役目
屋敷に戻ると、皆が俺たちが帰ってくるのを待っていたようだ。
申し訳ない。
さっそく俺もテーブルについて夕食をいただく。
ユーリアは終始ニコニコしている。あまり子どもらしいことさせてやれてないからなぁ。たまにはこういう時間も作るべきか。
同年代同性の友達って重要だよな。
今度こっちに泊まるのもありかもな。
俺らの部屋もだんだん整ってきてるみたいだし。
まー今日は小屋に帰ろう。
食事を終えた後、ユーリアやクレイトさんと一緒に二階に上がる。
クレイトさんは子どもたちが食事中の時にスタッフと話をしていた。
モーガンさんやファーガソンさんと。
モーガンさんはアレックスさんと無理に変わってもらったからその件だろうけどファーガソンさんはなんだったんだろう?
まあ話すこととかいっぱいありそうだけどさ。
最近色々起こって時間ないからなぁ。いろいろと後回しにしすぎてる。
小屋に戻った。しかし寝るのはまだ早い時間だったので、アポーツの練習をすることにした。
剣を置く場所を決めておけば、剣を持ってない時になにかあってもアポーツで呼び寄せればいいので、自分の部屋の中で剣の置き場所を決めて、それを広間から呼び寄せてみた。
アポーツを唱えた瞬間、剣を持っていた。おお、これは便利だ。
これで手ぶらでいてもいいだろう。
盾を持ったら盾も引き寄せるようにしないとな。
別対象を連続使用なのかまとめて出来るのか、調べてみよう。
台所に行ってナイフとフォークを一緒にして重ねて置いた。それを一度のアポーツで両方呼べるかやってみた。
アポーツ!
成功、両方呼び出せた。
よし、今度はナイフとフォークを近くだが重ねず置いて、呼び寄せてみよう。
アポーツ!
失敗、ナイフだけ呼べた。
続いてアポーツ。フォークも呼べた。
重ねていれば一度に呼べるようだけどそうでなければ二回唱えれば呼べるって感じか。
魔力はあまり使わないようだし、これは便利だ。そうだポーションも置いておこう。
ユーリアの部屋に行ってポーションを分けてもらった。とりあえず五本。一気に五本も使い切ってしまうことはないだろう。ポーションを棚に置いておく。これでいつ怪我してもポーションを呼べばだいたい大丈夫だろう。
魔力を使ったせいか眠くなってきた。明日も忙しそうだし、寝るとしよう。
次の日、目覚めてからすぐに朝食を作ってからユーリアを起こした。たまには俺がやらないとな。二人で食べてからクレイトさんと三人でエテルナ・ヌイへ向かう。
エテルナ・ヌイにつくと、すでに南門にドゥーアさんとケリスさんに加えてグーファスやレミュエーラまで出迎えてくれた。
『今日はドゥーアさんに頼んで二人もエテルナ・ヌイの外へ出てもらったんだ』
なぜですか?
『エテルナ・ヌイではユーリアが結界をはってるからね。呪い系の魔法は効かないからさ』
ああ、なるほど。そういうことですか。保険は大事ですよね。
「申し訳ないが君たちに魔法をかけさせてもらうよ」
グーファスが明らかに動揺している。動揺して怯えているグーファスの代わりにレミュエーラが聞き返した。
「どんな魔法? グーファスはガディスたちから様々な魔法やらなにやらをされて、すっかりそれを怖がるようになっちゃったみたいで……」
「そうか、それは気の毒だが、これは受けてもらわないとこちらも困るんでね。なに、ちゃんとしてれば害はないよ」
「どういったものか説明してくれない?」
「もちろんするとも。ギアスの魔法だ。ユーリアおよびリュウトに対して一切危害を加えてはならない、という制約をかけさせてもらう」
「降ったあたいたちに生き方まで与えてくれたのだからそんなことはしないよ」
「そうだと信じたい。が、保険だね。君たちも知らない理由で君たちが暴れ出さない、という保証がないからね。だからこれをかけて全面的に信用したいんだよ」
「そうだね。あたいたちも自分に何されてるか分からないし、その方がいいかもしれない。グーファスいいよね?」
グーファスは見るからに怖がっているが確かに頷いた。
「制約を破らなければ何も起きないからね。逆を言えばもし破ったら全身に耐え難い苦痛が走ることになる。そのため動けなくなるだろう。しばらくじっとして体の力を抜いておくれ」
クレイトさんが呪文を唱え始める。グーファスは怯えているので力を抜くことは出来てなさそうだけど大丈夫かな?
