れると思うので、手は空けれると思いますから」
「この服はフィデルさんのところで買ったのですか?」
シムーンさんが俺たちが買ってきた服を見て聞いてきた。
「ええ、よくおわかりで」
「フィデルさんのところの古着はちゃんと洗ってあるし、補修されてますからね。彼は古着屋としてすごく優秀ですよ」
見ただけで分かるレベルなのか。偶然だったけど良いところで買えて良かった。それに贔屓してたのも理由があったようだ。
「こちらは私が畳んでおきますよ」
「ありがとうございます、おまかせしていいですか」
「ええ、もちろん」
「ちょっと俺は防具屋に行くけど、ユーリアはどうする?」
「なにかうのー?」
「ああ、盾が欲しくてね。せっかく片手剣だからもう片方で守れるようになりたいからね」
「ふーん、ついていくー」
ユーリアはあまり興味なさそうだけどついてくるようだ。実際防具屋の位置を知らないから助かる。
ユーリアに道案内してもらって防具屋に着いた。
店の中には様々な防具が陳列してあった。主に革鎧だが、ところどころ金属鎧も飾ってある。
革鎧かー、本当なら着ておいたほうがいいんだろうけど、なぁ。
「いらっしゃい、なにかお探しですか?」
出てきたのは体格のいいおじさん、しかし優しげな喋り方だ。
「はい、盾を探してるんですが」
「盾ですか。こちららへんになりますね」
盾が置いてあるところまで案内してもらった。
「どの様な盾をご所望で?」
「あー、いえ、使ってる武器が片手剣なので盾も持てたらいいなーって感じなだけでして」
「なるほど、何を防ぎたい盾ですか? 相手の武器? 飛び道具?」
「うーん、そこまで深く考えてなかったなー」
「でしたら取り回しが良いラウンドシールドなんかがいいかもしれませんね。バックラーっぽくも使えますし、シールドバッシュにも使えますし」
「これなんかは盾ーって感じですけど」
「これはカイトシールドですね。基本的に馬上用ですよ」
「そうですかー。それじゃラウンドシールドかな。金属製のってあるんですか?」
「ええ、ありますけど重いので初心者の方にはお勧めできませんね。まずは木製でいいんじゃないでしょうか? うちのは木製の中でもかなり硬い良い木を使ってますので、金属製並とは言いませんが、結構な耐久力があると自負しております」
「じゃあそれ貰えますか?」
「わたしはこれがいいー」
「おやお嬢さんも買っていただけるのですか? それはバックラーですね。お嬢さんが使うにはちょうどいいかもしれません。……飛び道具相手じゃないですよね?」
「ええ、今のところは」
「なら軽いですし、お勧めできます。バッシュはしないでしょうし」
「バックラーではシールドバッシュはできないんですか?」
「いえ、できないことはないですが、バックラーはあまり耐久力も重さもないので、威力が低く効果的とは言えないので」
「そうなんですね、まあとりあえずこの二つをいただけますか?」
「分かりました。ありがとうございます。二つも買っていただけたのでバックラー用の吊り下げ金具をおまけさせていただきますね。お嬢さんでも腰辺りにつけて活動できるかと」
「ラウンドシールドの、はないですよね?」
「ええ、さすがにラウンドシールドは背負用のベルトになりますね」
仕方ないか。まあ俺はアポーツで呼ぶのが基本になるだろうからいいけど。
小手とか足の防具とかも見てみたけど、正直良くわからないから買うのはやめておいた。
ケリスさんあたりに聞いてからのほうがいいと思うし。
とりあえずシールドだけ買って店を出た。安かったのかどうかは分からないけど、店員さんが親切だったのでここはいいな。また防具買う時はここに来よう。
他に買っておいたほうがいいものはあるかな。ということで広場を覗いてみた。
タオルがたくさん売っていたのでそれも買っておいた。
屋敷でも使えるだろうし、たくさんあって困るものでもないだろうから。
バスタオルみたいな大きな物もあったのは良かった。
ユーリアと二人してたくさんのタオルを抱えて屋敷に戻った。