「よし、かけ終わったよ。どこもおかしいところはないだろう? もう怖がらなくていいよ」
そう言われても体が覚えてしまっている恐怖はなかなか取れないのだろう。
体は震えている。
しかしその目はしっかりとクレイトさんの方を向いていた。その目に怯えも怒りも見えない。
多分受け入れてくれたんだろう。
レミュエーラは特に何もなく魔法を受けた。
「ほんとに何も起こらないのね」
拍子抜けすらしてる感じだ。彼女らが今までどういった境遇で生きてきたのか分かってしまう感じだな。
あのネクロマンサーたちが自滅してくれて本当に良かった。
「すまなかったね、けど必要なことだったんでね」
ようやく落ち着いてきたのかグーファスが立ち上がった。
「はい、理解できます。こちらこそ申し訳ない……」
エテルナ・ヌイに入りながらクレイトさんが話しかける。
「ところで鍛冶の施設はどうだったかな?」
「はい、施設は申し分ないと思いますが、やはり道具がないですね」
「今度持ってきたいから何がほしいか言ってくれないかな」
グーファスがいろいろな道具の名前を上げていく。
「鍛冶屋が必要と思う道具全部といえばだいたい通じると思います。あと薪が欲しいです。今後は自分で薪を調達しようと思いますので、最初だけほしいです」
「ほう、どうやって調達するんだい?」
「はい、ここの西から出れば森がすぐ近くにありますので、まずは斧を作って木々を調達しようと思います。ただ長時間乾燥させなければ薪にはならないので最初は薪も用意してほしいです」
「なるほど、その作る薪は鍛冶仕事以外にも使えるものなのかな?」
「はい、普通の薪です。余分に作ったほうがよければ作らせてもらいます」
「そうだね、僕たちの住む小屋の薪も調達できればだいぶと助かるからね。今までは全部町から持ってきていたからね」
「たしかにそれは大変です。俺の最初の役目が出来て嬉しいです」
「あたいは? あたいのやることは?」
「レミュエーラは森で動物か鳥でも狩ってほしい。その爪でもいけるだろ? なるべくクレイトさんに頼らずに生きていけるようになりたい」
「つめでも小動物ならいけるだろうけど、鹿とかの大型になると武器はほしいね。弓は使ったことないけど使えるかな?」
「ギアスもかけたし、レミュエーラが望むなら弓でもナイフでも槍でも許可するよ。弓も槍もリザードマンが使っていたものがまだ何本かあるはずだ。矢が足りないかな?」
「鍛冶場の状態が整いましたら矢は生産できますので、最初だけ用意してほしいです。あと素材の羽とか接着剤とかもさすがに用意できませんので……」
「そのへんも鍛冶屋に聞けば分かるよね? 矢の生産のための素材だね。それとセイレーンは弓の名手と聞いたことがある。練習すればすぐうまくなるんじゃないかね?」
いつも俺たちが休憩に使う建物までついた。皆で入る。
「レミュエーラには狩り以外にもエテルナ・ヌイ周辺の警戒を頼みたい。今はゴーストたちに手分けしてやってもらっているが、ゴーストは高く飛べないし移動が遅いのでね」
「あたいにもやることできた! わかった、警戒する! けどもし何かあったら誰に報告すればいい?」
「ドゥーア殿かケリス殿でいいよ。僕が近くにいる時は僕に直接でも構わないけどね」
「わかった!」
「ではリュウト、グーファスやレミュエーラから必要なものを聞いておいてくれ。僕たちはいつものをしてくるよ、ユーリア行こうか」
「分かりました。聞いておきます」
「おとーさん、いこー」
クレイトさんとユーリア、そしてケリスさんが出ていった。いつものとは結界や封印の確認とお祈りだな。
今日は時間がないから手分けしないとな。
「さて、そういうことですので、今までに話したもの以外で欲しいものはありますか?」
「当面の食料があればいいかな?」
「そういえばレミュエーラは人間と同じものでいいんですか? 食べ物」
「うん、特に食べれないものはないよ」
なるほど。あ、そういえば。
「寝る時どうしているんですか? ベッドとかあったほうがいいですよね?」
「俺たちはいつも野宿でそのまま寝ていたから建物の中で寝れるだけましです。椅子とテーブルがあれば人間らしいかな?」
「あーじゃあせめて毛布とか用意しますよ。ベッドもあったほうが良いですよね。そういやレミュエーラはどうやって寝てるんですか?」
「今までは木の上でとまって寝てた。昨日は床にしゃがんで寝た」
「どういうのがあれば嬉しいです?」
「そうねー、建物の中でも止まり木があると嬉しいかな。落ち着かないのよ、地べたに立ってるのって」
「椅子代わりの止まり木、って感じですか?」
「そうだね、ずっとそこにとまっていられるものがあったらそこで寝るかも」
「なるほど、すぐに用意できるかは微妙ですが、考慮してみますよ」
「大きなものは寝具に毛布、テーブルと椅子、出来れば止まり木。小さいのは食器などですね」
「そうですね、ともかく鍛冶場が可動したら自作していきますので、それを優先していただければ」
「分かりました。鍛冶場に必要な道具とその素材、ですね」
「コークスに耐えられる炉があったのでコークスもあると嬉しいです。素材以外にも燃料ですね。薪以外にもコークスや石炭、木炭などが欲しいです。それらがあれば作業が楽になるし、質も良くなるので。けど、どれも今の環境では自作は難しいので」
「ええ、そうですよね。近くの町ラカハイは鉱山と鍛冶の町なのでそのへんは安く手に入ると思います」
「そうなんですね。俺には今ここがどのへんなのかすら分からないので」